授業開始のチャイムと同時クラスに入るとA組生徒はピシッと自分の席についていた。いつも通り授業を進めていく。チョークで黒板に文字を書く音、シャーペンでノートをとる音。問いに答える生徒たちの声。順調に授業が進んでいくが中には授業についていけずショートしている奴もいて。

　軽くため息をついてそのまま授業を進めていくことにした。わざわざ意識を戻してやるなんて俺は優しい先生ではない。

「じゃあ次、問題プリント配るから問いていけいけ。制限時間は15分だ。」

プリントを順に配っていく。座席の前列の青山・尾白・障子…そして花巻。

花巻にその列の分のプリントを渡す時思わず手が止まった。優等生だと思っていたこの女子生徒に昨日告白なるものをされたのだ。いちいちドキドキするような年齢でも性格でもないが。

「先生？」

プリントを受け取りながら手を止めた俺に不思議そうに首をかしげる花巻。

おいおい、アイドルみたいな面してるなこいつ。

「いや、なんでもない。」
「そう？」

言いながら後ろの席にスムーズに回していく花巻は昨日のことはなかったかのような表情だ。やはりからかわれていたのか。最近の女子高生はおっかないね。

またカリカリと問題を解く音が響く。教室中を見回すと頭を抱える上鳴や芦戸の姿が目立っていた。あいつら次の中間は大丈夫だろうか。教師というのは億劫なものだ。
先先のスケジュールを考えては不安を感じ、生徒たちの個性を伸ばし成長させなくてはいけないとは、巷でも言われているが過酷な仕事だ(ヒーロー業とは違う意味で)。

もう一度教室内の様子を見まわしてから寝袋に入ろうとすると、花巻が何か言いたげにこちらを見つめていた。
『なんだ』と目くばせをするとまた昨日のような笑顔を浮かべ、周りに口元を見えないよう手で隠し口パクで伝え来た。

『せ・ん・せ・い・の・こ・と・が・だ・い・す・き・だ・よ』

伝えた事に満足そうに笑う花巻に呆れながら
『あ・ほ・か』と返した俺ももう少しやりようがあった気がする。