動かない
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「やっと静かになった。さ、露伴先生。続きをしましょう。」
「あぁ…。…、ウ、ッ…!」
「?…露伴先生?」
……一体どういうわけか、突然、露伴が花園かのんから顔を背け苦痛の表情を浮かべている。
私がたった今たどり着いた結論では、香水の香りを吸うと彼女の命令に背く事はできないはずなのだが…まさか、その推理が間違って……。
…いや、違う。きっと、間違ってなんかない。
あの露伴の書いたメモは、普段の露伴の筆跡よりもひどく崩れていた。いつも下描きなしでペン入れをしベタ塗りも1発で決める露伴に限って、普通の状態であんな筆跡になるわけがない。つまりあれを書いた時、露伴は普通じゃなかった。苦しかったのだ。あれは恐らく今みたいに、苦しみながら残したメモだったのだ。
「……すぅーーー………、……はぁーーー……。」
込み上げてくる怒りは、今は忘れろ。こんな時こそ、冷静になれ。頭を冷やせ。意識を、入れ替えろ。
「…すぅ……はぁ……。」
待ってて露伴。今度は私が、助けるからね。
「……露伴。」
「…えっ!?な、なんで…!?倒れててよ!!」
ぐっと両腕に力を込めて、立ち上がる。意識は変えた。もう、動ける。彼女に、私は止められない。私を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる。
「あなた…私の大切なものに手を出して、生きて帰さないから。」
「えっ、や……、こっち来ないで!来ないでってばー!!っ、きゃあ…!」
ズカズカと花園かのんとの距離を詰め、胸倉を掴んで、床に打ち捨てる。ドサ、という音には目もくれず、真っ直ぐに露伴を見据えた。やっと、手の届くところに来られた。
「苦しいね、露伴…。…あのね、今聞いても、露伴の心には響かないかもしれない。けど、聞いてほしいの。」
「…、……。」
「私ね、露伴に嫌われてても、大丈夫だよ。…本当だよ。露伴のヘブンズドアで、読んでもらってもいい。」
「……なぜ、だ……。」
露伴から返事が返ってきて、嬉しくて顔が綻ぶ。良かった。今の露伴は、私の話を聞いてくれるみたいだ。
「ふふ、もう一度露伴に好きになってもらえばいいもの。だって露伴、私といると自分が自分じゃなくなるんでしょう?この香水の呪いと、一緒だね。」
「は、…?」
「だから、私は露伴に何度嫌われたって、付き纏って、その度に私を好きにさせるから。だからね、露伴。とりあえず1回、私を好きになってよ。」
露伴の両頬をスリ、と撫でると僅かにビクリと肩が跳ねたが、瞳は真っ直ぐ、こちらを向いている。
「私、露伴のその真っ直ぐな瞳、大好き。」
ゆっくりと近づく露伴と私。露伴は真っ直ぐ私を見たまま動かず、そのまま静かに唇が重なった。
「なんで…、なんでなの…。…露伴先生…!」
「どこっスか、なまえさ〜ん!…え?…えっ…!?」
「……仗助くん、すごいタイミングだね……。」
突然の仗助くんの登場に、空気がガラッと一変する。その拍子に私の集中力も切れて腰が抜けたのを、傍にいた露伴がしっかりと受け止めてくれた。
「露伴……。」
「……はぁ…。…君な…、僕が君を嫌いになるなんて、あるわけないだろ…!」
「!」
私を膝に乗せて私の胸に顔を埋める露伴の様子に、ぎゅ、と抱きしめてその姿を隠した。
「…仗助くん。助けに来てくれて悪いんだけど、その子を連れてどこかで待っててくれる?絶対に逃がさないでね。」
「…?…よく分かんねーっスけど、分かりました。」
「ちょっ、アンタ誰!?触んないでよ!!」
仗助くんにはバレていないといいが。あの露伴が、泣いている事。
「…露伴、無事で良かった…。」
「僕の事より、君の方だろ…!…っ、僕は、君を傷つけた…!」
「いいの。こうしてちゃんと、戻ってきてくれたから。」
「やめろ…綺麗事を言うなッ…!僕は…!自分自身を、許せない…!!」
「そんな事言わないで、露伴。私はね、いつも露伴がしてくれている事をしただけ。異人館の紳士の時も、橋本陽馬くんの時も、私は守られてばかりだったから。」
そうだ。私はいつも、露伴に守られてばかりだった。いくら露伴に"ヘブンズドア"という力があったとしても、対処できない事だってある。今回だって、使う暇がなかった。使う前に、露伴は操られていたのだから。
