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▽DIOに囚われた夢主と肉の芽院
「君、僕と同じ日本人なんだって?」
久しぶりに聞いた母国語は数ヶ月ぶりに耳にしたものだったため、最初、なんと言われたのか分からなかった。耳にして数秒、なんと言ったのだろうかと考え、日本語で話しかけられたのだと気がついた時は嬉しくて久方ぶりに目に輝きが戻ったと思う。
「あなたも、日本人?」
と聞くと目の前の彼、花京院典明は首を傾げ「そうだって言ってるだろ」と僅かに眉間に皺を寄せた。
「DIO様に、君の話し相手をしてくれと頼まれたんだ。」
「DIO⋯様⋯。」
彼から出たDIOの名を聞いて、上がりかけていた気分がまた沈みこんだ。
彼もきっと、DIOに肉の芽を植えつけられてしまったのだ。
私がDIOに囚われてから何日が経っただろうか。
ここにいる間、何人かDIO以外の人を見たが、誰も彼も私に良い顔はせず、ずっと孤独だった。
逃げようにも脚に着けられた枷は自分では外せそうになく、万が一外せたとしてもDIOの部下達に捕まってしまうだろうと、早い段階から逃げる事は諦めていた。
「…ありがとう…花京院さん…。」
抵抗の意思はないと、笑顔を見せる。抵抗すればきっと、私は殺されてしまうと思っているから。
「…君、いつからここに?」
「…たぶん、1ヶ月くらい前…だと思います。今日が何月何日か、分からなくて…。」
「そうか。…今日は9月27日。もうすぐ10月だ。」
「そうなんですね…。」
私の感覚は正しかったようだ。夏休みの後半に差し掛かった頃、家族とエジプトへやってきて、囚われた。両親は恐らくだが、もう殺されてしまったのだろう。最後に見た時には怪我をしていたし、DIOが部下に「始末しておけ」と命じていたから。
…あの時の事を思い出すと、胃の中のものがせりあがってくる感覚がして、息が苦しくなる。
「…そのピアス、女性物ですか?」
「さぁ…そうかもな。」
「花京院さんに、よく似合ってますね。」
気を紛らわせようと話題を振ったのだが、どうやら花京院さんは楽しくお喋りをするつもりはないらしい。ずっとツンとした態度を崩さず、視線も合わない。なんだか、少し寂しい。
「花京院さんは、ずっとこの館に?」
「いや…。先月、DIO様の部下になってから初めてここへ来た。数日後にはまた日本へ帰るが…それよりもあとの事は分からない。」
「えっ。」
花京院さんは、日本へ帰れるのか…。そう思ったら、羨ましくて仕方がない。私も連れて行ってくれ、と言いたくなったが、花京院さんは肉の芽を植えられ、今はDIOの忠実な下僕なのだ。そんな事言ったら、ただでは済まないだろう。
「花京院さんと、もっと喋りたいです。日本語、忘れてしまいそうですし。」
「…そう。」
慌てて言葉を紡ぎ誤魔化したが、怪しまれてはいないだろうか。私がここから逃げ出したいと思っている事を、勘づかれていないだろうか。
その真偽は分からないがその後特に変わった事もなくいくつか言葉を交わし、花京院さんが飽きた頃に「じゃあ」と部屋をあとにした。
次の日もその次の日もDIOに頼まれたからと部屋へとやってきたが、花京院さんは相槌を打ったり簡単な質問に答えるだけで終始つまらなそうだった。
だから、日本へ帰る前日に花京院さんから手渡されたものは私からしたらとても意外な物であった。
「これ…花京院さんのピアス、ですか?」
「使ってないやつがあったんだ。君、よく見ていたから気に入ったんじゃあないかと思って。」
私の手に乗せられたのは、花京院さんの赤いピアスで、それもまだ使用していない真新しい物であった。
「確かに、光に透かしてみると綺麗だなって思ってました。でも、良いんですか?」
「良いって言ってるだろ。」
そう言って首を傾ける仕草は初めて会った時と同じもので、しかし眉間の皺は少し薄くなった気がしてなんだか嬉しくなった。
「じゃあ…僕はもう行くよ。もう、君と僕が会う事はないかもね。」
「……はい。花京院さん、どうかお元気で。」
「君もな。」
