結婚してみる
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「あの人気女優のみょうじなまえさんが突然の結婚発表!昨年の11月には入籍していたようですね!」
「それにお相手は、漫画家の岸辺露伴先生なんて、驚きですよねぇ〜!」
朝のニュース番組は、どの局もこの話題で持ち切りで。先週撮った写真が早速いくつか使われているようだ。こんなに世間に注目されて、なんだか妙な気分だ。
昨日夜に彼女の事務所で結婚の発表、集英社のHPでは祝福のコメントがアップされてから、テレビでは速報として取り上げられSNSは大盛り上がり。知り合いが次から次へウチに電話を掛けてくるのでケーブルを抜いた。
「なまえちゃんの結婚はめちゃめちゃショックです…。けど、あの写真のなまえちゃんがめちゃめちゃかわいくて…!幸せなんだろうなって…!」
「なまえちゃんのウェディングドレス姿、最高ですね!幸せになってほし〜!」
「めちゃめちゃかわいかった!おめでと〜!」
祝福の言葉を貰うはずの彼女は、今ここにはいない。昨日の夜仕事へ出ていき、そのまま事務所近くのホテルに泊まっている。
だからこのニュースは今、僕1人で観ているのだが...なんというか、彼女の知名度、人気度合いを目の当たりにして僕は思っていたよりもすごい奴と結婚したんだなと身を以て実感させられた。
世間から見た彼女は、身なりが綺麗で愛嬌もあり、立ち振る舞いにも非のつけ所がない完璧な人間なのだろう。
しかし彼女自身が言うように…内と外で違う顔を見せている、適切なシーンでは適切な対応をしている、のだと、思う。少なくとも、僕から見た彼女はそうだ。いや、そう"だった"。
そうなのだと思い込んでいただけで、それは勘違いだったのではないかと思い始めたのは、先日、彼女と話していた時の事。
外のみょうじなまえの事はこの際どうでもいい。気になるのは女優としてではない内側の、僕と結婚した岸辺なまえの方だ。
何気なく言った言葉で間を開けた彼女。そして直後にヘブンズドアで読んだ、ページの不自然さ。それに思い返してみれば、彼女の立ち振る舞いや言動も少しの違和感があるような気がしてならない。僕は近頃それが、気になって仕方がない。
しかしまさか、この僕が、この岸辺露伴が、気になっている事をそのままに日常を過ごしているなんて、自分自身が一番、信じられない。
それは数ヶ月彼女と一緒に暮らした事による心境の変化か。もしくは、彼女が彼女でなくなってしまうのが怖い⋯、⋯なんてな。
「⋯バカバカしい。この岸辺露伴が⋯、」
続けようとした言葉は、出てこなかった。彼女といると、僕の方が僕でなくなってしまう。全く、僕らしくない。
ピンポーン
この状況に似つかわしくないインターホンの音。まさか、テレビ局や新聞社の記者がインターホンを押すわけがない。なまえがこんなタイミングで帰ってくるわけがないし、携帯電話に何の連絡もなく、そもそも帰ってくるにしたって鍵を持っている。しかし僕は通販を頼んだ覚えはないし、突然家に来るような友人だっていないのだが。
面倒なのでこのまま放っておこうと思ったら再度インターホンの音が響き「ほら、やっぱりいないんだよ。帰ろう、仗助くん」と玄関の扉越しに康一くんの声が確認できた。なるほど、あいつらか。
3度目のインターホンの音が鳴りやむ前にガチャ、とドアを開けると予想通り康一くんを含めたいつもの3人。そして後ろにはたくさんの記者。こいつら、この状況でよくインターホンなんか押したな。
「なんだ。入るなら早く入れよ。ちなみに、なまえは仕事でしばらくいないぜ。」
「えぇと⋯お邪魔します。」
なんだ、入るのか。
みょうじなまえが目当てで来たのならこのまま帰るかと思ったのだが、どうやら用があるのは僕の方らしい。珍しい事もあるものだ。
仕方なく3人共家の中に招き入れ、鍵をかける。記者達がこちらを覗き込んでいたが、これはいつまで続くだろうか。
「露伴⋯!いい加減、書き込み消せよ⋯!」
「書き込み?⋯あぁ、あれか。」
「世間が露伴先生となまえさんの話をしてるのに、仗助くんだけ話せないみたいで⋯。昨夜発表もされましたし、もういいんじゃあないですか?」
確かにいつの日か亀友デパートで会った時、そんな事をしたな。まぁ康一くんの言う通り僕らの結婚は日本中⋯いや、世界中に知れ渡った。仗助の奴は僕らの事情を深く知っているわけでもないし、いいか。と、ヘブンズドアを使い以前の書き込みをペンで消した。たったこれだけのために家までやってくるなんて、大袈裟な奴だな。
「露伴よォ、本当に結婚したのか?」
「はぁ?」
アホ面でアホみたいに語尾を伸ばしてアホみたいな質問を投げかけたのは、言わずもがな億泰。コイツ、テレビを使って冗談を言うとでも思ってるのか?それを、僕が許すとでも?
「億泰。お前にはこれが見えないのか?結婚指輪だよ。康一くんに協力を得て、新婚旅行というものも行った。なまえから直接聞かなきゃ、信じられないか?」
「いや⋯、だってよォ⋯。結婚って、1人じゃできねェだろ?あのなまえちゃんが、露伴と結婚しようだなんて思うのが、信じられねェんだよ。」
「はぁ⋯、本当、全く同意見だぜ。」
「お前ら、何年経っても失礼だな。」
こんな奴らと知り合いだなんて、本当に恥ずかしい。こいつらは高校生だった頃から、なんにも変わってない。
「でも、露伴先生といるなまえさん、テレビで見るなまえさんよりも楽しそうだよ。」
「はぁ!?康一⋯お前まさかなまえちゃんと知り合いか!!?」
「あー⋯、うん。露伴先生の家で何度か会ってるよ。」
「マジかよ!生のなまえちゃん、やっぱめちゃくちゃカワイイのか!?」
「おい。そういう話なら、ここじゃなくどこか別の場所で⋯⋯。⋯いや、やっぱりここで話せ。リビングに案内する。」
「はぁ?露伴が俺らを案内?」
わざわざウチに来てまでそんなくだらない話をするなんて、と追い出そうとしたが、奴らに聞いてみたい事が頭に浮かびここに留まるようにと言い直した。仗助の発言は相も変わらず失礼なものだったが、反論するのも面倒でスルーを決め込む。玄関前の廊下から奥のリビングまで行くとさっきまで見ていたテレビでは未だ僕と彼女の結婚の話をしていて、他に報道する事はないのかと呆れて電源を落とした。
「何してんだ、座れよ。あぁ、こっちはなまえの席だから、そっちに座れよな。」
「おー⋯。」
3人は無言で顔を見合わせて、やがて意を決したように仗助がソファに腰掛けた事で残りの2人も腰を下ろした。おおよそ、僕がすすんで家の中に招き入れたのを何か裏があるのではと怪しんでいるってところか。⋯まぁ、己の普段の行いを思えば仕方がない。受け入れよう。
「お前らに、聞きたい事があるんだよ。そんなに身構えなくていい。お前らのイメージするみょうじなまえという人間について、教えてくれ。」
正直、女優としてのみょうじなまえについては僕よりも仗助達の方が知っているのではないかと思う。ずっと応援はしていたが、別に僕は女優としての彼女のファンだった訳ではないし、ただの友人だったのだから。
有益な情報を得られそうであれば、茶ぐらいは出してやってもいい。