自分に似た花

そのエリアは太陽の花畑と呼ばれていた。
太陽にも似た花が群生しているからだというのが通説だが、天界一このエリアの気温が高いのはその花自体が熱を帯びているからだという説もある。
馬鹿馬鹿しい後者のそれが真実ではないかと、レイは幼い頃から信じて疑いもしていなかった。


(だって、こんなに暑いんですから……)


うんざりとした顔で満開の花々を眺めながらそう思い、さっさと目的の物を手にして帰ろうと、レイは花畑に降り立ってそれを探して歩き回った。
が、どんなに探しても、それらしい物は見つからない。


「もしかしなくても今、種が採れる時期ではないんですかね……」


見事なまでに咲き誇る花を眺めて呟き、レイは額に浮かぶ汗を拭った。
だからと言って持って帰らなかったらあのガイになんと言われるか分かったものではない。
きっと種のできる時期でもないのに飛んで行った自分を馬鹿にするに決まっている。

さてどうしようかと半ば途方に暮れていると、一羽の小鳥がやって来てレイの肩に舞い降りた。


「? どうしたんです?」


仲間とはぐれたのかと、そう思って問いかけた声は、続いた羽ばたきに掻き消された。


「レイ」


舞い降りてきた来訪者の声にレイは驚く。


「ルカ、どうしてここに?」
「鍛錬から戻った途端にガイから、お前が太陽の花畑へ飛んで行ったと言われた」
「――」


今日はユダと鍛錬の約束をしたと朝から出かけていたはずなのにと、問いかけるレイにルカは答える。
その返答に、よりによってルカの耳に入るとは思ってもいなかったレイは言葉を失った。それに構わずルカは言葉を続ける。


「すごい剣幕で怒鳴ったかと思うとすっ飛んで行ったと聞いたものだから、どうかしたのかと心配で……」


ここへ来た経緯を口にするルカが口にした『心配』という単語を聞き止めて、レイは慌てふためいた。


「そ、そんな心配なんて……別に怒ってもいませんし、このエリアは高温だということを除けば安全地帯ですし。
そもそもの原因はガイにあるんですから、あなたが心配することなんて何も……」


言い募りながら、それでもルカが自分のことを案じてくれていたことが嬉しくて仕方がない。


「そうなのか? 原因とは思えない狼狽ぶりだったが」
「だって……」


釈然としないらしいルカに、レイはそう言って自分がここに来た経緯を語ってみせた。
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