動かない
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
7月12日(月)
「仗助くん、21日って何か予定ある?もしお休みなら、手伝ってほしい事があるの。」
何度も頼み事をしてしまって申し訳ないが、次のオフは岸辺邸の近くの家にお引越しの予定が入った。週に1度しか帰らないのでそんなに立派な家具などは揃えなくとも良いが、いくらかは重い家具などを買わなくてはならない。それの搬入に引越し業者を使うと目立ってしまうので、できる事なら少人数で、静かに終わらせたいのだ。
「あー、まぁ、良いっすよ。」
わけを知りたいだろうに何も聞かないでいてくれる彼の優しさに、今は甘えさせてもらおう。全てが解決したら、露伴は笑い話として聞いてくれるだろうか。
7月21日(水)
「⋯⋯え、⋯本当になまえさん、ッスか⋯?」
「しー。仗助くんも億泰くんも、今日はありがとね。これ、バイト代。」
夜のうちに作業ができれば"アイツ"にバレずに済むだろうからと、1週間かけて事務所のバンに購入した家具を積んで自分でここまで運転してきた。今日もなかなかのハードスケジュールだったが、今日のところは車から荷物を下ろしてもらって、朝になったら家具の組み立てもしてもらう事になっている。本当、仗助くんには頭が上がらない。
念には念を入れて変装もバッチリしてきたが、2人の反応を見るにひと目でバレる事はなさそうで安心した。
「なまえさん、これ、家の鍵っス。電気もガスも水道も、バッチリっすよ。」
「仗助くん⋯!本当にありがとう。」
「いやぁ⋯なまえさんのその笑顔が見られるだけで、お易い御用ッスよ⋯。」
「仗助ェ⋯、羨ましいぜ⋯。」
引渡しまで仗助くんに頼んでしまって、申し訳ない。今度焼き肉でもご馳走しようかな、と言うと「マジっすか!俺めちゃめちゃ食いますからね!」と分かりやすく喜んでくれて嬉しかった。
「2人とも、今日はありがとう。明日もよろしくね。」
2人のおかげで、なかなか早く荷物を降ろす事ができた。明日は朝から部屋の拭き掃除をするから、もう寝よう。
先に掃除を済ませた寝室に布団を敷いて、シャワーを浴びて。何気なくカーテンの隙間から露伴のいる家の方を覗くと、人影が2人分。ハッとして慌てて、電気を消した。
「⋯⋯露伴⋯?⋯はッ⋯!」
その人影をじっと見ていると露伴の姿と、若い女の子だと分かった。玄関先でいくらか言葉を交わした後、あろう事か露伴の姿の"何か"は、その女の子の肩に腕を回して、そのまま家の中へと入っていってしまったではないか。
"アイツ"⋯!露伴の姿で、なんて事をしてくれるのだ⋯!あれが露伴本人であれば、今すぐ行って止めなくてはならない。が、あれは露伴ではない。触らぬ神に祟りなし、だ。別に何をしてもいいが、市民に疑いを向けられる行動だけはしないでほしいものだ。
翌日。起きてから露伴の家から人が出ていかないだろうかと、チラチラと気にしているが、未だ動きはない。もうすぐ昼だというのに、2人はまだ、家の中にいるのだろうか。ここまで明るくなってしまっては、あの女の子が出ていくにしても通行人に見られてしまうのではないかとヒヤヒヤする。
「なまえちゃん⋯、そんなに露伴の事が気になるなら、一緒に行くか?」
「あぁいや⋯、そういうんじゃないの。⋯露伴の邪魔は、したくないしね。」
仗助くんも億泰くんも、私が言った「露伴は今、仕事に行き詰まっているから、集中させてあげたいの」という言葉を信じている。それなのにこうもあちらを気にしていては、この子達が不審に思うのは無理もない。しっかりしなくては。
「しかし⋯露伴のために家まで借りるなんて、スゲーよなぁ。」
「私にはこれといって趣味はないし、稼ぎはほとんど貯金してたからけっこうあるし⋯露伴のためになるなら、これくらいなんて事ないよ。」
「⋯⋯なまえさん、俺らずーっと気になってるんスけど、露伴の奴のどこがいいんスか?」
今までテレビ局などで何度も聞かれてきた質問。露伴には"控えめにな"と言われていたためいつもは控えめに答えていたが⋯この子達には是非とも、全部聞いてもらいたい。
「露伴、顔が綺麗でしょ?」
「え?顔?」
「そう。男性の割に小顔だし、目も鼻の形も完璧で、口も小さくてかわいいの。」
「それは⋯、俺らには分かんねーっスわ⋯。」
「そうそう。俺らが聞きてーのは、露伴といてイライラしたり、息が詰まったりしねーのかってトコなんだよな。」
あぁ、内面の話か。そうとは知らず1人で露伴の顔の良さを語ってしまって、少し恥ずかしいかもしれない。いやでも、知ってほしかったな。
「そうね⋯そういうのは、ないよ。」
「⋯一度も?」
「うん、一度も。⋯君達の言いたい事は分かるよ。すごく。でもね、本当は露伴って、すごく優しい人なの。ただ少し、素直になれないだけで⋯。特に私といる時の露伴って、すごく優しい目をするの。⋯それに、仕事に対して真剣に向き合ってる姿はかっこよくて、尊敬してる。露伴って、変わってる人だけど間違った事は言わないでしょ?そういうところも、好きかなぁ。」
「⋯⋯⋯。」
えっ、何この空気。こんなに惚気けたのに、まさかの沈黙?もっと言いたい事はあったが、なんとなく言い出せなくて口を噤んだ。数秒間の沈黙のあと口を開いたのは仗助くんで、「はぁ⋯⋯やっぱ露伴のヤロー⋯ムカつくぜ⋯」だった。⋯なんで?
「⋯だな。チクショー⋯俺もなまえちゃんみたいな彼女欲しいぜ⋯!」
「私みたいな⋯、⋯そう?ありがと。」
「クッ⋯!やっぱカワイーぜ⋯!!」
露伴の話題はどこへやら。もう興味をなくした2人は作業へと戻って、いつも通りの軽口を言い合っている。なんだか、2人が羨ましい。こうして何でもない会話ができる事が。
露伴に、会いたいな⋯。
2人の前では言えない言葉は、心の内に留めておいた。
「本当にありがとう、2人とも。また今度、遊びに来てね。あ⋯、自由に出歩けるようになったら、だけどね。」
「おぅ。じゃーなーなまえちゃん。」
「また何かあったら、連絡下さいっス〜。」
お昼ご飯は出前を取って、家の中で済ませた。そもそも長く住む予定はないため家具は少ないので思っていたよりも早く予定が済んだ。随分殺風景だが、別に構わないだろう。
「あ⋯、露伴⋯!」
最後に軽く掃き掃除でも⋯とせっせと箒で履いていると、岸辺邸に動きがあった。
昨日の女の子の姿は見えないが、露伴が外へと出てきて、車でどこかへ走り去っていったのだ。
⋯家に入るには、きっと今しかない。
この前帰宅した時は、まさかこうなるとは予測していなかったため持ち出せなかったが、あの家には私の宝物が置いてある。私が撮った露伴の写真と、初めて露伴に貰ったサイン色紙だ。これだけはどうしても、自分の手元に置いておきたい。
あの女の子がいるかもしれない。それでも⋯いや、それなら尚更、あそこに残しておくわけにはいかない。
深呼吸を何度か繰り返し気持ちを落ち着かせて、意を決して岸辺邸へと歩を進めた。向かう先は岸辺邸の、2階の寝室だけだ。