St.Valentineday

扉を開けると、お菓子独特の甘い香りが鼻腔をくすぐった。


「シン?」


どうかしましたかと、室内にいたレイに問いかけられて、ようやくシンは我に返る。


「あなたが探していた本を見つけたので、持って来ました」
「ああ、わざわざすみません」


僕が探さなきゃいけなかったのにと、言いながら歩み寄ってきたレイにシンは苦笑した。


「感謝されるほどのことでは……」


別の本を探しに図書館へ行き、偶然見つけたのだと告げれば、レイは首を左右に振ってみせる。


「それなら見つけたことだけを教えてくれてもよかったはずでしょう? わざわざ持って来てもらったんですから、お礼くらい言わせてください」
「レイ……」
「あ、そうだ。ちょっと待っていてくださいね」


困惑気味に名を呼んだシンにそう言って、
レイはテーブルの上に置かれていた複数の箱の中から一つを手に取った。


「これは?」


いわゆるプレゼント包装をされた箱を差し出されて、首を傾げる。そんなシンの反応を見て、レイは目を瞬かせた。


「知らないんですか? 地上では今日、バレンタインデーという行事が行われているんですよ」
「ああ、なるほど……それでですか」


レイの言葉に合点がいき、箱を受け取る。行事自体は知っていたので、おそらく中身はチョコレートだろうと思いながら箱を眺めていたシンだったが、疑問が生じて首を傾げた。
バレンタインデーという行事でチョコレートを渡す対象は、確か恋人ではなかったか?

レイと自分は少年天使の頃からの友人であり、間違っても恋人同士ではない。彼自身に贈るべき対象がいるというのに、自分が貰ってしまっていいのだろうか?


(もしやルカと喧嘩をしているのでしょうか? そんな話は聞いていないのですが……)


勘ぐるような眼差しを向けるシンに気がついたのか、レイは首を傾げた。


「あ、もしかして自分が貰っていいのかなぁとか思ってます?」
「……察しがいいですね」


問いかけてきたレイに素直にそう返せば、「顔にそう書いてありますよ」と悪戯っ子のように笑われた。
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