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「……、承太郎、今…何、を…。」
珍しく承太郎から呼ばれて何か用だろうかとみんなから離れ、近くの路地裏までノコノコ着いてきたら、突然承太郎の影に覆われ、キスされた。と、思う。
あまりに唐突で短い時間のキスで、本当にされたのかよく分からなかったが、見上げた承太郎の顔が至近距離にあって、それがじっと私を見下ろしていたのでそういう事、なのだろう。
咄嗟にドン、と彼の胸を叩いたがビクともしなくて余計に焦ってカッとなり、バチン、と頬を叩いてようやくお互い、我に返った。
最悪だ。勝手にキスしてきたのも最悪だし、その後に何も言わないのだって最悪。私の気分も最悪だ。
相変わらず口を閉ざしている承太郎はきっと今は何も言わないだろうと、踵を返して逃げるようにみんなの元へと駆け出した。
「ポルナレフ、ちょっと。」
「うわ、ちょっと、何なんだ?」
花京院くんの顔を見れない。少々不自然ではあったが、ポルナレフの腕を掴みみんなから離れた。向かう先は、特に決まっていない。とにかく今は、承太郎と花京院くんから離れたかった。
何も言わずに数分間歩き続けていると「なまえ」ととうとう名前を呼ばれ、足を止める。ここまで何も聞かずに着いてきてくれて、本当に有難い。
「さっき承太郎に呼ばれてたみてーだが…お前ら、なんかあったのか?」
あった。あったよ。確実に私達の間には不明瞭な何かがあったし、承太郎自身にも理解不能な何かがあった。今まで何も聞かずに着いてきてくれたポルナレフに伝えられる事なんて、私自身に起きた事しかない。
「急に、承太郎に……キス、をされて……。頬にビンタして逃げてきた。」
「はぁ!?承太郎が!?」
本当、あの承太郎が、だ。
いつもそんな素振りは全く見せていなかった承太郎が、いきなりあんな事をするなんて。
それも私が、花京院くんの事が好きだと、知っているのにだ。
ポルナレフの口振りだと、彼も承太郎の行動の理由は知らないようである。
なんだかだんだん悲しくなってきて、ポロ、と零れてきた涙を自覚した途端に次々と涙が溢れてきた。
「おいおい…こんなとこで泣くんじゃあねーぜ…。」
「だって…勝手に出てくる…!」
こんな時花京院くんならサッとハンカチを差し出してくれるだろうが、生憎今ここにはいないので、大人しく自分のハンカチで涙を拭った。
「…承太郎、嫌い…。」
「あー…。気持ちは分かるが、嫌いになるのはやめてやってくんねぇか?」
「むり。万が一私の事が好きだったとして、私が花京院くんの事好きなの知っててこんな事する承太郎の神経が分からない。承太郎とは分かり合えない。」
「いやまぁ、そうなんだけどよ。」
「…やけに承太郎の肩を持つじゃない。なんなの?」
ポルナレフは承太郎派の思考の持ち主なのだろうか。だとしたら、彼とも分かり合えそうもない。やっぱり、花京院くんが1番だ。
「…お前こないだ、死にかけたろ?そん時に、花京院だけじゃなく、承太郎もかなりヤバかったんだわ。」
「承太郎が?」
「花京院も承太郎も、寝ねぇでオメーのベッドの横で目覚めるの待ってたんだぜ?花京院はともかく、承太郎まで。信じられるか?」
私の知らないところで、そんな事があったなんて。確かに私は数日前まで、毒によって生死をさ迷っていた。ジョースターさんが終始治癒の呼吸を流し込んでくれたため大事には至らなかったが、普通だったら死んでいたかもしれないらしい。言われてみれば目を覚ました時、2人揃って酷い顔をしていた気がする。いやしかし、だからといって私の心配をしたのとさっきのキスは、別物である。
「…私…花京院くんの顔、見れない…。だから、承太郎はきらい。」
「…ハァ…分かった。とりあえず戻らねーと…そろそろここを発つような話してたぜ。2人の顔は見なくていいから、戻れるか?」
「……ポルナレフが、壁になってくれるなら…。」
「ハイハイ。ったく、めんどくせーな。」
「私のせいじゃない!」
「なまえさん、何かあっ「ストップ、花京院。今はちょっと、そっとしといてやってくれ。」
お互いの姿が見えた途端にこちらに駆け寄ってきた花京院くん。心配してくれてるのに申し訳ない気持ちになるが、思わずサッとポルナレフに隠れると彼は花京院くんを制止してくれた。面倒くさがっていたのに、ほんと、ポルナレフのそういうとこ好き。
「…なぜ君にそんな事言われなきゃあならないんだ。」
「えっと…ごめんね、花京院くん…。」
このままではポルナレフが危ないと小さい声で花京院くんへ謝罪をすると戸惑ったような表情を浮かべていて、花京院くんは悪くないのにそんな顔をさせてしまってまたさらに申し訳なくなった。それもこれも、承太郎のせいだ!!
