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「川尻早人くん。申し訳ないけど、記憶を見せてもらうね。」
朝8時半。よりも少し前。
露伴が目を付けている吉良吉影に繋がりうる子へ接触するため、露伴とペプシの看板のある道へとやってきた。
承太郎さん達との約束の時間よりも少し早いが、到着してすぐに対象の子を見つけた私達は2人で目を見合せて、車を降りた。
私のスタンド能力は、人の記憶を読む事ができ、またその記憶をあとから見返す事ができる、というもの。
戦闘向きではないが、これが結構役に立つ。
露伴のヘブンズドアと似たような能力ではあるが、脳内で映像が再生されるのでヘブンズドアよりも詳細を知る事ができるため、今回朝からこうして呼ばれてきたのだ。
そして、冒頭のセリフである。
まずはヘブンズドアで気を失わせページを捲ってみるといつもと様子が違っていて、書かれている事は記憶などではなくこれから起こる事の予知のような事であった。それに、"この先は読んではいけない"なんて文字も。
「露伴…、これ、下手に触らない方がいいんじゃ…。」
「……いや、逆に考えれば、この子には何かあるって事だ。まずは僕だけで読むから、君は離れていてくれ。」
「……うん。」
不安な気持ちのまま後退りをして距離を取り腕時計を見ると8時27分であり、もうすぐ待ち合わせの時間であった。
「ねぇ露伴…もうすぐ承太郎さん達も来るし、もう少し…「これは…!」
と、腕時計から露伴へと視線を移した途端、露伴の体が内側からダメージを受けた。
「ろ…露伴ッ…!!」
左目を抑えて体から血を流し、ヨロヨロと後ろへ後退る露伴を見て、頭が真っ白になった。どうしよう。どうすれば。私にできる事なんて。
「ッ…、離れろ…!」
「ッ、…露伴っ!!」
とにかく傷を見なければと近寄るとドンッ、と肩を強く押されて、後ろへと押し戻されてしまった。
「吉良吉影、は……!」
"吉良吉影"という言葉を最後に残して、露伴の体が消えてしまった。しかし、私は見た。さっきと同じように、体の内側から爆発して、消滅したのを。
「っ露伴!!!」
朝。朝だ。さっきまで外にいたはずなのに、自分の家にいる。もしかしたらあの時に気を失ってしまったのかもしれない。それか、ただの夢だったか、だ。…そんな都合のいい事があるだろうか。
しかし、自分の部屋を飛び出して日付を確認すると今日はあの待ち合わせの日であり、まだ時計は7時を過ぎたあたり。一体、何が起こっているのだろうか。
とにかく露伴の無事をこの目で確かめたくて、着の身着のまま、家を飛び出した。
「露伴ッ!!」
たまたま鍵が開いていた岸辺宅へと飛び込むと、目を丸くした露伴がリビングから顔を覗かせ「どうかしたのか?君の家まで車に迎えに行く予定だったじゃあないか」と私の方がおかしいと言われているような感覚に陥った。
「それに君、その格好で来たのか?…いや、その前に、本当に、何かあったのか?」
私のあまりの慌てように何かあったのだと察して傍にきた彼をぎゅ、と抱きしめて、改めて無事を確認すると、安心から足の力が抜けてズルズルとその場にへたり込んでしまった。
生きてる…。何が起こったのかは分からないが、確かに彼は、生きている…!
「よ、よかった…露伴…生きてて、よかった…っ!」
「お、おい…。君、大丈夫なのか?」
よく分からないが、露伴が生きてさえいてくれたならいい。それだけで安心できて、ポロポロと涙が出てきて止まらない。いい大人が泣いているところを晒すなんて情けないが、今はそんな事さえどうでもいいと思えた。
「…とりあえず、リビングに行こう。立てるか?」
「うん…。ありがとう、露伴…。」
珍しく、露伴が優しい。それほどまでに、今の私の姿は酷いのだろう。露伴に支えられて辛うじて立って歩けはするが、手足の震えは隠せなかった。
「露伴…私、……いや…、説明しても伝わらないかも、しれないから…読んでくれる…?」
私が覚えているという事は、きっと体も覚えているはずだ。露伴の手を握ったまま離せずにいると、彼はぎゅ、と握り返してくれて「分かった…ヘブンズ・ドア」と能力を発動した。
「おいおい君……!まさか、ループしてきたっていうのか…!?」
そんな露伴の驚いたような声で、目が覚めた。その顔は信じられない、とでもいうように片手で隠されていて、無理もないよな、と思った。私だって信じられないし、未だに何が起こったのか理解できない。
「しかし…僕はきっと、大事な何かを知ったはずだ。」
「!っねぇ、もしかして、また行こうとしてるの…!?」
「行かなければ、何も分からないし、変わらないままだ。」
「い、嫌だ!私は露伴に、行ってほしくない!!」
行く前に、承太郎さんに会って指示を仰ぐべきだ。何も、同じ事を繰り返す必要はないはずだ。
ぎゅ、と両手で服を掴んで引き止めるが、ヘブンズ・ドアによって再び意識を飛ばし、目が覚めたらまた、自宅のベッドの上だった。
また、同じ朝。窓から見える景色も、リビングの時計も、テレビの日付けも、同じ日、同じ時間だ。
露伴はきっと、また同じように死んだのだ。
「うっ……うぅ……!」
嫌だ。死なないでくれ。生きてさえいえくれたら、私は…!