肉の芽を植えられた花京院さんは、きっともうすぐ死んでしまうだろう。だけどそんな事、伝えるなんてできない。それに伝えたところで、どうにかする手立てはない。
ただ、命が尽きる瞬間まで、生きてほしいと願う事しかできなかった。
新しい館へと移り住んで、早数ヶ月。もう何日経ったかなんて考えるのは辞めた。希望なんて持っていても、無駄なのではないかと思い始めていたからだ。あぁでも、希望は一応、ひとつだけあった。
あの時貰った、花京院さんとお揃いのピアスだ。
元々着けていたものを外して、もう花京院さんの物ではなく私の物になったそれは、酷く馴染んでいた。たった数日間ではあったが、彼とお喋りをした事を時々思い出しては胸が温かくなるのを感じていた。もしかしたら死んでしまっているかもしれない彼。もしも私が死んでしまっても、このピアスをしていたら彼に会えるのではないか。肉の芽から解放された、本来の彼に。それが、私の唯一の希望であった。
「なまえ。」
「DIO…。」
「これから、しばらく煩くなるが…お前は決して、部屋から出るなよ。」
「……はい。」
部屋から出るな、なんて。そんなの、できるなら最初からしている。DIOだって分かっているはずなのに。本当、嫌な奴。
それから数時間。
館の至る所で衝撃音が聞こえてきて、建物が揺れたり、崩れたりする音も聞こえてきた。
部屋から出る事ができないのだが、本当にこの部屋は安全なのだろうかと不安になってきた。もしも今、建物が崩れて死んでしまったら、なんてつまらない死に方なのだろうと思った。
バァン!!
突然部屋の扉が開かれたかと思うと、知らない人達が数人、なだれ込んできた。知らない人達、というのは、この館で見た事のない人達という意味だったが、その中に1人見知った顔を見つけ、思わず感動と驚きで言葉を失ってしまった。
「か……花京院さん…っ!!?」
「なまえさん!!」
なぜ。どうして。彼が生きているのか。
いや、生きていてくれて嬉しい。
私も、生きていて良かった。
様々な気持ちが入り交じって、涙が流れるのも気にせずこちらに伸ばされた手を取ってその体を抱きしめた。
「か、花京院さん…!い、生きてて良かったぁ〜…!!」
「それはこっちのセリフ…いや、うん。君も、生きててよかった…。」
チャリ、と耳元でピアスの鎖が音を立てた。
「これ、着けててくれたんだね。」
「はい…これ、私の宝物なんです…!」
「そう…。ありがとう、みょうじさん。」
ありがとうだなんて、感謝を言いたいのは私の方だ。
ピアスという希望をくれてありがとう。
生きていてくれてありがとう。
そう伝えたいのに、突然の事で上手く言葉が出てこなかった。
「オイ、外れたぜ。」
ガチャ、という音と共に聞こえた声にそちらを見ると、私の足に着けられていた枷が見事に壊されており、つまり、私は自由になったという事だ。
「すぐにここを出よう。みょうじさん、歩けるかい?」
「あ…私、この数ヶ月、まともに歩いてなくて…っ!」
この部屋を出られるのはお手洗いに行く時だけで、食事は運ばれてきていたし入浴もお湯をここまで持ってきてもらって済ませていたため、足の筋肉が落ち細くなってしまっていた。一応立てはするが、走るとなるとだいぶ遅いだろう。
「大丈夫。僕が抱えて走るよ。」
「えっ、…わぁ!」
ヒョイ、といとも簡単に抱き上げられる体。最近食欲が落ちて足だけでなく全身やせ細ってしまったため重いなんて事はないだろうが…少し恥ずかしい。
「僕は彼女をSPW財団に引き渡してくる。すぐに戻ります。」
集団から1人外れて、窓のある部屋へとやってきた花京院さん。すぐ目の前には彼のピアスが揺れていて、やっぱり似合うなぁ、なんて呑気な事を考えていたら、突如身体中が燃えているかのように熱くなった。いや、燃えている"かのように"ではない。体が、燃えている…!
「うッ……!!!」
「みょうじさん!?こ、これは…!!」
あぁ、まさか……DIO……!!!
「花京院さんッ!私を離して!!今すぐに!!!」
「いや、でも…!」
「私っ…きっと吸血鬼にされてる!!」
「!!」
ザッ、と音を立てて花京院さんが日陰に飛び退くと、やはり体の炎は治まった。
やっぱり…なんて事だ…DIO……!!
