結婚してみる
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「わぁ…!露伴先生のおうち、素敵ですね…!」
車を家の前に停めるなり目を輝かせるなまえは、停車するなり何もかもを置いて家へと向かっていった。26歳というのは嘘なのではないかと思う程のはしゃぎようで、引き止めるのは憚られた。
「おいおい。鍵が閉まってるんだから、中にはまだ入れないぜ?」
取り急ぎ彼女の小さなバッグだけ持って玄関へと着いていくと「あ、そっか」と口元を手で押えて振り返った。いつも落ち着いている彼女がこんなに楽しそうにしているのは初めて見る。
「ほら」と鍵を開けて入室を促すと、ゆっくりとドアを開け、また「わぁ…!」と感嘆の声を漏らした。楽しそうでなによりである。
「僕は荷物を持ってくるから、自由に見てもらって構わない。」
「本当?入っちゃダメな部屋とかは?」
「そんなもの、別にない。」
君ならどの部屋でも歩き回って構わないと付け加えると一瞬意外そうな顔をしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。本当、可愛い奴。
「君、他の奴の前ではうっかり敬語を使うなよな。」
「はぁい。」
分かってるんだか分かってないんだか、随分気の抜けた返事だ。この後康一くんがうちにやってくる事になっているが、本当に大丈夫か?と心配になったが、まぁ彼女の演技力とそれに関するスイッチの切り替えは確かなものなので心配するのは無駄かもしれない。
軽い荷解きをしながら康一くんを待っていると、やがてインターホンの音が響いて、康一くんの訪問を告げた。真っ先に飛び出して行ったのは彼女の方で「はぁい!」と元気な声で玄関の扉を開ける背中が見えた。誰か確認もせず扉を開けるなんて、不用心にも程がある。
「ほ、本物のみょうじなまえ…!さん…!!」
「貴方が康一くんね?初めまして。露伴の妻です。」
「つ、つ、妻……!!露伴先生、本当に…!!?」
「あぁ、先日入籍もしたぜ。正真正銘、彼女は僕の妻であり、僕は彼女の夫だ。」
グ、と彼女の方を引き寄せると、康一くんは言葉も出せずに固まってしまった。さすがにちょっと、失礼じゃあないだろうか。
「露伴がいつもお世話になってます。康一くんは、露伴のお友達でいいのよね?」
「あ、あぁ、はい…まぁ…。」
「じゃあ私ともお友達になるわけね。だから、そんなに緊張しないで。」
「えぇ!?そ、そんなの、無理ですよ…!」
「わ…、断られちゃった…。」
「えっ!?いやあの、断ったとかそういう訳じゃあなくて…!!」
「じゃあ、お友達にはなってくれるのね?」
「…ふっ、…ははっ!」
終始自分のペースで話し康一くんを翻弄している彼女と、彼女の主導権を渡さない喋り方に戸惑う康一くんを見て気分が良い。康一くんが信じられないような物を見る目は気になったが。
「一旦、お茶にしよう。あぁそうだ。あとで食器類を買いに行こう。生憎、僕の分しかないからな。」
「うん。歯ブラシとか、日用品も買いに行かなきゃ。」
そういえばそうか。康一くんも長居するつもりはないだろうし、康一くんが帰ったら、また車を出すか、と考えながらお茶を用意して二人の待つリビングへ戻ると、向かい合って楽しそうにお喋りをしている二人がいて。友人同士が打ち解けている様子を見て嬉しく思った。1人は友人ではなく、妻、なのだが。
「露伴先生、今なまえさんに、露伴先生の好きなところを聞いてたんですけど、」
「へぇ。それは僕も聞きたいな。」
彼女が康一くんに話したのは果たして建前の方だろうか、それとも本心だろうか。それに興味を惹かれて、思わず康一くんの言葉を遮ってしまった。
「そんなのもちろん、顔と、話が合うところと、仕事に真っ直ぐなところ、でしょ。」
彼女から出てきたのは以前も聞いた言葉で、何となく、少しがっかりした。まぁ、僕も聞かれたらそう答えるし、彼女がそう思っているのも納得ではあるが。
「露伴先生は、なまえさんのどこが好きなんですか?」
「そうだな…。彼女の言う通り、話が合う。人と人は、知能レベルが同等でなければ、会話が成り立たないらしい。僕と話が合う奴なんて、そうそういないからな、貴重だと思うぜ。それに、彼女の仕事に対して真摯なところは、尊敬に値する。」
「えぇっ!?露伴先生が、尊敬…ですか!?」
「…なんだ、康一くん。僕は君の事だって尊敬してるんだぜ。まぁ早い話、お互いを尊敬し合ってるって事だよ。それに彼女、可愛いだろ?」
「あぁ、それはそう、ですね…。」
「改めて聞くと、ちょっと照れるなぁ…。」
何やら微妙な顔で微妙な反応をする康一くんと、頬に手を当ててニコニコと笑顔を浮かべる彼女。反応は対称的だ。
「あぁそういえばこれ、僕と由花子さんからです。」
思い出したようにそう言ってテーブルの上に置かれたのは、熨斗がついた箱。結婚祝いの、恐らくタオルかなにかだろう。
「ありがとう。有難く頂くよ。…康一くん、由花子に言ったのか?僕が結婚する事。」
「わざわざ話してはいないですけど、電話した時に聞こえてたみたいで…すみません。」
「いや、別に良い。いずれ分かる事だしな。言わなくても分かるとは思うが、仗助の奴にはまだ言うなよ。面倒臭いからな。」
「露伴…意外とお友達いっぱいいるのね…。」
「…やめてくれ。僕の友人は、康一くんだけだ。」
友人などでは、決してない。