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「君…地毛は金髪なのか?」
「!」
カフェで1人で食事中、不意に後ろから声が聞こえて咄嗟に勢いよく振り返ると、思った以上に近くに岸辺露伴ろ顔があり二重で驚いた。この近さ…露伴先生の事だから、気付かぬうちに近くでまじまじと眺めていたに違いない。
「びっくりさせないでくださいよ。紅茶が零れちゃうところでした。」
「それはすまない。で、君、地毛は金髪のようだが、もしかしてハーフか何かか?」
「ちょっと、なに当たり前に向かいに座ってるんですか。」
何も気にしないように、それこそ当たり前のように私の向かい側の席へと腰掛ける露伴先生は、こっちの話を聞きもせずにじっとこちらに視線を向けている。あぁ、店員さんに「アイスコーヒーひとつ」と一瞬だけ視線を逸らしたが。
どうやら、聞くまで諦めない、という意思表示のようだ。……めんどくさい。
「ハーフですよ。それが何か?別に珍しくもなんともないでしょう?」
仕方なく質問に答えると満足そうに口の端を上げたが、まだ席を立つ様子はない。あぁこれ、本当にめんどくさいやつだ。
「なるほど。肌が白いとは思ってたが、白人とのハーフか。なぁ、なんでプラチナブロンドの髪の毛をわざわざ黒にしてるんだ?伸びてきた時、目立つだろう。今みたいにな。」
「…別に、いいじゃないですか。黒髪可愛いし。」
「おい。適当な返事をするなら、読んだっていいんだぜ?」
「ハァ…露伴先生、ウザいです。」
「そうか。君の嫌がる顔が見られて嬉しいよ。」
イラァ…!
「なまえさん。…と、露伴先生…お2人でお茶…では無いみたいですね。」
「!康一くんじゃあないか。良かったら君も一緒にどうだ?」
「私は帰ります。さようなら。」
タイミングのいい康一くんの登場に、これ幸いとバン、と多めのお金を置いて逃げるように席を立った。
「なんだよ、つれないな」と言う露伴先生をひと睨みしてその場を立ち去ったが、ニヤニヤしたあの顔はまだ諦めたわけではなさそうでため息が出た。暫くは仗助と一緒に過ごそうと心に決め、そのままの足で美容院へと向かうのだった。
「なまえさん…露伴の奴に一体何したんスか?」
「…あのね、私があの人に何かしたと思う?向こうがしつこいだけ。」
露伴先生に付き纏われた私が仗助に付き纏い始めて早2日。隣に仗助がいるからと諦める奴ではないとは思っていたが、あまりにもウザい。
仗助のおかげでたまに矛先が逸れるのが唯一の救いか。
「なぁ、なんでそんなに隠したがるんだ?隠された方が気になるんだが。」
「言ってもろくな事言わないでしょう、露伴先生は。言っても言わなくても嫌な気分になるから、言わない方がいいじゃないですか。面白い話は出ないんで、諦めてください。」
「君、失礼だな。面白いか面白くないかは、聞いてからじゃないと分からないだろう。」
「だから言わないって。」
このやり取りも何回目だろうか。いい加減頭がおかしくなりそうだ。
「やぁ、みんなどうしたんだい?」
「花京院さん!!!」
道端でなにやら揉めている雰囲気を感じとった花京院さんが声を掛けてくれ、限界間近の私は大きな声で花京院さんの名前を呼んで助けを求めた。突然大声を上げた私を見て花京院さんは目を丸くしていたが、やがて私達3人を見回し「仗助、状況の説明を頼む」と冷静に仗助に説明を求めた。この場で中立な立場(私寄りではあるが)の仗助をひと目で見分けるなんて、花京院さんは本当にすごい。
「はぁー…話は分かった。露伴が悪い。」
「花京院さん…!」
「は?悪いってどういう事だ。興味がある事をしつこく聞くのは仕方のない事じゃあないか。」
「君はしつこすぎだよ。全く手がかかる…。なまえ。」
不満を漏らす露伴先生を一旦置いておいて、花京院さんは私を呼び手招きをするので近くへと歩み寄るといい匂いがしてきて少し癒された。
「露伴に言わない理由は、さっき仗助に聞いたよ。懸命な判断だね。」
花京院さん…!とまた名前を呼びそうになるのを何とか堪える。露伴先生は花京院さんのこういうことろを1ミリでも見習うべきである。
「で、事の発端は、君が地毛の金髪を黒くしている理由が知りたいって事だったね?その理由を、僕だけに教えてくれないかい?」