前回と同様に、着の身着のまま玄関を飛び出した。そして前回と同様に、露伴の家のドアを開け中へと飛び込むと、これまた同様に、露伴がリビングから驚いたように顔を覗かせた。
「どうかしたのか?君の家まで「そんな事はいい!露伴!私、露伴の事が好き!だから露伴に死なれると困る!!」
「は…?好き、って…それに死ぬって、…待て、君、マジでどうしたんだ?」
「いいから聞いて!」
露伴からしたら、いきなり家に来て怒りながら告白されて、意味が分からないだろう。だけど、こっちはそれどころじゃない。露伴の命がかかっているのだ。
「仗助に電話して。番号を知らないのなら、康一くんづてでもいいから、すぐに呼び出して。」
「はぁ?君、何言ってるんだ?僕が仗助なんか……いや、わかったよ。」
私のあまりの剣幕にとうとう露伴が折れ、康一くんへと電話をかけ始めた。仗助がいてどうにかなるのかは分からないが、何もしないよりは安心できた。
「…これでいいのか?」
「……うん。」
「ハァ…、全く、朝からどうしたんだ。君らしくもない。」
私らしくない。…そうかもしれない。
少なくとも、露伴が目の前で死んだところを見た時とは、違うだろう。
「一度、家に帰るか?…いや、その時間はないな。僕の服で良ければ貸してやるから、着替えてこいよ。」
「……ありがとう。」
また、あそこへ行くのか、と引き留めようかと思ったが、前回の失敗を踏まえて引き止めるのはやめて大人しくついて行くことにした。きっと露伴1人で行っても、同じ結果になるだけだ。それならば私が一緒に行って、解決の糸口を見つければ良い。そのためのスタンド能力なのだから。
時間がループしていたのは、川尻耕作になりすましていた吉良吉影のスタンド、キラークイーンの新しい能力のせいであった。
結局最後までよく分からないが、仗助と承太郎さんのお陰で、吉良吉影は死んだ。死んだのだ。目の前で。
もう同じ朝を繰り返す事は、ないのだ。
「よ、良かった……。」
怪我を負った訳でもないのに足の力が抜けて、ドサ、とその場にへたり込んだ私を支えたのは、露伴であった。露伴…彼が死ななくて、本当に良かった…!
「露伴…生きてて良かった…ありがとう、露伴…。」
人前であるのも忘れてぎゅう、と力いっぱい抱きしめて、改めて露伴の温もりを確かめると、また安心して涙が出た。「お、おい…!」とは言うものの自らの名を呼び尋常じゃない泣き方をしている私を無理に引き剥がすことはせず、周りのみんなも何も言わず、ただ見守るだけだった。違うの。みんなが覚えてないだけで、本当はものすごく大変な事がたくさんあったの。
「露伴…彼女の事は、任せてもいいか?」
「……あぁ。これは、僕にしかなんともできないだろうな…。」
一旦解散する雰囲気の中、尚も露伴を離さず泣き続ける私を見て承太郎さんは私と露伴を残しその場を解散させた。そして少し経ったあとに露伴の声が「ヘブンズ・ドア」と言ったのを最後に、意識が薄れた。結局、露伴のヘブンズ・ドアの前では、私は無力だ。
「起きたか。」
「……露伴。」
目を覚ますと、露伴の家のソファに寝かされていて、起き抜けに彼の瞳と目が合った。あんなに泣いていたのが嘘のように、今は気持ちが落ち着いている。
「君…僕を助けようと必死だったんだな。…感謝するよ。」
あぁ、ヘブンズ・ドアで読んだのだろうと、すぐに察しがついた。本当、生きてて良かった。それだけで、未来が明るく見える。
「それと…君、僕の事好きなんだって?」
なんだかニヤニヤしてそうな気配を感じてチラリと露伴の顔を見ると、案の定意地悪そうな笑顔でこちらを見ていて、ちょっとムカついた。
「正直、ちょっと意外だったな。君は承太郎さんみたいな人が好きそうだと思ってたんだが。」
「…露伴が生きてさえいてくれればいいから。付き合いたいとか、そういうんじゃ…。」
「それは、僕が嫌なんだが。」
「?」
露伴は素直じゃないから、言い方が遠回しで分かりづらい。横になったまま首を傾げると小馬鹿にしたようにため息を吐き「君、ほんと鈍いよなぁ」と一言。いや、余計な一言。
「僕のために泣いて、1人で必死になって未来を変えようとしてる君に、気持ちが傾くのは自然な事じゃあないか?」
「っ、……それは、つまり…?」
早とちりしないようにもう一段階踏むと露伴はもう一度盛大なため息を吐き、
「だからさぁ……僕も好きだって言ってるんだよ。」と。
「…っ!…露伴が、私、を…?」
冗談だろうか。いや、彼の顔を見る限り、冗談で言っているわけではなさそうだ。自分で言って照れているのか、唇を少し尖らせている。
「君と付き合ってやってもいいぜ。」
と、なんだか偉そうだが、今はそんな事どうでもいい。
「あの…それはとても嬉しいんだけど…それはそうと、体が動かないんだけど、露伴、何かした…?」
特にヘブンズ・ドアで。
指先や首から上は少し動かせるが、まるで体がソファとくっついたかのようで寝返りも打てないし、起き上がれないのだ。私の言葉を聞いた露伴は口角を上げて「あぁ、そうしないと、また君がくっついてきて離れないんじゃあないかと思ってな」と、何故か楽しそうに言うので嫌な予感しかしない。
「君と僕は晴れて恋人同士な訳だし、このままキスしたり、セックスしても問題はないな?」
「!…最低だ!スタンド能力をこんな事に使うなんて!」
「あっははは!抵抗できない奴を見るのは気分が良いなぁ!」
ほんとに最低!
だけどそんな事を言うだけで絶対に実行はしない露伴は、やっぱり好きかもしれない。キスくらいなら、許してあげようかな。