猫の湯たんぽ

「よーし、異常なし……っと」


そう言って周囲を見回し、ガイはその場に腰を下ろす。その後ろでは普段行動を共にしている猫達が、各自楽な姿勢を取っていた。
そんな子分達を振り返り、ガイは満面の笑顔を向ける。


「いや~~、今日も天界は平和だなあ」


日課の見回りも済んだしと、そう言って頭の後ろで指を組むガイに猫達は一鳴きして同意した。
それに気を良くしたガイは空へと視線を向ける。


「さーて、このあと何すっかな……」


普段ならマヤと遊ぶところだが、明日はキラに付き合う約束をしていると昨日別れ際に告げられていたので無理。
レイのところへ行けば何か食べさせてくれるだろうが、扱き使われるのは目に見えている。
シンは読書中だろうから邪魔をすることになるので気が引ける……と、誰のところへ行くのが妥当かを、相手の顔を浮かべながら検討した。


「ユダとルカは暇してないだろうし、だからって女神の鏡はこの間見たばっかだし……一人で見てもつまんねーし」


どうすっかな……と、独りごちると、子分の一匹が鳴いて提案した。その提案にガイは目を瞬かせる。


「へ? ゴウのとこ??」


提案を言葉にして返せば素直に頷かれた。その反応にガイは頭を掻く。


「いやー、ちょっとそれは勘弁かも……」


絶対、鍛錬の相手をさせられるに決まっていると言いかけて、ガイは今日一度もゴウの姿を見ていないことに気が付いた。

見回りのルートには裏山も含まれていて、大抵そこで鍛錬をしているゴウから「お前も飽きないな」と呆れた顔をして笑われるのだが、それがなかったことを唐突に思い出す。


「いっつも鍛錬してて、いなかった日なんて見回り始めてから一日もなかったのに……」


言葉にすれば、今まで平和に見えた天界が、段々と不穏なものに見えてきた。なんとなくだが、嫌な予感もする。


「お前ら、ゴウの家行くぞ!!」


告げるなりガイは立ち上がると、子分達の応えを聞かずにゴウの家へと駆けて行った。
1/5ページ