少し掠れた小さい声に、柔らかい微笑みに、パチッとお茶目なウインク付き。これで落ちない女はいないんじゃないだろうか。抗えずに理由を話すと「ありがとう」とまた優しく微笑み「これを僕から、露伴に話しても?」と付け加えた。そこで考えてみたのだが、私は露伴先生に理由を知られたくないというわけではない。それを聞いた露伴先生が「くだらない」とか「それだけか?」とか言いそうだったからだ。そんな事言われたら、さすがに手が出るだろうなと思って言わなかっただけだ。だから「はい」とすんなりと肯定の言葉が出てきた。
「はー…花京院さん、かっこいいなぁ…。」
「なまえさん、花京院さんがタイプなんスか?てか、俺にも教えてくださいよ。露伴に隠してた理由。」
少し離れたところで話す露伴先生と花京院さんを眺める。仗助が気になるのも無理はない。露伴先生の前では頑なに隠していたのを近くで見ていたのだから。
「……別に、父親と同じ髪色が嫌いなだけだよ。クズだったから、離婚するまでお母さんも苦労してたの知ってるし。」
「あー…なまえさん、お母さん亡くなってるんでしたっけ…。それは、露伴に隠したい気持ち分かるっス。」
「分かってくれて嬉しいよ。」
「おい。なんで花京院さんは良くて僕はダメなんだ。」
「…ハァー……。」
そういうマイペースで無神経なとこなんだけど…それを言ったところで、露伴先生は理解できるだろうか。いや、理解したところできっと、直す事もないだろう。つまりは、言っても無駄なのだ。
「…露伴。せめてもう少しちゃんとしないと、本当になまえに嫌われるぞ。」
「花京院さん…余計な事は言わないでくれないか?」
「?露伴先生は、余計な事しか言わないのに?」
「!」
「っはは!君は本当に、気持ちがいい性格をしてるな!なにより露伴と違って、素直だ。」
よく分からないが褒められているらしい。そして私と違うと言われた露伴先生は、つまり褒められたものではないと言われたも同然なわけで。
「…露伴先生。私が、露伴先生って呼んだり敬語で話すのは何故だと思います?」
なんだか少しばかり可哀想になって、気持ちが萎んでしまった。今なら少しだけ、フォローの言葉くらいはかけてあげてもいい。
「…何故…、分からん。理由なんてあるのか?」
この期に及んで腕を組んで偉そうな露伴先生。しかし、私の話を聞く気はあるようだ。
「……そりゃあ、ありますよ。私、露伴先生のしつこいところとか、人が嫌がる事をするところとか、めちゃめちゃムカつきますけど、」
「おい、酷い言われようだな。」
「…あと、人の話を遮るところもムカつきますけど…、嫌いではないんですよ、不思議な事に。」
「えっそうなんスか!?」
驚いて声を上げる仗助の言葉に「うん」と短く頷いた。仗助は、私は露伴先生の事を嫌っていると思っていたみたいだが、私も不思議ではあるのだが別に嫌いというほどではない。
「それってきっと、私が露伴先生の事を…どこかしらは尊敬してるからだと思うんですよね。」
「…君が僕を?」
「露伴先生、尊敬してます!とは大きな声では言えないですけどね。…だから、露伴先生。」
露伴先生の名を呼び、まっすぐ彼を見据えた。呼ばれた露伴先生は何を言われるのかと、相変わらず腕を組んで首を傾げている。
「これ以上、私を失望させないでくださいね。私に嫌われるのは、困るんでしょう?敬語がなくなったら、要注意ですよ。」
正直、今回しつこく付き纏われたのはギリギリだったと思う。
「あはは!」と声を上げて笑う花京院さんと、笑いを堪える仗助、そして苦虫を噛み潰したような顔の露伴先生。反応は様々であるが、言いたい事を言えて、私はスッキリした顔になっている事だろう。
「じゃあ、花京院さん、ありがとうございました。仗助も、ありがとね。」
「どういたしまして」「っス」と2人の返事を聞き、無事に解決した事を確認した。よし、帰ろうと足を踏み出すと露伴先生に手首を掴まれ、足を止めて振り返る。
「…悪かったよ…。多少は、気を付けるから、君のデッドラインを、都度教えてくれ。…僕も君に、嫌われたいわけじゃあないからな。」
ものすごく不本意そうではあるが、あの露伴先生が改善する事を仄めかしたのには少しだけ、好感が持てた。本当は、悪い人ではないのだ。
「多少、ね。まぁ、及第点ですね。」
「はぁ!?」
本当に直す気があるのなら、もう少し様子を見てみてもいいのかもしれない。露伴先生が変わればきっと、私達の関係も仗助との関係も変わるのではないか、という予感がしていた。その予感が的中するのは、まだ先の話ではあるのだが。