結婚してみる
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彼女のタブレットのメモを元に、時には僕も異を唱えながら話し合いは進んでいった。
結婚式は挙げない事。
(写真だけは撮るらしい)
彼女が来月頭には杜王町の僕の家に越してくる事。
(あと2週間しかない)
婚姻届は11月22日に提出する事。
(婚姻届は彼女が貰ってきていたのでさっき書いた)
家事は彼女がいる時は彼女がメインでやる事。
(これは散々揉めた末に間を取った)
そして、スキンシップは有りという事、などなど。
意外な事に、どうやら彼女は疲れた時には人に甘えたいらしい。
それを聞いた時はどんな風に甘えるのか想像してみたが、彼女が誰かに甘えるなんて、想像つかなかった。
彼女を読んだ事があるといっても、全てに目を通しているわけではない。
彼女の事は本当に友人だと思っていたから、都度必要な箇所だけを読み、その他は見ないようにしていたのだ。
ある程度決まり一区切りついたところで、SNS用に婚姻届の写真を撮りたいと言い写真を撮り始めた彼女を放って日本酒を嗜んでいたら、不意打ちで何枚か写真を撮られた。「おい」と制止しようとしたのだが「これもSNSに上げていい?」と言われたので仕方なく了承した。SNSに上げる用は彼女が慎重に選別するだろうし、特段問題はないか、と。
彼女があれを悪用する事や扱いを間違えるなんて事は、まずないだろうと、意識を日本酒へと戻した。
「ねぇ、キスや性行為については?」
スマートフォンを仕舞いながら、徐ろに彼女がそう口にした。確かに、これは間違いなく話しておかねばならない話題だろう。
スキンシップについては"有り"だとさっき決まった。彼女の希望ではあったが、普通の夫婦ならば当たり前にするからだ。
しかしその理論でいくとキスやセックスだってそれに該当してしまうが、僕らは元々友人だったのだ。気持ちの問題で、できるかできないか、という話になってくる。
「私は……丁寧に扱ってくれるなら、露伴ともできるかな。」
「へぇ。その言い方…君、男性経験があるのか。いつだ?相手は?」
「そういうのはあとででいいじゃない。勝手に読んで。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。僕も、君とはキスも性行為もできる。むしろ嬉しいくらいだ。君、かわいいからな。」
「フ…ありがと。私も露伴の顔、好きよ。」
「あぁ、ありがとう。」
そもそも、好きじゃない顔の奴と結婚なんて無理だろう。毎日顔を合わせるなら、好きな顔の方がいい。
それに、実はオフモードの彼女の、何を考えているか分からない表情も結構好きだったりする。たまに腹が立ったりはするのだが。
「キスはしたい時にする。拒否も可。性行為に関しては…私がドラマの予定がある期間は帰れないかもしれないけど、月に1から2回、でどうかな?」
「今のところはそれで構わんが…一緒に暮らして、もっとしたくなった場合はどうする?」
「その時は、交渉して。その後で、回数については相談しましょう。私もそうするから。」
彼女の返答はよくできている。もしかしたら、タブレットにメモを取りながら脳内では会話のシミュレーションをしたのかもしれない。つくづく、仕事ができすぎる奴だな。
「あら、もうこんな時間?楽しくて、つい話しすぎちゃった。」
「本当だな。僕はすぐ近くのホテルを取ってるから、僕の分のタクシーは今日は呼ばなくていい。」
「そう。気をつけて帰ってね。今日はお酒も結構飲んでたみたいだし、また明日以降に連絡するね。」
「あぁ、君も気をつけて帰れよ、なまえ。」
今回もお会計はこちらが出した。彼女は眉間に皺を寄せ「ちょっと露伴?」と制止してきたのだが「君は引っ越し費用を払うだろ」と言ったら渋々ではあったが納得し財布を鞄へとしまった。
「あっ。」
店を出た途端に「忘れてた…」と少し焦ったような彼女。彼女でも忘れる事があるみたいで、少し親近感が湧いた。ところで、一体何を忘れていたというのか。
「結婚といえば、指輪でしょ?婚姻届は覚えてたのに!」
「あぁ、確かにな。」
言われてみればそうだ。
式は挙げない事に決まったが、それでも指輪はあった方がいい。
「夜でもやってるそういう店、予約しとけ。君、金曜夜も時間あるんだろ?」
「!いいの?」
「取材も兼ねて行くから構わん。」
「ありがとう…!」
僕の返答に、彼女は心底ホッとしたようだった。きっと急ぎで欲しかったのだろう。彼女の中では既にスケジュールが組まれているに違いないが、それはあとで彼女を読めば分かる事だし、今はいいか。
話に区切りがついたところで、ちょうどタクシーがやってきた。
「途中まで乗っていく?」と聞く彼女に「いや、本当に近くだから必要ない」と断って、いよいよ今日はこれでお開きになった。
「おやすみ。気をつけて帰れよ、なまえ。」
「うん。露伴も気をつけて。おやすみ。」
"おやすみ"。いつも何気なく口にしていた言葉だったが、結婚したら今のように別れ際ではなく、同じ家に帰り、夜、ベッドの中で交わすのだろうか。それも毎日。そう考えると、今までの日常とは何もかもが変わってしまいそうだと、少しばかり楽しみになってきた。
次は3日後の金曜日。彼女に会う事ですら楽しみにしている自分が少し意外ではあったが、これは結婚というものを前向きに捉え始めているいい傾向なのかもしれない。なんて、少し肌寒いホテルに向かう道でぼんやりと考えた。