「……。」
「……。」
普段はギャーギャーと騒がしい車内が、今はその面影もなくシーンとしている。その原因は私と承太郎にあるのだが、助手席に座り外を眺めている私と後部座席で腕を組んでいる承太郎。視線が交わる事はなく、お互い言葉を発する事もない。
申し訳ない気持ちで車に揺られていたのだが、しばらく車内に気まずい空気に包まれているのを意識したらなんだか段々と腹が立ってきた。
なぜ、承太郎は何も言わないのか、と。
「…今日はこの辺りで野営しようかの。ポルナレフ、いい所で車を停めてくれ。」
あと少しで口から怒りに任せた言葉が出そうになった頃、ジョースターさんの一声でこの息苦しい時間の終わりが見えて、なんとか言葉を飲み込んだ。
少し先で車が停り、今日のキャンプ地が決まった。車を降りて真っ先にポルナレフを捕まえて、野営に必要な荷物を下ろす間も時折2人の視線を感じていたが気づかない振りをして仕事をこなした。忙しくしていなければ、またイライラしてきそうだったからだ。
「ポルナレフ、あっちに水辺があるよ。湧き水かもしれないから、見に行こう。」
「…おー。」
物理的な距離を、と思い、ポルナレフを伴い水辺までやってきた。はずなのだが。
「ねぇポルナレフ、この水、飲めそうだよ。わっ!」
「危ないよ、なまえさん。」
ぎゅ、と私の手を掴んだのはポルナレフではなく花京院くんだった。水際ギリギリに立っていたのを心配してくれたのだろうが、突然お腹にハイエロファントの触手が巻きついたのに驚いて足を取られたのだが。
「か、花京院くん…。」
ポルナレフは?と視線をさ迷わせるとみんなの元にいて、最初から後ろを歩いていたのは花京院くんだったのだと気づいた。ポルナレフ、裏切ったな…!
「なまえさん…本当に、何かあったのかい?承太郎も様子がおかしいし、心配なんだ。」
未だ握られたままの手に、またさらにぎゅ、と力が加わる。このまま甘えてしまいたいが、あの事を話して花京院くんがどんな反応をするのか考えたら、怖くて口にはできそうにない。
「俺が、なまえにキスをしたんだ、花京院。」
「…!承太郎!なんで…っ!」
なんで言ってしまうのか。それも、花京院くんの前で。
「えぇと…キスって…。君らは恋人同士だったか?」
「違う!!」
「…という事はつまり…?…まさか承太郎、同意も得ずに勝手に…!?」
「そうだ。」
「承太郎!花京院くんの前で言わなくたって!!」
デリカシーというものがないのか!
まさか私が花京院くんの事が好きなのを忘れているなんて事はあるまいに!
「もうやだ!承太郎なんて嫌い!!」
承太郎から離れようと腕を突き出すと、右手が承太郎を突き飛ばしたはずがやはりビクともしなくて、むしろ自分の体が後ろへと倒れて泉へとダイブした。
いや、しそうなところをハイエロファントの触手が阻止してくれた。
「…悪かった。お前が、ちゃんと生きているのが嬉しくて…。」
「そんなの…キスしていい理由にはならない。」
「そうだな…。」
逆光と帽子の鍔のせいで、承太郎がどんな顔をしているのかは分からない。だが、声は初めて聞くレベルで弱々しくまるで承太郎じゃないみたいだ。
「もうしねぇぜ。だから、……こんな事を言う資格はねぇかもしれねぇが、」
「?資格…?」
「テメーが花京院の事を好きなのは構わねぇし、俺の事を好きになってくれとは言わねぇ。だがせめて、俺を嫌わねぇでくれ。」
「は?」「え…?」
「……悪い。」
口元に手を当てて顔を背ける承太郎。いくら口元を抑えたって、外に出た言葉は戻らない。
「えぇと…何からどうしたらいいかな?」
「あぁぁぁの、花京院くん、えぇと、ちょっと待って…!」
「……。」
「ポ、ポルナレフ〜!!こっち来て!!至急!大至急!!一大事〜〜!!」
頭が回らないこういう時は、第三者である頼れるポルナレフを呼ぶのが手っ取り早い。
ポルナレフの介入により拗れかけていた私達三人の関係は、私と花京院くんは両想い、私と承太郎もほぼ元通りと、どうにかこうにかいい形に収まった。しかし私の足元は水に濡れ、野営の準備も遅れ、食事の準備を始める頃にはもう空は暗くなっていた。
「なまえ、もう大丈夫なのか?」とジョースターさんとアブドゥルさんは怒る事はせずにむしろ心配してくれたので「ご心配と、ご迷惑かけてすみませんでした」と謝罪をしたが、そもそもは承太郎のせいなのになぁ、とちょっと納得いかなかった。
「承太郎。なまえさんは許してくれたみたいだけど、僕は許さないからな」と承太郎を牽制してくれた花京院くんがかっこよすぎて、さっきまでの怒りは忘れて、晴れて恋人同士となった花京院くんの横顔に胸をときめかせた。
承太郎には悪いけど、きっかけを作ってくれて少しだけ、有難いかもしれない。