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「結局、呪いの品の出処は不明か…。」
最後にヘブンズドアで花園かのんを読んだが、不自然に消えたページがあり呪いのリップと香水を彼女に渡した人物は分からずしまいだった。彼女はきっとその人物に、記憶を弄られたか、記憶を消されたのだろう、という結論に至った。
「…露伴…。」
「あぁ。どうした、なまえ。」
シャワーを浴びて、あとは寝るだけ。2人横並びでベッドに横になって、向かい合う。ジリジリとにじり寄ると露伴が腕を伸ばしてくれたので、有難く腕枕に収まった。露伴の胸に顔を押し付けて息を吸うと露伴の匂いがして、ひどく安心した。
「さっきは、何よりも露伴を安心させたくて気にならなかったんだけど…。…今になって、また、怖くなっちゃった…。」
「!…そうだな。すまない…。」
「ん……。」
子供みたいな事をしてるのは分かってる。それでも安心したくて、露伴の背中に腕を回して隙間を埋めて、露伴の温もりを感じたかった。もしかしたら二度と得ることができなかったかもしれない温もりを。
「露伴…、…露伴…。」
「大丈夫だ。ちゃんといる。」
私の腕の強さに合わせて、露伴もぎゅ、と抱きしめてくれる。露伴がいる。私の腕の中に、ちゃんと。
「あの時…君が震えていたのは分かっていたんだ…。それなのに、君に酷い言葉をかけて、置いていってしまって、すまない。」
「もう、謝らなくていいよ、露伴。」
「いいや、僕の気が済むまで、聞いてくれ。」
こんな露伴は、露伴らしくない。みんなが知る岸辺露伴の姿からも、私の前で見せる露伴の姿からも、ほど遠い。それほどに、露伴も精神的に参ってしまっているのだ。
「…露伴も、苦しかったんだよね…。」
「そう、だな…。君を苦しませているのが、自分自身だったんだ。操られていたとはいえ、な。…最悪の気分だったよ。」
「露伴…。……ごめんね、露伴。私いま、少し嬉しいと思っちゃった。」
自分の素直な気持ちを吐露すると、露伴の眉間には僅かに皺が寄る。無理もない。お互い苦しかったという話をしているのに嬉しいなんて、自分でもおかしいと思う。だけど確かに、私は露伴の話した事に喜びを感じたのだ。
「私、露伴と違ってヘブンズドアを使えないし、心も読めないから…露伴がどのくらい私の事を大切に思っているのか、分からないでしょう?でも、今の露伴の話を聞いたら、私が思っていたよりも、ものすごーーく愛されてるなって。…ふふ、ごめんね。」
「……君、そうやって僕に謝罪をさせない気か…?いや…、分かってる。君にそのつもりがない事は。…君が言った通り、僕は君をとても大事に思っている。君が、…そして僕自身が想像しているよりも、ずっとだ。そんな君を失うのが、僕が今、一番恐れている事だ。」
「え…、っと…。…嬉しい…。本当、私が思ってたよりもずっと、露伴は私の事、好きになってくれてたんだね…。」
いつもはプライドが邪魔をして愛の言葉なんてなかなか口にしてはくれない露伴が、プライドを捨てて全てを打ち明けてくれた。露伴の口から紡がれた言葉の全てが私を受け入れ、肯定し、愛してくれている事を示している。それももちろん嬉しいが、余す事なくそれを伝えてくれようとする露伴の心意気すらも嬉しくて、頬だけじゃなく耳まで、指先まで熱くさせる。
「ヘブンズドア。」
バラバラ、と肩の辺りが解ける音と感覚。じっと露伴を見つめると「…読んでほしいかと思ったんだが、違ったか?」と。露伴は私の事を、よく分かってる。
「ふふ、合ってる。…露伴には、全部読んでほしい。」
特に、幸せを感じているページは。
「君は読まなくても、いつも僕に対しては真っ直ぐで素直で、分かりやすいんだけどな…。結婚する前は、よくこれを隠せたものだよ。」
「私が何年、"実力派女優"をやってると思ってるの?中身を入れ替えるのなんて、簡単なんだから。」
「あぁ…そうじゃなければ、あの香水の香りにやられていただろうからな。君がいてくれて、良かったよ。」
「私も、露伴の役に立てて良かった。」
パタンと閉じられたのを確認し、露伴の首に腕を回す。
