藤色のあったかもしれない話
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承太郎がホウィール・オブ・フォーチュンにやられるところだった、その日の夜。道中運良くホテルを見つける事ができ自然とそこに宿泊する事となった。取れた部屋は、ダブルが3部屋。普段であれば万歳をして喜んだかもしれないが、承太郎が死んだと思った日の夜。私は不安で心細くて仕方がなかった。思わず側にいた花京院くんの制服をぎゅっと掴んでしまって、その行動で花京院くんに心配をされてしまった。
「大丈夫かい?なまえさん…。」
「えぇと、ね…。…なんだか少し、心細くて…。」
「…僕でよければ、話を聞くよ。あとで部屋に行くからね。」
服を掴む私の手を優しく包む花京院くん。その手は温かくて、離れるのが惜しい。
「花京院さん。あたしはジョジョと同じ部屋でいいから。なまえさんの事頼んだわよ。」
「えっ。」
「アンちゃん…。」
パチ、と静かにウインクを飛ばしてくるアンちゃんは、もしかして気を利かせてくれたのだろうか?いつもアンちゃんは私の恋路を焦れったそうに見守っているので、有り得るかもしれない。
「えぇと…今日は僕と同室でもいいかな?なまえさん。」
そんなの、もちろん"yes"だ。
「今日は、ひどい目に遭ったね。」
「うん…。泣いてるとこ見られちゃって、少し恥ずかしいな。」
「そう?泣いてる顔も、かわいかったけど。」
「そういえば…。」
そういえば、花京院くんも泣いていた。…気がする。ホウィール・オブ・フォーチュンと戦闘になる前、私が車の中で眠っていた時。あの後ぎゅう、と強く抱きしめられて聞く事はできなかったが、あの時、花京院くんが何を思っていたのか気になる。
「花京院くんは……どうして泣いてたの?」
素直にそう問うと、彼は表情を硬くし、視線を逸らした。やっぱり、あの時花京院くんは泣いていたのだ。もしかしたら聞かれたくない事だったのかもしれないが、今聞かないともう聞く事ができない気がした。
「話したくないなら、いいの。でも…花京院くんも泣く事があるんだなって、安心したというか…。…ごめんね。」
「……謝らなくていい。…君には、あんな情けないところは見られたくはなかったんだが…。そう言ってくれて、僕も少し安心したよ。」
言いながら花京院くんは、少し表情を和らげた。…良かった。
「あの時はね、君の強さに、心を打たれたんだ。君が夢の中でDIOとどんな話をしたのかは分からないが、DIO相手に"殺してやる"なんて…僕には到底、できない事だったから…。」
「……私、声に出してた?」
かなり物騒な単語を花京院くんに聞かれてしまっていたのだと、この時初めて知った。"殺してやる"と言った時なんて、かなり感情が篭っていたはずだから…花京院くんには、聞かれたくなかった、かもしれない。
「僕からも、ひとつ聞いてもいいかい?」
「うん。なに?」
この話はもうおしまいだと言わんばかりに、花京院くんが声を上げる。花京院くんが私に聞きたい事とは何だろうかとじっと彼を見つめると、その瞳の綺麗さに目を奪われた。何度見たって慣れない、アメジストみたいな、藤色の瞳。
「君…承太郎に恋した事はないのか?」
「は…、え、承太郎…?」
何を言うかと思えばそんな質問で。どんな問いかけがくるのかと待っていたのにそんな分かりきった事を聞かれ、拍子抜けしてしまう。
「ないない。」
「本当に?ただの一度も?」
「ないよ。花京院くん、私の好きな男性のタイプは知ってるよね?」
「あぁ…うん。」
「じゃあ分かるでしょ?承太郎なんて王子様の欠片もないじゃない!」
「でも…強くてかっこいいだろう?時には守ってくれるし、女性は男性にそうされたら、少なからずときめいたりするんじゃあないのか?」
花京院くんは私の返答に納得がいかないのか、疑り深く質問を重ねる。いつもすぐに私の言葉の真意をそのまま受け取ってくれる花京院くんになかなか伝わらず、私の声も次第に大きくなってくる。
「私は私だよ、花京院くん。第一、花京院くんみたいな完璧な王子様がいるのに承太郎に恋するなんて、ありえないから!」
「…えっ。」
「…!…ち、違くて!!そうじゃなくて…!!い、今のセリフは深く考えないで!!」
必死すぎて間違えた!と慌てて訂正したが、訂正の仕方も間違えてやしないかひやひやする。私のあまりの必死さに「う、うん…」と気圧され気味に答える花京院くんはかわいいが、頭のいい彼の事だからどういう事か察してしまったかもしれない。
「…ふふ、なら良いんだ。僕の心配は解決した。次は君の心配事の話をしよう。」
途端に機嫌が良くなった花京院くんはかわいいし、本当に、とても綺麗に笑う。本当、絵に描いたような、王子様のような人だ。
「私…承太郎が死ぬかもしれないって思って、怖かった。アブドゥルさんがやられた時も、頭が真っ白になったし…。本当に、この旅は誰が死んでもおかしくないんだなって、実感した。」
「…そうだね。」
「でも…承太郎は簡単には死なないよね。聖子さんを残して死ぬなんて、承太郎は絶対にしないもの。」
「君…自己完結してないか?」
「……そうかも?でも、きっと花京院くんとお話したからだよ。それに、それが私の良いとこでしょ?」
「…ふ…、ははっ!確かにそうだ!」
「!」
わ…笑った…!花京院くんが、笑ってくれた…!