「そんな…君…。」
「……花京院さん、このまま行ってください。」
「っ!」
優しい人だな、花京院さんは。
肉の芽を植え付けられた花京院さんは無愛想だったけど、本当の花京院さんは優しい人だった。それが知れて、良かった。
「私の事を覚えててくれて、嬉しかったです。それに、助けに来てくれた。本当に、嬉しいです。」
「助けられてない!SPW財団なら、きっとどうにかしてくれる!日が落ちてから、SPW財団の車まで行けば…!」
「私、花京院さんが好きです。」
「…は…?」
「好きな人を、殺したくないです。花京院さんの大事な人達だって、殺したくない。だから、このまま私の事は置いていってください。」
もうすぐ、日が沈んでしまう。そうなってしまったら、きっと私は、いずれ花京院さんを……。
そんなの、耐えられない。
「花京院さんは、私の心の支えでした。生きててくれてありがとう。」
「…僕は、君にも生きてて、ほしかった…!」
ぎゅう、と力強く抱きしめられて、なんだか申し訳なく思った。きっと優しい花京院さんの事だから、私をここに置いていく事で自分のせいだと思うのではないかと思った。
「大丈夫。花京院さんが私をここまで生かしてくれたんです。」
吸血鬼になったと自覚したからだろうか。急激に喉が渇いて、息が上がってきた。もう、本当に、時間がない…!
「もしも…、もしも来世なんてものがあるのなら…、その時は、またお友達になってください…!」
「…うん。必ず…!」
最後にもう一度抱きしめられ、床へゆっくりと降ろされた。
発作が起きたように息が苦しくて視界が歪むが、しっかりと花京院さんの方を見据えて足に力を込めた。
「じゃあ、お元気で。」
「っ……あぁ、君もな。」
あの時の別れの挨拶と同じ言葉を交わし、お互い背を向けた。
まだ、陽の光が差している窓辺へ、一歩一歩、足を進めた。
「典明、っていうんだ、僕の名前。」
典明。花京院典明。前に聞いて覚えていたが、改めて聞くといい名前だ。
来世で会う時は、同じ名前だといいな。
ジュ、とつま先から、熱が帯びて再び燃え上がる体。
それでも、今度は足を止めずに日の中に進み続けた。
典明さんに出会えて、良かった。
彼が生きていてくれて、良かった。
助けに来てくれて、嬉しかった。
彼にはもっと、生きてほしい。
そこまで考えたところで、意識は途絶えた。
「君、僕と同じ日本人なんだって?」
久しぶりに聞いた母国語は数ヶ月ぶりに耳にしたものだったため、最初、なんと言われたのか分からなかった。耳にして数秒、なんと言ったのだろうかと考え、日本語で話しかけられたのだと気がついた時は嬉しくて久方ぶりに目に輝きが戻ったと思う。
「あなたも、日本人?」
と聞くと目の前の彼、花京院典明は首を傾げ「そうだって言ってるだろ」と僅かに眉間に皺を寄せた。
「DIO様に、君の話し相手をしてくれと頼まれたんだ。」
「DIO⋯様⋯。」
彼から出たDIOの名を聞いて、上がりかけていた気分がまた沈みこんだ。
彼もきっと、DIOに肉の芽を植えつけられてしまったのだ。
私がDIOに囚われてから何日が経っただろうか。
ここにいる間、何人かDIO以外の人を見たが、誰も彼も私に良い顔はせず、ずっと孤独だった。
逃げようにも脚に着けられた枷は自分では外せそうになく、万が一外せたとしてもDIOの部下達に捕まってしまうだろうと、早い段階から逃げる事は諦めていた。
「…ありがとう…花京院さん…。」
抵抗の意思はないと、笑顔を見せる。抵抗すればきっと、私は殺されてしまうと思っているから。
「…君、いつからここに?」
「…たぶん、1ヶ月くらい前…だと思います。今日が何月何日か、分からなくて…。」
「そうか。…今日は9月27日。もうすぐ10月だ。」
「そうなんですね…。」
私の感覚は正しかったようだ。夏休みの後半に差し掛かった頃、家族とエジプトへやってきて、囚われた。両親は恐らくだが、もう殺されてしまったのだろう。最後に見た時には怪我をしていたし、DIOが部下に「始末しておけ」と命じていたから。
