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数日前に突然全身が焼けるように熱くなり魘されて熱を出し数日寝込んだ。やがて空腹で目を覚ました時、私は悟ったのだ。
私の体はもう、人間のものではないのだと。
DIOが私を、吸血鬼に変えたのだと。
「なまえ、いつまでそうしている。いい加減諦めろ。」
「…煩い。」
承太郎達とエジプトへ向かい始めてから早1ヶ月半。私がDIOの部下に連れ去られてから約半月。そして体を吸血鬼へと変えられてからは既に5日は経った。
DIOの傍にいれば、承太郎達の無事を確認できるのはいいが、如何せんどうがんばってもいけ好かない奴のため、ずっと彼と共に過ごす時間は苦痛であった。そしてこの5日間一切食事をしていない事で、体にも限界が来ていた。
「承太郎…、私には、承太郎がいる…。だから、きっと大丈夫…。」
理性が飛びそうになる度に、そう呟いて耐えてきた。私には、承太郎がついている。花京院くんも、ジョースターさんも、ポルナレフもいる。だから、大丈夫。
だけど…早く、みんなの顔が見たい。早く来てほしい。みんなに、会いたい。
「なまえ。お前、生きてるか?」
吸血鬼になってから1週間。限界を超えて、段々と意識が遠くなる事が増えてきた。今DIOに名前を呼ばれて、ほぼ意識を失っていた事に気が付いた。
「…DIO……頼みが、ある…。」
久方振りに発した声は酷く掠れていたが、DIOにはちゃんと届いていたようで嬉しそうに「なんだ」と聞き返された。
「……私、を…殺して…。」
DIOに頼むなんて屈辱であるが、今、この苦しみが終わるならばと「殺してくれ」と頼んだ。だというのに、DIOは私を見て嘲笑うかのように声を上げ「駄目だ。お前は、私とともに生きるのだ」と。
始めから覚悟していた事だったが、今のこの状況は、死ぬよりも辛いものであった。人を殺して血を飲むなんて、私にはできない。だから、我慢しようと思った。しかし我慢すればするほど飢餓感は増していき、何度も、理性が飛びそうになった。この理性が飛んだ時はきっと、獣のように人を襲い喰らうのだろうと分かる。だから、早く誰でもいいから、私を終わらせて欲しかった。
「ウ…、…承太郎…ッ!承太郎が、きっと…!」
承太郎が来たならきっと、終わらせてくれる。解放してくれるはずだ。
最初のものとは意味が変わってしまったが、相変わらず承太郎に対する希望は持ち続けている。むしろ彼のおかげで、理性を失わずに済んでいる。
「…お前が会いたがっている承太郎だが…そろそろ会えるやもしれんぞ。」
「!」
エジプトへ入ってからどれくらい経っただろうか。もう、そこまで来ているのだと言うDIOの言葉を信じても良いものか。いや、その言葉を聞いただけで体が勝手に反応して涙が止まらなくなってしまったので、今さらDIOの言葉を否定するのは手遅れだった。
承太郎…会いたい…。
建物の揺れに加えて何かが崩れる音がしきりに鳴るようになり、目を覚ました。眠っているのか気を失っているのか分からないが、寝起きの体調は相も変わらず酷いものだった。
「…来たな…。」
ニヤ、と口角を上げたDIOがそのまま部屋を出ていって、数十分が経った。
瀕死状態の私を気にも止めなかったのは、恐らく私が、もう1人では動く気力がないからだ。実際、もう久しく体を動かしていなくて指1本動かすのにもかなりの労力を消費した。
ブルブルと震える手を床につき何とか体を起こすと、座っているというのにも関わらず立ちくらみがした。
白黒する視界が正常になってきた頃に、不意に視界の端で何かが動いたのが見えた。なにか、白っぽい、紐みたいな……。
「っ、ハイ、エロファント…!」
一筋の希望に視界を滲ませながら体を引き摺り、その白と緑の紐を掴んだ。もう絶対に離すまいと、ギュッと強く握ってしまったが、もしかして花京院くんは痛いだろうか。
「なまえ!!」
起きているんだか気を失っているんだか分からない状態でナメクジよりも遅いスピードではあったが部屋の外までは移動した。そこで頭の重さと戦っていると不意に大声で名前を呼ばれ、懐かしい香りに包まれた。
「っ、じょう、たろ……!」
クラクラする頭とチカチカする視界が落ち着いた頃、ようやく目の前にいるのが誰なのか理解し、掠れる声で名前を呼んだ。やっぱり、来てくれた。ハイエロファントの触手を、離さずに掴んでいて良かった…!!
飛び込んだ承太郎の腕の中はひどく安心して、このまま眠ってしまいたかった。
「おい…!DIOの奴に、何かされたのか…!?」
何かされたのはきっと、一目瞭然だろう。体調は最悪で顔色は悪く、体はボロボロでやせ細っているのだ。
そんな私を、承太郎は自身の学ランで包み込み軽々とその腕で抱き上げた。
「…うっ……!」
「なまえ…!」
体が近づいた事で承太郎の匂いが濃くなり、頭が嘗てない程にグラリと揺れた。あぁきっと、これは駄目なやつだ。グ、と承太郎の体を押して距離を取ろうとしたら案外簡単に体が離れて、そのまま地面に落ちた。そんなに力を込めていなかったのかもしれないと承太郎の様子を伺うと驚愕の表情を浮かべており、それは周りのみんなも同じであった。あぁ、私の力が強くなったのか…と理解して、何度目か分からないショックを受けた。地面に落とされ、蹲って泣いている姿の、なんと惨めな事か。
「テメェ…まさか、DIOに…!!」
何かを察した承太郎に、私は何も言う事ができない。ただただ、涙を流す事しかできなかった。だけど、言わなくてはならない事がある。
「承太郎…、や、誰でもいいの…。だれか、私を……」
殺して、という言葉は、出てこなかった。承太郎に唇を塞がれて、飲み込まれたからだ。歯と歯がぶつかってガチッと音が鳴って、唇についた血は承太郎のもので、また頭がグルグルと回り出すのでもう一度突き飛ばした。
「…承太郎…、なまえ……。」
悲痛な声を出す花京院くんの表情はサングラスで隠されよく見えないが、その声色でつられて私まで唇が震えてきた。頭が、痛い…。
「うぅ……ッ、…承太郎、絶対に、DIOを倒してね…!!」
「……あぁ…必ず、必ず倒すぜ…!!」
最後に見た承太郎が泣いているように見えたのは、私の気のせいだろうか。
力になれなくて、ごめん。
DIOなんかに捕まって、ごめん。
嫌な役回りをさせてしまって、ごめん。
私のために泣いてくれて、ありがとう。
意識がなくなる間際に、そう思った。