結婚してみる
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「今回は、随分早いな。」
「早い、ですか?」
「あぁ。前に会ってから、まだ2週間だろ。今は仕事を抑えてるのか?」
それは、露伴先生に会いたかったからです。とは言えず、曖昧な言葉を笑顔で返した。恋を自覚してからというもの、暇さえあれば露伴先生の事を考えてしまい、そうすると会いたくなってしまって、気がついたら露伴先生に連絡をしてしまっていた。
「もしかして、露伴先生はお忙しかったですか?」
「いや。別に構わん。」
「…良かったです。ご迷惑になっていたらどうしようかと。」
「君との会話は有意義だからな。家が近ければ、もっと誘ってくれても構わないんだが。」
「ふふ、そう言ってもらえて、嬉しいです。露伴先生、またこちらに越してくるご予定はないんですか?」
「残念ながらないな。都会の人混みは嫌いなんだ。」
「そうですね…私も、人混みは苦手です。」
できる事ならば、人が多いところは避けたい。それは私も同じであった。だが今の仕事は楽しくやりがいがあり、世間にもそれが評価されている。ただでさえ寝る間もなく働いている今、何か大きな理由でもなければ田舎で暮らすなど、夢のまた夢だ。女優という仕事を手放す気などさらさらないが、田舎でゆっくり暮らすのも憧れている…というよりも、露伴先生と過ごす時間が私にとって大事な時間だから、もっと頻繁に会えたらいいのにな、と思う。
「そういえば、この前の原稿、ジャンプに載ってましたね!なんだか嬉しくて、思わず買っちゃいました。」
「はは、それは僕も嬉しいよ。ありがとう。」
「あの時の原稿が印刷されて手元にあるなんて、なんだか不思議な気持ちです。宝物にします。」
「はぁ…?別に君の自由だが、あれは元々あの台詞になる予定だったんだぜ?」
「台詞については、別に良いんです。確かに嬉しかったですけど。露伴先生のファンとして、あの生原稿がこうなるんだ…って感動したからと言いますか…。」
「…ファン、か…。…悪い気はしないな。」
不意に露伴先生がフッと口角を上げるので、思わずドキリと心臓が音を立てた。好きだと自覚したばかりだからか、些細な表情の変化に勝手に反応してしまっているみたいだ。まるで中学生や高校生みたいで、少し恥ずかしい。
「僕は今、とても気分が良い。食事も一旦落ち着いた事だし、特別に、僕のファンである君にサインを書いてやろう。」
「えっ良いんですか?」
「あぁ。こういう時のために、色紙やペンは持ち歩いている。原稿とは違うかもしれないがな。」
そう言いながら鞄から色紙と画材を取り出しサラサラと手を動かすさまを、向かい側から眺める。原稿に向かう露伴先生の瞳、真剣だけど楽しそうで、素敵だな…と思っていたら「ほら」と、随分早くに色紙が差し出される。少し遅れてそれを受け取り表面に視線をやると、色紙いっぱいに主人公のイラストやメッセージ、そして私の姿まで描き込まれており、思わず表情を作ることも忘れて驚いた。
「えっ…!?露伴先生、これ本当に、今描いたんですか…!?」
「当たり前だろう。僕は原稿のストックも嫌いなんだよ。知ってるだろ?」
「そ、それはそうですけど…!あまりに早すぎて…露伴先生、もしかしてヘブンズドアで私の体感時間狂わせました?」
「おい。僕がそんな事するわけ…。君に、そんな事するわけないだろ。」
「…私じゃなければ、やってたんですか?」
「……あんまりそういう事言ってたら、没収するぜ、それ。」
「ダメです!これはもう、私のです。露伴先生にもあげません。」
本当に取り上げそうな露伴先生の手よりも早く、貰ったばかりの色紙をぎゅ、と抱きしめる。よく見たら"親愛なる友人 みょうじなまえ様"と書かれている。親愛なる。この前原稿の意見を聞かれた時だって嬉しかったが、それと同じくらい、今幸せな気持ちでいっぱいだ。
「これも、宝物にします。ありがとうございます。」
「あぁ、こちらこそありがとう。」
「あの、色紙を綺麗な状態で持ち帰りたいんですが、専用の袋を頂けますか?」
「はぁ?ないよ、そんなの。」
「そんな…!帰宅するまでに汚れたり、傷がついたらどうするんですか…!色紙を持ち歩くのは素晴らしいですけど、そこまでして考慮して頂かないと、私達ファンが困ります!」
「なるほど。次から気をつけるよ。それにしても…君、本当に僕のファンなんだな。」
何を今さら。今回はジャンプを購入したが、露伴先生の描く漫画はピンクダークの少年以外にも全て初版で購入して、時系列順に全て綺麗に並べている。それは露伴先生も周知のはず。
「もちろん、露伴先生の描く漫画のファンですよ。でもそれと同じくらい、露伴先生自身のファンでもありますから。」
それは私が、いちファン以上に露伴先生に近いから分かった事だ。ファンを大事にしている事も知っているし、そのファンのために漫画を描いている事も知っている。露伴先生は人嫌いだが、ファンの事が好きなのだ。私は露伴先生の、そういうところが好き。
「それ、懐かしいな。」
「…うん。ずっと大事に持ってたの。」
あの時の色紙はきちんと透明な袋に入れたのち、さらに額縁に収めてある。遅れていた荷解きをしていたのだが、ついつい当時を思い出してしまい、ボーッとしてしまったようだ。
「なぁ。君は一体、いつから僕の事が好きだったんだ?」
「…内緒。」
「はぁ?今さらだろ。なんなら、ヘブンズドアで読んで…、……。」
恐らく「読んでもいいんだぜ」と言いかけて、言葉に詰まる。前に露伴自身が教えてくれた、私が隠そうとしている本心は文字が溶けて消えてしまうため読めない、というのを思い出したのだろう。
「ふふ、読めないんでしょう?だから、内緒だってば。」
「はぁー…。君、この僕を煽って…いい度胸だな。」
「あら、私をどうするんです?露伴先生。」
「忘れているかもしれないが、僕は君の記憶を読むだけじゃあなく、書き込む事もできるんだぜ。」
「そうですね。…でも、それは物理的にできるというだけで、露伴先生の心理的には、できないですよね?」
露伴には申し訳ないが、私は露伴の事を少しは分かっている。露伴は私の記憶を私の許可なしでは読まないし、ましてや書き込む事はしない。それは露伴と7年という長い付き合いで理解した、露伴なりのルールのようなもの。自分で決めたルールを破るなんて事は、露伴は絶対にしないのだ。
「君……いい性格になってきたんじゃあないか?」
「ふふふ、褒め言葉として受け取っておくね。私は露伴のそういうところ、好きよ。」
「はぁ…、それで誤魔化そうとしてないか?」
「まさか。ちゃんと本心だよ。読んでみる?」
「いや、いい。君がそう言う時は本心だって、僕も分かってきたからな。」
露伴は私の、良き理解者だ。私のいい所も悪い所も受け止めて、意見を聞いてくれて、共感してくれる。私も露伴にとって、そうでありたい。そうなりたい。今はまだでも、そうしていればいつかきっと、私と露伴は本当の、いい夫婦になれるはずだから。