天界はエリアによって寒暖の差が激しく、基本的に四季は存在しない。それでも、肌寒いと感じる時期がある。

天空城に移り住んでしばらくたった頃、まさにそれが到来した。


(こういう時期は広間で過ごすに限りますね)


そう思ってレイは籠を手に、広間へと続く扉を開けた。そしてその場の光景に一瞬言葉を失う。

右を見ても左を見ても猫だらけ。総勢二十二匹の猫が広間を陣取っていた。


「……ガイですね」


全くもうっ……と、苛立たしげに口にして周囲を見回すが、当人の姿はない。どこへ行ったのだろうと首を傾げると、一匹が鳴いてこちらへ近寄ってきた。
鳥類の長ではあるが、それでも身近にいるガイの影響柄、眷族ほどではないが猫語を介することができる。

その猫曰く、部屋が寒かったのでガイと共に全員でここに移動してきたのだが、そこで鉢合わせしたゴウに『寒いと感じるのは修行が足りないからだ』と言われてしまい、ガイはそのままゴウに引きずられてどこかへ出かけてしまったのだそうだ。


「あ……そうですか」


もしかしなくても、二人の行き先は裏山なのだろう。納得するとともに、ガイよりも先に広間へ下りてこなくてよかったとレイは思った。


「ちょっとそこ、空けてもらえます?」


ソファの上で寝そべっている数匹告げると、了解したのか退いてくれた。そこに腰かけて籠の中から作業途中の編み物を取り出す。


「さてと、せめてこの一枚は今日中に終わらせないと……」


そう言って未完成のそれを完成させるべく、レイは作業に集中した。
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