「しかし…、僕の泣き顔を見られたのは失敗だったな…。君の記憶から消しておきたいが…。」
「ダメ。露伴が私の前で、初めて涙を流したんだから。むしろ絶対に忘れないようにしてほしいくらい。」
「だろうな…君なら、そう言うと思った。」
ふふ、本当に消したいなら、私に何も言わずに今、消してしまえば良かったのに。それをしなかったのは、露伴の優しさで。
「ねぇ露伴。もっとキスして。露伴がどれだけ私を愛してるか、もっと教えて。」
私がどれだけ露伴を愛してるか、私もたくさん、教えてあげるから。
「なまえさん、おはようございます!」
「かのんちゃん、おはよう。」
「あの、なまえさんって仗助くんの連絡先ご存知ないですか!?この前は気づいたらいなくなっちゃってて、交換できなかったんです!」
例の事件から2日後、私よりもあとからやってきた花園かのんが現場入りしてすぐに私にフレンドリーに話しかけるので、現場内にいた人間の視線が一気に集まった。今日も私と一緒に来た露伴にももう目もくれないので、それも含めて周りには異様に映っているらしい。
「ごめんね。私、仗助くんの連絡先は知らないの。露伴が、仗助くんと交換するのはどうしてもダメだって。」
先日メモを見て仗助くんに電話をかけたから、履歴に番号は残っているが。わざわざ彼女に優しくする義理は、こちらにはない。
「そんなぁ…!それじゃあなまえさん、せめて仗助くんについて知ってる事、なんでもいいので教えてください!苗字とか、家族構成とかでも!」
「えぇ…?……うーんとね、…知らないね。」
思い返してみれば、私は仗助くんの事を何も知らない。知っている事といえば、康一くんと億泰くんのお友達で、私のファンであるという事だけ。前者は誰?だし、後者なんて恐ろしくて口にできない。「フッ…」と後ろから聞こえたのは露伴の漏れ出た笑い声で、私の返答が大層お気に召したらしい。私じゃなく露伴の知り合いなんだから、助け舟を出してくれても良いのに。
「そんな事あります〜!?なまえさん、どうして隠すんですか!」
そりゃ、仕事以外であなたに関わりたくないからに決まってる。
「隠すも何も、私が仗助くんに会ったのはこの前で3回目で、そんなに話した事ないもの。あの子はね、私じゃなくて露伴の知り合い。じゃ、私ヘアメイクがあるから。」
「おい、なまえ。」
呼び止める露伴をチラリと振り返ると"この厄介なのと2人きりにするなよ"と目で訴えてきていたが、助け舟を出してくれなかった仕返しだ。
「えぇ〜!最初に教えてくださいよ〜!露伴先生〜!」と花園かのんが露伴の腕を引っ張るのを見ても、もう何も感じない。今回の事件は、私の心にいくらか余裕が生まれた、結果オーライな出来事だったかもしれない。
「じゃあね、露伴。時間が空いたら、またこまめに帰るから。」
「あぁ。無理はするなよ。」
今日の分の撮影終了後。監督達に露伴の取材終了の旨を伝えた。
水面下で起こっていた事件も無事解決した事で、露伴が常にそばにいる必要がなくなったからだ。明日からは以前の生活に戻るわけだが……この数日間、四六時中一緒に過ごしていたため、普通に寂しい。本当は、ドラマの撮影が終わるまで毎日一緒にいたい。しかし、露伴だって同じ気持ちだと、分かっている。お互いの仕事のためには、両方を叶えるのは難しい事も。
「またこっちに住むのも、悪くないかもなァ…。」
「ふふ、ありがとう、露伴。そう言ってくれるだけで嬉しい。でも、私はあの家が好きだし、杜王町も好きだから。」
「そうか…。…そうだな。…あーあ、またあの家に一人か。君がいなくて寂しいから、犬でも飼うかな。」
「えっ本当?じゃあ来週のオフ、一緒にペットショップ行こう?」
「……冗談のつもりだったんだが…、まぁ、いいか。悪くないな。」
トントン拍子に話が進み、次の休みの予定が決まった。露伴とのデートの約束だ。犬を飼うのなら、部屋を掃除して少し、模様替えもしなくては。考えるだけで、既に楽しい。
「じゃあ、次の休みにな。」
「うん。またね。」
寂しさはあるが、もう不安はない。いつも私が乗って帰る新幹線に乗り込む露伴を、手を振って見送った。さぁ、ホテルに帰ったら、すぐに休もう。明日からも、撮影をがんばるために。