結婚してみる
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「それよりも、明日は出掛けるんだろ?他に行きたいところとかあるのか?」
康一くんが慌ただしく帰宅した後、ティーセット等の片付けをしながら聞いたのは明日の予定の事だ。彼女はきっとデートか何かだと思っているのかもしれない。その話を出した途端パッと花が咲いたような笑顔を見せた。
「!…行きたいところは、露伴先生と一緒ならどこでも。着ていく服を選んでくれませんか?」
「…君、いきなり敬語になるな。」
「あ、嫌だった?」
「そんな事言ってないだろう。僕の意見なんて関係なく、好きにしたら良い。」
「好きに…、そうですね!」
「?」
なんだろう、今の間…違和感は。表情を見ただけで彼女の感情を読みとるなんて事は、僕にはできない。ただ、今はいつも通りに笑っている彼女がさっきは、なんだか一瞬、意味を持った表情を見せた気がしたのだが…。
「なまえ、読ませてくれ。」
「?今、ですか?」
「あぁ今だ。僕は今、ものすごく君を読みたい。」
「!…あ…あの、とっても嬉しいです…!」
「…は?」
ただ単に"読みたい"と言っただけだというのに、目の前のみょうじなまえ…僕の妻は「嬉しい」と言って顔を赤くしていた。まるで少女のように…。これは、演技…ではないというのなら、やっぱり彼女の事がよく分からない。
「…君…いや、読ませてくれるか?」
「は、はい…!」
よく分からないが、読ませてくれるのなら今はなんでも良い。嬉しそうにソファに腰かける彼女を見下ろして、いつものように能力を発動した。
「ヘブンズドア。」
"露伴先生が、初めて私の記憶を自分から「読みたい」と言ってくれた"
"なんだか普通の愛の告白よりもドキドキする…!…かもしれない"
「…なるほど。」
彼女が顔を赤く染めていたのは、こういう事だったのか。と理由が分かったからといって、そもそも思考回路が普通の人間とは違うのでどうしてそうなるのかは分からないが。
とりあえず次だ、と視線を滑らせて目に入ってきた次の一文に、柄にもなく心臓を鷲掴みにされた感覚に陥った。
"私をドキドキさせるのは、きっと後にも先にも露伴先生だけ"
(こ、コイツ…!!)
動揺すればスタンド能力は解除される。前に読んだ時の事を思い出し、咄嗟に彼女のページに"5分程眠る"と書き込んだところで、スタンド能力が解除された。
「…なんなんだ、君は…!!」
ページが元に戻った彼女はいつも僕の隣で眠る時と同じように寝息を立てていて、さすがに少しイラついた。いや、彼女に対してイラついたというよりも、彼女に心を掻き乱されている気がして悔しくて、それを認めたくなくてイラついているのだ。
(僕は君が、好きなのか?認めたくないだけで、本当は…。)
今まで何人かの女性とそういう関係になった事はある。しかし好きだったかと言われるとすぐに答えられる。「別に」だ。そもそも"好き"というものがなんなのか、よく分からない。その感情を理解したくて何人かと付き合ってみたが、何をどうしても理解する事ができなかった。
だというのにだ。
突然「結婚してください」と言ってきた彼女も僕と同じだと思っていたのになんなんだ、これは。
僕の事を実は好きでしたなんて、ふざけるんじゃあないよ。
「僕には人畜無害そうな態度を取りやがって…。…ヘブンズドア。」
漫画なんかだと、こういう人畜無害そうな奴が一番ヤバイんだ。現に僕の心の内を引っ掻き回して…!
(…おかしい…さっきのは、僕の気のせいだったっていうのか…?)
