結婚してみる
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新幹線で東京駅から1時間半でS市まで移動し、そこから杜王町の自宅まで電車とタクシーを乗り継ぎ自宅へと帰ってきた。
彼女と分かれたのが確か8時半頃だったはずだ。時計を見ると10時半を回った頃で、彼女の時間管理能力のおかげで今日中に帰ってこられる事ができたらしい。
毎度助かっている。のは確かだが、彼女はたまに突拍子もない事を言ったり、したりする。例えば、今日の話みたいに。
「この僕と、結婚ねぇ…。」
僕は自分が変な奴だと自覚しているが、彼女も大概変な奴だと思う。
彼女とは仕事を通じて出会い、成り行きではあったが自身のスタンド能力で彼女を助けた事がある。彼女の、俳優という仕事に対する熱意を聞いていた事もあり、何か彼女の役に立つはずだと、記憶を消さずに今まで付き合ってきた。あれからもう7年の付き合いになる。
付き合いといっても、僕が用事があって東京へ行った時に食事をする程度。恋愛に発展しそうな瞬間なんて、ただの1度もなかった。
それだというのに、いきなり「結婚してくれ」だなんて、やっぱり彼女は変な奴なのだと再確認させられた。
(康一くんに、知らせよう。)
いつもこのくらいの時間に連絡をしても返ってこない事が殆どで、今日も既に彼は眠っている時間かもしれないがメールを送るくらいはいいだろう。きっと明日の朝にでも、返信をくれるはずだ。
『突然の事で驚くかもしれないが、今度結婚する事になった。
君は僕の親友だから1番最初に知らせるよ。
噂になると困るから今はまだ周りには内緒にしててくれ。』
メールを送って1分も経たないうちに、テーブルに置いたスマートフォンが振動を始めた。
長さからして電話のようで、表示されている名前は今しがたメールを送った相手、広瀬康一であった。
通話ボタンを押してスマートフォンを耳に当て「もしもし」と言い終わる前に、康一くんの興奮したような声が鼓膜を揺らした。
「露伴先生!?け、結婚って、どういう事ですか!?」
「康一くん、落ち着いてくれ。どういう事も何も、結婚は結婚だよ。君と由花子がしたやつ。」
驚く事に康一くんは数年前に由花子と結婚しており、そろそろ子供を…という話が出ているらしい。そもそもあの由花子と結婚した事も驚きだし、さらに子供まで設けようとしているのだから、由花子に洗脳でもされているんじゃあないかと心配になったものだ。
「いや…露伴先生、結婚なんて無駄だ、くだらない、って言ってたじゃあないですか!それがどうして急に…。というか、結婚を考えるようなお相手がいたんですか!?」
「そうだな。今でもくだらないと思ってるよ。だが、そんなくだらない事でも、僕の仕事に必要になるかもしれないだろ?」
「まさか、漫画のために結婚するんですか!?相手の方に失礼ですよ!」
「康一くんこそ失礼だな。向こうから頼まれたんだよ。」
「そんな人いるわけないじゃあないですか!」
いるんだよな、これが。やっぱり、彼女は変だ。これで、常識人である康一くんから見ても変である事が証明されたわけだ。
「今度、康一くんにも紹介するよ。彼女の方がこちらに引っ越してくると言っていたからな。…いや、彼女は有名だから、康一くんももしかしたら知っているかもしれないな。」
「えっ、有名人なんですか?」
「あぁ。みょうじなまえっていうんだが。」
女優の、と付け足すと、電話の向こうが静かになった。もしかして切れたのかとスマートフォンの画面を見たが未だ繋がっている事を示している。再度耳に当て「康一くん?」と呼びかけると「ええぇぇぇぇ!!!??」と大絶叫が響いてきて思わず眉をひそめた。
「みょうじなまえ、って…あのみょうじなまえですか!!?今"圧倒的透明感"って話題の!?」
「透明感?確かに、彼女にはぴったりかもな。」
残念ながら彼女の出ている映画やドラマは観るが、その他のテレビ番組に出演しているところは観ていない。特に人気が出てからは。知名度があまりなかった頃は彼女の方から「今度○○に出るので観てください!」などと逐一知らせがきていたのだが、いつしかそれもなくなった。彼女自身が忙しそうにしているので気にしていなかったが、結婚する相手なのだからもう少し興味を持った方がいいのかもしれない。
「ん…すまない、彼女から電話だ。詳細はまた今度追って話すよ。くれぐれも、他の奴には話さないようにな。じゃあ。」
特に仗助なんかには、とは言わなくとも伝わっただろう。
一方的に電話を切って今度は彼女…みょうじなまえからの電話の通話ボタンを押した。
「あ、露伴先生。そろそろお家には着きましたか?」
本当、よくできたスケジュール管理能力だ。わざわざ新幹線の時間、S駅から杜王駅、そこから自宅までの道のりの時間を調べて連絡してきたのだろう。日々ギリギリのスケジュールの中で生活してる彼女だからできる事。彼女の能力の高さ、プロ意識の高さには本当に感心するばかりだ。
「あぁ、少し前に着いたよ。」
「無事に帰られて、良かったです。」
それに、気遣いもできる。これは27歳という年齢のせいだけではない。彼女に元々備わっていたものだ。
「今日はお疲れでしょうし、きっとこれからシャワーでも浴びて寝るところですよね?なので用件だけ。」
「あぁ、なんだ?」
「まず、結婚は同意して頂けたって事でいいですよね?」
「あぁ。」
「ふふ、良かった。それで、結婚するにあたって、一応ルールが必要だと思うんです。齟齬があってはいけないですから。」
ルール。恐らく僕達だけでなく、どの夫婦にもあるであろう決まり事。彼女が言うと妙に仰々しく聞こえるが、要はお互いの財布は一緒にするのかだとか、家事の割合だとか、そういうのだろう。
「その話し合いをしたいなと思っているんですが、来週の火曜日か、金曜日の夜、お時間取れますか?」
「あぁ、構わないぜ。僕がそっちに行こうか?」
「お忙しくなければ。」
「問題ない。じゃあ、火曜の夜で。」
「ありがとうございます。では、時間や待ち合わせ場所はまたメールでお伝えします。露伴先生、おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ。」
少しの間を置いて、通話終了のボタンを押してスマートフォンをテーブルに置く。なんだか、少し疲れた。
彼女は僕と分かれてから今まで、僕が帰宅するこの時間まで待っていたのだろう。
彼女は変な奴ではあるが、気遣いや仕事に対するプロ意識は僕も評価している。そういうところが、彼女と今まで付き合いを続けてきた理由である。
「ふわぁ…、…今日は、シャワーだけでいいか…。」
湯船に浸かるのは、明日起きてからにしよう。