「露伴が言った事、した事が本心じゃなかったのは分かってるよ。だから、本当に大丈夫なの。こうして生きて、私の傍にいてくれれば。」
露伴の頬に、自分の頬を擦り寄せると当たり前だが濡れていて、だけど温かくて、胸がきゅ、と小さくなった。
「露伴、好き。大好き。ねぇ、露伴も好きって言ってよ。」
「…僕は、…僕も、君が好きだ。愛おしくてたまらないと思っている。言っておくが、僕だってもし、君に嫌われるなんて事になっても、また僕の事を好きにさせるからな。」
「ふ…、ふふ。私も、もしそうなったら何度だって露伴を好きになるよ。それだけは自信があるの。」
手足の震えは、もう止まった。最後にもう一度キスをすると露伴の手が服の中に入ってこようとするので、しっかりと制止した。
「…露伴、もう涙は止まったね。仗助くんのところに行かないと。」
「チッ…忘れてたぜ…。」
さすが岸辺露伴。呆れるほどに立ち直りが早い。
私と露伴の間の話は終わった。だが、まだ事件は終わったわけではない。この後どうするか、まずは花園かのんの話を聞かなくては。
「……仗助くん。これは一体、どういう状況?」
疲弊した体を支え合いながら外へと出ると、2人はいた。いたのだが…、てっきり仗助くんが花園かのんをがっちり拘束しているものと思ったのだが、拘束しているのは花園かのんの方で…分かりやすく言えば、花園かのんが仗助くんの腕に絡みついている、というか…。…なに、これ。
「いや、俺もよく分かんねーんスけど…この子、女優の花園かのんちゃんっスよね?」
「なまえさん、狡いじゃないですか!露伴先生だけじゃなく、こんなイケメンと知り合いだなんて!」
「え…?…はぁ…?」
イケメン…確かに、言われてみればそうなのかも?どう見たって露伴の方が綺麗な顔をしていると思うが。
「…君の考えてる事は分かるぞ。僕を見るなよ。」
「私は露伴の方が好きよ。」
「いいから。話が進まないだろ。」
むぅ。本当なのに。
しかし露伴にそう言われては、これ以上無駄な話をするわけにはいかない。
で、イケメンの仗助くんが何だって?
「……何があったの?」
「いやぁ…怪我をしてたから、治しただけなんスけど…。」
「私、露伴先生より仗助くんの方がタイプかも!仗助くんの方が優しいしかわいいし〜!」
…露伴だって優しいし、かわいいところはたくさんある。いや…この子には、知られない方がいいか、とここは口を閉ざした。
それよりも、ついさっきまで呪いの品を使ってまで私から露伴を奪おうとしていたというのにこの変わりようは……怒りや呆れ、その他色々な感情が合わさって、むしろ悲しくなってくる。
「まぁ、僕らに興味を無くしたんなら何だっていいが。問題は、お前をどうするか、だな。花園かのん。」
「えっ。」
「……えっ、じゃあないんだよ、かのんちゃん。私、生きて帰さないって、言ったよね?」
ビクッ、と、彼女の肩が大きく跳ねた。まさか、私のあの起こりようを見て、冗談だと思っていたわけではあるまいに。
「…さすがに、殺しはしないよ。ドラマの撮影中に死なれちゃ、私が困る。」
せっかくここまで、世間にいいものを届けられているのだから、最後まで撮りきらなくては。
「そうね…、二度と私と露伴の邪魔をしない事。そして、今回のドラマを、今まで以上に真剣に取り組む事。…それでいいよ。」
「いいのか?それだけで。」
「露伴は、何かあるの?」
「あぁ。…なまえに対して、金輪際舐めた態度を取らない事と、誠心誠意の謝罪だな。」
「待って露伴。舐めた態度って…私、番長みたいなものになるつもりはないんだけど。」
「いいんだよ、それで。…花園かのん。君は、今言ったことを受け入れるか?」
露伴が花園かのんにそう問うた事で、全員の視線は花園かのんへと注がれた。全員の注目を集めた彼女は居心地悪そうに視線をさ迷わせたあと仗助くんから腕を外し「はい…本当に、すみませんでした…」と深深と頭を下げた。
「…はぁ…、これで、やっと解決した……。」
1日撮影した後にノンストップで走り回ったおかげで、体はもう限界だ。今日はもう、何もしたくない。早くホテルへ戻ってお風呂に入って、露伴とくっついて眠りたい。