ついさっき僕が気になった彼女の変化。ごく僅かではあったが表に出るほど感情が動いたという事なのだが、ヘブンズドアで本にしても、その時の記述がない。というよりも…よく見てみると、彼女のページは違和感だらけだ。
現在のページを見ても過去のページを見ても、書かれているのはポジティブな事ばかり。いや、ポジティブな事しか書かれていない。普通に暮らす人間が、そんな事になるわけがない。人は誰しも悲しんだり憤ったり、落胆したりする生き物だ。それじゃあ、彼女は一体何なのか。
「…露伴…先生?」
「!」
本日2度目の動揺。彼女へのヘブンズドアが解除された。結局、彼女を読んでも収穫はゼロだった。それどころか、僕の中に彼女に対する疑念、興味が生まれてしまった。
「読みたかったものは、読めましたか?」
「…どうだろうな…。」
「!…露伴先生っ!」
思いの外小さい声での返答で、何かを察したのか彼女は焦ったようにソファから立ち上がり、僕の手を取った。
(慌てている今なら、もしかしたら何か書かれているかもしれない…)
「待て。ヘブンズドア。」
パラパラと音を立てて、三度彼女の顔が本へと変わった。ゆっくりとこちらへ倒れてきた身体を支えてソファへと座らせ表紙を捲ると、書かれていたはずの文字が徐々に消えていくところであった。
"私の中に、何か良くない事が書かれていたのかもしれない"
"露伴先生に嫌われるのは、嫌だ"
他にもいくつか書かれていたのだが、読めたのはこの2つだけだった。やはり、彼女もこういう負の感情があるのだ。なぜ綺麗さっぱり消えてしまうのかは、分からないが。
ふぅ、と小さくため息を吐いて、ページを閉じた。きっと今はまだ、この謎は解けない。これは僕の能力でしか見ることの出来ない、彼女の内面の問題だ。つまり、僕が解決するしかない。大した問題ではない事を祈りたい。
「ん…、あれ、露伴先生…。え、どうかしたんですか?」
急に来た情報量に疲れて、思わず彼女の肩に顔を埋めると面白いくらいに慌てたような反応が返ってきた。チラ、と視線を向けると「本当にどうしたんですか…か、かわいすぎます…」と理解に苦しむ言葉を口にし視線を逸らした。
「おい、視線を逸らすなよ。」
「えっ、あの、そんなに至近距離で見つめられたら、ドキドキしちゃ、っ!」
「あぁ、確かにな。」
ドキドキするという彼女の心音を確かめるために彼女の胸の真ん中に触れると、言葉通り確かにドッドッドッ、と心臓が大きく動いているのが分かった。どうやら本当に、ドキドキしているらしい。
「露伴先生?」
「ふ…、なーんかムカつくなぁ、君。読めば読むほど分からなくなってくる。」
「…えぇと、申し訳ありません…?」
(こうして話してると、普通の、ただのかわいい女の子なのになぁ…)
「…なまえ。」
「はい、露伴せん、…!」
彼女が僕に害をなす存在にしろそうでないにしろ、今は束の間の穏やかな日常を送りたい。それがもしも、偽りだったとしても、だ。なんて自分の願いも込めて、彼女に口付けた。
「…寝室に行くか。」
「えっ、あの…!」
「なんだよ。明日の服を選ぶんだろ?ウチのクローゼットは寝室にしかないぜ。」
「あ…そう、ですね…。」
「ははっ、君が望むなら、いや…君が許すなら、服選び以外もしたっていいんだぜ?」
「…!…露伴先生、本当にどうしたんですか…?」
どうしたのかと尋ねながら片腕で真っ赤な顔を隠すような仕草をしているが、そんなものはなんの意味もなく。
「僕は別に、どうもしてないが。」
「…さっきから露伴先生、私を誘惑してくるから…!」
「そうか?…それで、君はその誘惑に勝てるのか?」
彼女の腕を掴むと抵抗する事なくすんなりと赤い顔が見えて、行き場を失った彼女の腕は自身の首へと回した。真っ赤な顔が、目の前に見える。
「…っ、そんなの、無理です…!」
その言葉を合図に口付けをしたのはどちらからだったか。まぁそんな事は、どうでもいいか。