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オタク院|謎時空
(作中に出てくるゲームタイトル、キャラクター名は架空のものです)
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隣の席のみょうじなまえさんが可愛い。
小さくて華奢で、笑うと可愛くて、何かと声を掛けてくれて優しいし、そして何より…
"君の待つ明日"というゲームのヒロイン"花森澪"に似ている。
最初はずーっと誰かに似ていると思っていたのだが、数ヶ月前に新作が出た時に気がついてしまってそれ以降彼女を見る度にゲームのヒロインを重ねてしまって正直、正気ではいられなくなってしまっていた。
それまでは学校に行くよりも家でゲームをしていたいと常々思っていたが、最近は彼女に会うために学校に行っていると言っても過言ではない。
「花京院くん、数学の宿題やってきた?」
喋り方まで似ているので、彼女と話していると"澪"がそこにいるようでついつい頬が緩んでしまうのが分かる。あぁ、本当に可愛い。
「みょうじ、さん…?」
「か、花京院くん…!」
まさかこんなところで、という場所で彼女と遭遇した。都内で開催されるゲームイベントである。それも、彼女はコスプレをしていて…残念ながら、"君の待つ明日"の"花森澪"ではなかったが。
「君、コスプレイヤーだったんだね。それも、結構人気があるみたいだ。」
ズラッと列をなす男達をチラリと見ると、彼女と仲良さげに話す僕を見て嫉妬心を顕にしている者も何名か。少し、心配だ。
「花京院くんも、こういうところにいるのはなんか、意外だね。」
「そう?僕は、ゲームが大好きなんだ。実は毎年来てるよ。」
「そうなの…!?」
「うん。それ、"スタドル"の"星乃りりか"だろう?可愛くて、よく似合ってる。」
「ありがとう…!あの、クラスの子達には、内緒にしてね?」
可愛い、とつい口をついて出てしまった。クラスメイトに可愛いなんて言っても大丈夫だろうかと少し不安になったが、コスプレイヤーの彼女は普段から言われ慣れているのか特に気にしてはいないようで内心ホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、待ってる人もいるし、僕はこれで。」
そろそろ離れようと別れの挨拶をすると、彼女は少し言いづらそうに「あの…」と小さい声を出すので足を止めると、これまた言いづらそうに口元に手を当てて小さい声で「花京院くん、時間があったらでいいんだけど…」と僕の耳元に口を寄せるのでさすがにドキッとした。か、可愛い…。
「あの、さっきからアフター一緒に行こうってしつこい人がいて…。花京院くん、彼氏のフリしてくれない?」
「…なるほどね、いいよ。」
まさかこのような場所で、所謂ナンパをする奴がいるなんて。同じゲーム好きの風上にも置けない奴だ。彼女がとても可愛いのは分かるが、困っているのなら引くのが当たり前だというのに。彼女は、僕が守らなくては。
「ありがとう、花京院くん。荷物も持ってもらっちゃって、申し訳ないや。」
「いいんだ。どうせ帰り道も途中までは一緒だろう?」
コスプレイヤーである彼女の荷物は多く、タイヤ付きのキャリーケースとはいえ道や駅の階段を昇り降りするのは大変だろうと、更衣室を出たところから僕が持ってきた。それに彼女について歩いてた男達数人はまさかの更衣室前まで着いてきていたため、帰るまで一緒にいようと決めた。
「花京院くん。今日のお礼がしたいんだけど、私にできる事、何かあるかな?」
「!……いや、気にしないでくれ。僕も今日は楽しかったし…。」
彼女の言葉を聞いて、即座に思い浮かんだ事がひとつだけある。しかし、今日の今日で言うのも躊躇われて、一旦言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、どこかでご飯食べない?私が奢るよ。」
「いや…。女の子に奢ってもらうのは、僕のポリシーに反する。というか…いや…うーん…。」
もごもごといつまでも煮え切らない僕を見て、彼女が首を傾げる。その姿はまさに"花森澪"その人で、気持ちが一気に傾いた。
「"君の待つ明日"の…。」
「?うん。」
「"花森澪"の、コスプレを…してくれないだろうか…?」
言った。言ってしまった。
ただのクラスメイトに女の子キャラクターのコスプレをお願いするなんて、気持ち悪いと思われてやしないだろうか。引かれていないだろうか。
しかし僕の心配をよそに彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべており、ホッとして肩の力が抜けた。
「花京院くん、"君の待つ明日"好きなの?あれ、ストーリーいいよね!」
「!…うん。」
「それに、澪ちゃんが好きなの?私はね、唯ちゃんが好き。」
「へぇ、そうなんだ。」
学校で見るいつもの彼女よりも、今日の彼女はよく喋る。あぁ、可愛いなぁ。彼女とゲームの話ができるなんて思ってもみなかったから、僕もいつもよりもよく口が回った。
「あ…もうすぐ最寄り駅だね。ねぇ、花京院くんさえ良ければ、本当にご飯行かない?もう少し話したい。」
「そうだね。僕もまだ話し足りないし。」
彼女の最寄り駅近くのカフェで食事をしながら、2人でスマートフォンを覗き込んであれやこれやと色んな話をした。彼女もゲームが好きでかなりやり込むタチらしく、話は尽きなかった。
結局、彼女は僕のお願いを快く受け入れてくれて、2週間後には準備を完了させてくれた。イベントで着るから一緒に行こうと誘ってくれた時は嬉しくて、週末が待ち遠しかったが、ついにその日はやってきた。
そわそわして更衣室近くをウロウロしてしまって、傍から見たら完全に変質者だったに違いない。1時間程待って「ごめん花京院くん。更衣室混んでて…!」と小走りで出てきた彼女を見た時、感動のあまり膝から崩れ落ちそうになってしまった。
「か、かわ…。澪だ…!」
ちゃんと衣装を着て、ウィッグを被った彼女はもう、完全に"花森澪"そのものだ。まさか、この目で見られる日が来るなんて…!
「ふふ、ありがとう。…そこまで喜んでくれて、ちょっと照れる…。」
「はぁ…ありがとう、みょうじさん…。好き…。」
「えっ。」
「あぁごめん。つい心の声が…。」
「えっ、あの…えと、澪ちゃんが好き、って事だよね…?」
頬を赤らめて俯くみょうじさんを見て、きゅ、と心臓が小さくなる。
僕は元々、"花森澪"が好きだっただろうか?いや、僕も彼女と同じく、"白石唯"が好きだったはずだ。
という事は、僕が好きなのはきっと、"花森澪"ではなく…
「いや、君が好きだ。」
「あ、えぇ…?」
「最初は似てると思ってただけだった。けど、可愛いと思ったのは"花森澪"じゃあなく、みょうじさんに対してだ。」
「花京院くん…今までそんな素振り…。」
「そんな事ない。クラスで僕が話す女子は、君だけだ。」
スルスルと、僕の中で絡まった紐が解けていくように気持ちが解けて1本の線になって行く。僕が無意識に取っていた行動はそういう事だったのかと、スッキリしていく。
しかし彼女の方は僕の心の内を伝えられて、逆に混乱しているようで少し申し訳なくもあった。
「別に今すぐ君とどうこうなりたい訳じゃあない。さぁ、今はイベントを楽しもう。」
「か、花京院くんばっかりスッキリして、ずるい…!」
「ふふ…、君が僕で頭がいっぱいになるのは、嬉しいな。」
あぁ、今日も彼女は、可愛いな。