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「看護師さん。今日まで、お世話になりました。」
深々と頭を下げて感謝を述べているのは、数日前に顔に傷を負い、未だ治りきっていない花京院くん。
目に見える傷だけでも痛々しいのだが、服に隠された体にはいくつもの生傷が付いていて、正直このまま行かせたくないと思ってしまった。しかし彼は…いや、彼らは、それでも行くのだ。DIOを倒すために。
「花京院くん…無理、しないでね。これ、傷が疼いたら塗って。」
よく効くと評判の傷薬だって、役に立つかどうか。それでもないよりはいいだろうと、丁寧に両手で手渡し"がんばれ"と手を握った。
「ありがとう、なまえさん。」
医師や看護師の中で日本人は私一人だったので、彼の入院中、私がよく一緒にいて話し相手になっていた。その短い関わり合いで、花京院くんは私の事を覚えてくれたらしい。
「ふふ、なまえさん、想像していたよりも小さくて、かわいらしいですね。」
「!…からかわないで。貴方はこれから、危険なところに行くんだから。」
ジョースター一行は既に、エジプト入りしていると聞いている。エジプトに行ったら、きっとすぐに戦いが始まるのだろうと思うと、やっぱり行ってほしくはなかった。が、私にはそれを止めるすべはない。
スル、と手が離れて(あぁ、もう行ってしまうのか…)と思った。
「気をつけてね。」
そう伝えるのが精一杯。
しかし彼は柔らかく微笑んで「はい、気をつけます」となんて事ないように言い、ヘリコプターに乗って行ってしまった。
なんて、儚げな笑顔だっただろうか。
そして私は、なんて無力なのだろうか。
私は彼の、身を按じることしかできない。
「か…っ、花京院くん…!!!」
ジョースターさんがDIOを引き付けて離れてくれたお陰で、ギリギリではあったが近くに無理やりヘリコプターを着陸する事ができた。無事に飛び立てるか分からないが、そんな事は今はどうでもいい。目の前の花京院くんを、助けなければ!
ザシュ、という肉が切れる音と共に、ピシャッ、と辺りに血が舞った。普段は隠していて使う事はないのだが、私は、彼らと同じくスタンド使いであった。スタンドの姿は見た事がないのだが、花京院くん達のスタンドが見えるという事は恐らくそうなのだろうと解釈している。そして、その能力は。
私の血には、治癒の効果がある、という事。
花京院くんのお腹の傷は致命傷といえるもので、私が血を流したところで助からないかもしれない。だけど、何かせずにはいられなかった。
少しずつ小さくなっていく穴。だけど、彼を助けたい一心でナイフで切りつけたものだから、私の体温も下がってきている。
頭が痛い。クラクラする。気持ち悪い。
もしも私が今死んでしまったら、彼は助からない。
助けたい。彼にはまだ、生きていてほしい。
気を紛らわせようと頭を働かせて意識を保っていたのだが、それも限界がきた。
フッと意識が途絶える寸前、床に手をついたお陰で花京院くんの上に倒れるのは阻止できたはずだ。
もし目が覚めたら、花京院くんの命を救えたか、確認しなければ…と考えたところで、視界が真っ暗になった。
結果的に、私は生きていた。丸1日以上目を覚まさなかったらしいが、さすがはSPW財団と言うべきか、適切な治療を受け、私は助かった。この能力のお陰か体力もすぐに戻ったのだが、ベッドを降りようとしたらこっぴどく叱られた。私はもう、大丈夫なのに。
「花京院くん…おはよう。」
花京院くんも、命は繋がった。こっそりと彼の病室に忍び込んで、ベッド脇の椅子に腰かける。
酷い怪我だったため未だ目が覚める気配はないが、命が繋がったのは本当に奇跡だ。諦めなくて良かった。本当に。
数日後には無理やり看護の仕事に復帰し、眠り続ける花京院くんのお世話をした。体を拭いたりするのは男性看護師の仕事だったが、髪を洗ったり爪を切ったり、顔を拭いたりは積極的に行っていた。
そして、そんな献身的な看護を続けて数ヶ月後の事だった。
「おはよー花京院くん。今日は腕のマッサージを……えっ。」
朝一で彼の病室を訪ね、ベッドの方へ視線を向けると、彼の綺麗な瞳と視線が交わった。目が、覚めたのだ。
「花京院くん……!!」
思わず駆け寄って、彼の顔を覗き込む。何か言おうとして唇を動かしたが、上手く言葉にならなくて、諦めたように静かに閉じられた。声が、出ないのだ。
「先生を呼んでください!花京院くんが、目を覚ましました!」
ナースコールに半ば叫ぶようにお願いをして先生やその他看護師が来る間、静かに手を握り合った。触れ合った彼の手はちゃんと温かくて、涙が止まらなかった。
「たすけてくれて、ありがとう…。」
慌ただしく処置が行われ、再び静かになった病室。少しだけ出るようになった声で一生懸命紡いだ言葉は、私に感謝を述べる言葉だった。
「こちらこそ……DIOを倒してくれて、ありがとう…!」
花京院くんがいなければ全滅していたかもしれないと聞いている。それだけの事をやったのだ。花京院くんは。
「きみの、こえ、ずっときこえてた。」
「…そうなの?無駄にならなくて、よかった。」
「あと、きみのて。あたたかくて、きもちいい。」
「ふふ…よかったよかった。」
スリスリと頬を撫でると、気持ちよさそうに目が細められた。なんだか、かわいい。それに、手に伝わってくる花京院くんの体温に、私も酷く安心した。
「眠かったら、寝てもいいよ。リハビリとか色々、がんばろうね。私も付き合うから。」
「うん。」
子供にするみたいに手を握って、頭を撫でていると目が閉じられていき、やがて寝息も聞こえてきた。
ここから彼は、日常に戻っていく。いや、戻していく。
たとえ時間が掛かったとしても、私もサポートする。
その未来を私も、傍で見守っていたい。
これまでがんばってきた分、彼には幸せになってもらいたい。
「まずは好物のチェリーを食べられるようにならないと、ね。」