いつも笑顔を浮かべている花京院くんだが、その時の笑顔とは違う笑い方。笑うと案外口が大きくて、かわいらしい。こっちもつられて、笑顔になってしまう。
「ねぇ、花京院くん。こういう事を頼むのは、気が引けるんだけど……。えぇと…その、今日は私が眠るまで、そばにいてくれないかな…?」
「………えっ。」
「あのね、ちゃんと理由があるの。…私、たまに今日みたいに、DIOの夢を見るでしょ?DIOの夢を見ると、体が休まらないの。昼も見たのに夜もとなると、結構しんどいかなって…。」
それに今日は、承太郎が死んでしまったかと思って精神も摩耗している。正直今の精神状態でDIOの顔を見るのは、いつにも増して堪えそうだ。
「それにね、花京院くんがそばにいてくれたら、いい夢が見られそうな気がするの。」
ダメかな…?とダメ押しの単語を付け足して花京院くんを伺い見ると、少し目を離した隙に額に手を当てて俯いてしまっていて表情は分からなかった。この仕草…もしかして呆れているのだろうかと不安になってくる。怖いから眠るまでそばにいてくれなんて子供じみた事、頼むべきじゃなかったかもしれない。
「やっぱり、大丈夫」と前言撤回の言葉を吐きかけたところで花京院くんはパッと顔を上げ「いや、大丈夫だよ」と至極真剣な表情で私の言葉を制止した。よく分からないが、呆れられてはなさそうでホッとした。
「全く君は……かわいすぎて困るな…。」
「わっ…、…ありがとう…?」
ヨシヨシと少し強めの力で頭を撫でられて、また花京院くんの表情は見えなくなってしまった。
だけど私の見間違いじゃなかったら……少しだけ、頬が緩んでいた…気がする。
というか……、私いま、花京院くんに頭を撫でられて……?
「はわ……!」
それに気づいた途端に変な声が漏れて、慌てて口を塞いだ。
なにこれ、なんのご褒美?幸せすぎてニヤニヤが抑えられないんだけど…?
「…ご、ごめん!勝手に触れてしまって…!えぇと…なまえさん、先にシャワーを使うと良い。」
「あ…うん。ありがとう花京院くん。」
癒しタイム、終了。私のよりも大きい手が離れていってしまって名残惜しいが、あのままあの時間が続いていたらドキドキしすぎてどうなっていたか分からない。だから逆に助かったのだと、自分に言い聞かせた。
…花京院くんの手、大きかったな…。
やっぱり美人とはいえ男の人なのだと改めて認識して、また少しドキドキした。
「えっ、あの…、花京院くんは、シャワー浴びないの?」
私がシャワーを浴び終えて髪の毛を乾かしたりしている間、花京院くんは部屋にいて私の様子を眺めているだけだった。気になってはいたが私の寝る支度が終わったと声を掛けると「うん、じゃあ寝ようか」と私の方の布団を捲ってベッドへと誘導するので、思わず上記のセリフが出た。
「…正直に言うと、君にだらしない姿を見られたくないんだよ。君は僕の事を、完璧な人間だと思ってるだろ?…あぁ、君のせいじゃあない。僕が見られたくないんだ。そこは勘違いしないでくれ。」
「…そうなんだ…。…なんか、ごめんね?」
気軽に添い寝してくれと頼んだ事を、今さらながら後悔した。それと、勝手に私が花京院くんに、理想を押し付けてしまっていた事を。
「ふ……。」
優しく漏れた吐息が聞こえた瞬間、ポン、と頭に優しい衝撃。見ると花京院くんが優しく微笑んでいて、心臓がきゅっと小さくなった。頭を滑る彼の手付きは、さっきのよりもとても優しい。
「なら、早く眠ってくれると助かるな。」
「……ん、がんばってみる…。」
ドキドキして、眠れないかもしれない。ましてや呼吸矯正マスクを着けているのだし、なおさら。
そのまま自然な動作で手を引かれて、気がついたらベッドの中。花京院くんはベッドの脇に椅子を置いて座っているけど、未だ優しい手付きで私の頭を撫でていた。
「安心、する…。これならすぐ、眠れそうかも…。」
寝返りを打って花京院くんのそばに寄ると、すぐ目の前に彼の膝が見えて、そこからいい匂いが漂ってくる。やっぱり花京院くんからは、いつもいい匂いがする。
「…おやすみ、なまえさん。」
「……おやすみ…。」
花京院くん、と続けたつもりの私の声は、ちゃんと彼に届いただろうか。
如何せん彼の頭を撫でる手付きといい香りのおかげで、驚くほど早く眠気がやってきて抗う事は叶わなかった。本当はもっと長く、この時間を楽しみたかったのに。
いつか、私に無防備な姿を見せてくれる日が来るだろうかと、あるのかも分からないいつかを夢みた。
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