3.薄桃色の頬にくちづけを

シンの家は彼自身が所有する物のせいなのか、どこか書物独特の匂いが漂っているのだが、招かれた家は珍しく、甘い香りが漂っていた。


「? いかがされましたか、ユダ?」


入ってこないことに気がついたのか、先に足を踏み入れたシンに怪訝な声で名を呼ばれて、ようやく我に返った。


「いや、すまない……甘い香りがするから」
「香り、ですか?」


反芻するシンに、大きく頷く。


「何か、果実のような……」
「……もしや、こちらのことですか?」


覚えがあるのか、そう言ってシンは卓上に置かれていた籠を持ってくる。
中を覗くと、そこには薄桃色の果実があった。
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