…あの時の事を思い出すと、胃の中のものがせりあがってくる感覚がして、息が苦しくなる。
「…そのピアス、女性物ですか?」
「さぁ…そうかもな。」
「花京院さんに、よく似合ってますね。」
気を紛らわせようと話題を振ったのだが、どうやら花京院さんは楽しくお喋りをするつもりはないらしい。ずっとツンとした態度を崩さず、視線も合わない。なんだか、少し寂しい。
「花京院さんは、ずっとこの館に?」
「いや…。先月、DIO様の部下になってから初めてここへ来た。数日後にはまた日本へ帰るが…それよりもあとの事は分からない。」
「えっ。」
花京院さんは、日本へ帰れるのか…。そう思ったら、羨ましくて仕方がない。私も連れて行ってくれ、と言いたくなったが、花京院さんは肉の芽を植えられ、今はDIOの忠実な下僕なのだ。そんな事言ったら、ただでは済まないだろう。
「花京院さんと、もっと喋りたいです。日本語、忘れてしまいそうですし。」
「…そう。」
慌てて言葉を紡ぎ誤魔化したが、怪しまれてはいないだろうか。私がここから逃げ出したいと思っている事を、勘づかれていないだろうか。
その真偽は分からないがその後特に変わった事もなくいくつか言葉を交わし、花京院さんが飽きた頃に「じゃあ」と部屋をあとにした。
次の日もその次の日もDIOに頼まれたからと部屋へとやってきたが、花京院さんは相槌を打ったり簡単な質問に答えるだけで終始つまらなそうだった。
だから、日本へ帰る前日に花京院さんから手渡されたものは私からしたらとても意外な物であった。
「これ…花京院さんのピアス、ですか?」
「使ってないやつがあったんだ。君、よく見ていたから気に入ったんじゃあないかと思って。」
私の手に乗せられたのは、花京院さんの赤いピアスで、それもまだ使用していない真新しい物であった。
「確かに、光に透かしてみると綺麗だなって思ってました。でも、良いんですか?」
「良いって言ってるだろ。」
そう言って首を傾ける仕草は初めて会った時と同じもので、しかし眉間の皺は少し薄くなった気がしてなんだか嬉しくなった。
「じゃあ…僕はもう行くよ。もう、君と僕が会う事はないかもね。」
「……はい。花京院さん、どうかお元気で。」
「君もな。」
肉の芽を植えられた花京院さんは、きっともうすぐ死んでしまうだろう。だけどそんな事、伝えるなんてできない。それに伝えたところで、どうにかする手立てはない。
ただ、命が尽きる瞬間まで、生きてほしいと願う事しかできなかった。
新しい館へと移り住んで、早数ヶ月。もう何日経ったかなんて考えるのは辞めた。希望なんて持っていても、無駄なのではないかと思い始めていたからだ。あぁでも、希望は一応、ひとつだけあった。
あの時貰った、花京院さんとお揃いのピアスだ。
元々着けていたものを外して、もう花京院さんの物ではなく私の物になったそれは、酷く馴染んでいた。たった数日間ではあったが、彼とお喋りをした事を時々思い出しては胸が温かくなるのを感じていた。もしかしたら死んでしまっているかもしれない彼。もしも私が死んでしまっても、このピアスをしていたら彼に会えるのではないか。肉の芽から解放された、本来の彼に。それが、私の唯一の希望であった。
「なまえ。」
「DIO…。」
「これから、しばらく煩くなるが…お前は決して、部屋から出るなよ。」
「……はい。」
部屋から出るな、なんて。そんなの、できるなら最初からしている。DIOだって分かっているはずなのに。本当、嫌な奴。
それから数時間。
館の至る所で衝撃音が聞こえてきて、建物が揺れたり、崩れたりする音も聞こえてきた。
部屋から出る事ができないのだが、本当にこの部屋は安全なのだろうかと不安になってきた。もしも今、建物が崩れて死んでしまったら、なんてつまらない死に方なのだろうと思った。
バァン!!
突然部屋の扉が開かれたかと思うと、知らない人達が数人、なだれ込んできた。知らない人達、というのは、この館で見た事のない人達という意味だったが、その中に1人見知った顔を見つけ、思わず感動と驚きで言葉を失ってしまった。
「か……花京院さん…っ!!?」
「なまえさん!!」
なぜ。どうして。彼が生きているのか。
いや、生きていてくれて嬉しい。
私も、生きていて良かった。
様々な気持ちが入り交じって、涙が流れるのも気にせずこちらに伸ばされた手を取ってその体を抱きしめた。
「か、花京院さん…!い、生きてて良かったぁ〜…!!」
「それはこっちのセリフ…いや、うん。君も、生きててよかった…。」
チャリ、と耳元でピアスの鎖が音を立てた。
「これ、着けててくれたんだね。」
「はい…これ、私の宝物なんです…!」
「そう…。ありがとう、みょうじさん。」
ありがとうだなんて、感謝を言いたいのは私の方だ。
ピアスという希望をくれてありがとう。
生きていてくれてありがとう。
そう伝えたいのに、突然の事で上手く言葉が出てこなかった。
「オイ、外れたぜ。」
ガチャ、という音と共に聞こえた声にそちらを見ると、私の足に着けられていた枷が見事に壊されており、つまり、私は自由になったという事だ。
「すぐにここを出よう。みょうじさん、歩けるかい?」
「あ…私、この数ヶ月、まともに歩いてなくて…っ!」
この部屋を出られるのはお手洗いに行く時だけで、食事は運ばれてきていたし入浴もお湯をここまで持ってきてもらって済ませていたため、足の筋肉が落ち細くなってしまっていた。一応立てはするが、走るとなるとだいぶ遅いだろう。
「大丈夫。僕が抱えて走るよ。」
「えっ、…わぁ!」
ヒョイ、といとも簡単に抱き上げられる体。最近食欲が落ちて足だけでなく全身やせ細ってしまったため重いなんて事はないだろうが…少し恥ずかしい。
「僕は彼女をSPW財団に引き渡してくる。すぐに戻ります。」
集団から1人外れて、窓のある部屋へとやってきた花京院さん。すぐ目の前には彼のピアスが揺れていて、やっぱり似合うなぁ、なんて呑気な事を考えていたら、突如身体中が燃えているかのように熱くなった。いや、燃えている"かのように"ではない。体が、燃えている…!
「うッ……!!!」
「みょうじさん!?こ、これは…!!」
あぁ、まさか……DIO……!!!
「花京院さんッ!私を離して!!今すぐに!!!」
「いや、でも…!」
「私っ…きっと吸血鬼にされてる!!」
「!!」
ザッ、と音を立てて花京院さんが日陰に飛び退くと、やはり体の炎は治まった。
やっぱり…なんて事だ…DIO……!!
「そんな…君…。」
「……花京院さん、このまま行ってください。」
「っ!」
優しい人だな、花京院さんは。
肉の芽を植え付けられた花京院さんは無愛想だったけど、本当の花京院さんは優しい人だった。それが知れて、良かった。
「私の事を覚えててくれて、嬉しかったです。それに、助けに来てくれた。本当に、嬉しいです。」
「助けられてない!SPW財団なら、きっとどうにかしてくれる!日が落ちてから、SPW財団の車まで行けば…!」
「私、花京院さんが好きです。」
「…は…?」
「好きな人を、殺したくないです。花京院さんの大事な人達だって、殺したくない。だから、このまま私の事は置いていってください。」
もうすぐ、日が沈んでしまう。そうなってしまったら、きっと私は、いずれ花京院さんを……。
そんなの、耐えられない。
「花京院さんは、私の心の支えでした。生きててくれてありがとう。」
「…僕は、君にも生きてて、ほしかった…!」
ぎゅう、と力強く抱きしめられて、なんだか申し訳なく思った。きっと優しい花京院さんの事だから、私をここに置いていく事で自分のせいだと思うのではないかと思った。
「大丈夫。花京院さんが私をここまで生かしてくれたんです。」
吸血鬼になったと自覚したからだろうか。急激に喉が渇いて、息が上がってきた。もう、本当に、時間がない…!
「もしも…、もしも来世なんてものがあるのなら…、その時は、またお友達になってください…!」
「…うん。必ず…!」
最後にもう一度抱きしめられ、床へゆっくりと降ろされた。
発作が起きたように息が苦しくて視界が歪むが、しっかりと花京院さんの方を見据えて足に力を込めた。
「じゃあ、お元気で。」
「っ……あぁ、君もな。」
あの時の別れの挨拶と同じ言葉を交わし、お互い背を向けた。
まだ、陽の光が差している窓辺へ、一歩一歩、足を進めた。
「典明、っていうんだ、僕の名前。」
典明。花京院典明。前に聞いて覚えていたが、改めて聞くといい名前だ。
来世で会う時は、同じ名前だといいな。
ジュ、とつま先から、熱が帯びて再び燃え上がる体。
それでも、今度は足を止めずに日の中に進み続けた。
典明さんに出会えて、良かった。
彼が生きていてくれて、良かった。
助けに来てくれて、嬉しかった。
彼にはもっと、生きてほしい。
そこまで考えたところで、意識は途絶えた。