藤色のあったかもしれない話
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今日は1日休養日。読んで字の如く、体を休めて英気を養う日の事。いつものように花京院くんと出掛けたかったが、先の戦闘で怪我を負った彼を連れ回すのは気が引けて、それならばと承太郎に声を掛けた。
「承太郎、ちょっと買い物に付き合って欲しいんだけど」と言うと承太郎は横目でチラ、とこちらを見ただけだったが、花京院くんが「僕が付き合うよ」とベッドから体を起こそうとするとそれを舌打ちとため息で制止した。最初から素直に着いてきてくれればいいのに、承太郎の優しさは分かりづらい。
「花京院くんは、ちゃんと休んでて。もしも歩き回ったりなんかしたら、今度のランチ、奢ってもらうからね。」
「はは、それは僕のお財布が心配だな。うん、2人とも気をつけて、楽しんできて。」
別に承太郎とのショッピングを楽しむつもりはないのだが。楽しくないショッピングよりは楽しい方がいいのは確かだけど。
「いってきます」「いってらっしゃい」と挨拶を交わして部屋を出ると承太郎が「おい」と何か言いたげに私を見下ろしてきた。まぁ承太郎が何を言いたいかは分かるが、付き合いが長い人にしか伝わらないのではないだろうか。と、承太郎のコミュニケーション能力が少しだけ心配だ。
「花京院くんに、いつも色々贈り物を貰ってるでしょう?だから、私もお返しがしたいの。」
「あぁ?そんなの、テメー1人で買ってきたらいいだろうが。」
「承太郎は、私に何があってもいいの?私が1人で迷子になったと分かったら、花京院くんきっと、とても怒ると思うけど。」
それも承太郎に対して怒るはずだ。
「それに迷子ならまだいいけど、怪我なんてして帰った日には、承太郎も怪我しちゃうかもね。」
「…テメーら、うっとおしいぜ…。」
帽子の鍔を下に降ろす承太郎の仕草。これは、折れたというサインだ。なんだかんだ言って優しいんだから。
「ありがとう、承太郎」と素直に感謝を述べたのだが「さっさと行ってすぐに終わらせるぜ」と楽しむ気はないようである。
「財布とかは…」「財布は好みが出るからやめとけ」
「靴は…花京院くんのサイズ分かる?」「知らねぇ」
「んー、アクセサリーは花京院くんのキラキラしたビジュアルだとむしろ邪魔になっちゃうし…」「おい…テメーふざけてんのか?」
「失礼だなぁ!ふざけてないよ!!」
街を歩いて色々な店を周り何でもかんでも見てみたのだが、承太郎に却下されたり、しっくりこないものばかりで、やっぱり後日、花京院くんと一緒に来ればよかったと思った。
でも、それだと花京院くんは断るだろう事も分かるので承太郎を連れてきたのだが…これではいくら悩んでも決まりそうにない。
「おい、なまえ。別に今日無理して買う必要はねぇぜ。またあとで花京院と出掛けたらいいじゃあねぇか。」
「…そう、だけど…。」
私達に"明日"や"あとで"が来る保証はない。前々からそうではあったが、思い立ったが吉日、今日やりたい事は今日やってしまいたいという気持ちが以前よりも強くなっているのだ。
「お兄さん、お姉さん。」
承太郎と2人、道端で立ち尽くしていると露天商が声を掛けてきた。こんな時になんだとそちらを見ると「素敵な2人に是非」と見せられたのはミサンガ。何色もの色の糸で編まれた紐はシンプルだが美しく、キラキラした糸が入っている物もあるようだった。
「綺麗…これいくらですか?」と聞くと充分に予算内で、むしろ今まで貰ったプレゼントを考えると安い物であった。
「じゃあ、これとこれ、2つください。こっちは今ここで結んで貰えますか?」
「ありがとね。解けない結び方で結んであげるよ。…そっちのお兄さんはいいのかい?」
まさかとは思うが、承太郎とお揃いで着けると思われているのだろうか?それはめちゃめちゃ心外なのだが。
「この人は気にしないでください。そっちのは袋に入れてもらって…。承太郎、結び方覚えてよ。あとで花京院くんに結んで。」
「チッ…やれやれだぜ…。」
結果的に、承太郎を連れてきて良かったかもしれない。店主が私の左足首に紫色のミサンガを結んでいる間、承太郎はスタープラチナでじっとその様子を見つめて、流石というべきか、1度見ただけで「覚えたぜ」と言ってのけるのでやっぱりすごい。
ウキウキ気分でおまけのチェリーも買ってホテルの花京院くんのいる部屋へと行くと「おかえり、なまえさん」と笑顔で出迎えてくれてさっきまで悩んでいたのがバカらしくなるくらい幸せな気持ちでいっぱいになった。
「なまえさん、それ…。」
「!…花京院くん、気づくの早いね…。」
私の足元へと注がれる、花京院くんの視線。なぜだか少し切なげに見えたが「花京院くんの目の色みたいで綺麗でしょ」と言うと綺麗な目がまん丸に開かれたのち「そうだね…」と頬を緩ませた。
「それでね、花京院くんにも買ってきたの。」
「えっ、僕に?」
「うん。…これ、ハイエロファントみたいで綺麗でしょ?あと、私のは…いや、なんでもない。」
"花京院くんの瞳みたいで綺麗でしょ?"とは、恥ずかしくなって言えなかった。異性の瞳の色をイメージしたものを身につけているなんて、付き合ってもいないのに言えるわけがなかった。
「はぁー……。なんだ。てっきり承太郎とデートにでも行って買ってもらったのかと…。」
身体中の空気を絞り出すようにため息をついて放った花京院くんの言葉は、きっと安心からきたもの、だと思いたい。いや、そうだと嬉しい。
「なんで俺がコイツに」という承太郎の言葉も気にならないくらい嬉しくて、思わずニヤニヤしていたらドン引きされたが、それさえ気にならなかった。もう…花京院くん、好き…!
「オラ、足出しな、花京院」と花京院くんの足首に器用にミサンガを結ぶと、やっぱり予想通り花京院くんによく似合っていて、安い割にはいい買い物をしたな、と大満足だった。
「店主から聞いたが、左足首にミサンガを着けるのは"恋人がいます"っつーサインらしいぜ。」
「はっ?」
嘘だろ承太郎。私も花京院くんも、ミサンガを左足首に着けた。それも解けない結び方で。なぜ、結び終わってからそんな大事な事を言うのか!
「ご、ごめん花京院くん。私、知らなくて…!」
あわよくば花京院くんと恋人同士になりたいと思ってはいるが。むしろこのミサンガの意味を本当にしてしまったっていい。
「ふ……ふふ。いいよ。君とお揃いなら、なんでも嬉しい。」
「えっ、あの、どういう…!」
嬉しそうにはにかむ花京院くんがかわいすぎるし発言もなかなかに爆弾発言だ。承太郎は「俺はなまえの部屋で寝るぜ」とさっさと退散してしまったし。待って承太郎、置いていかないで!花京院くんの誘惑がすごすぎるってば!半分はからかいも含まれているだろうが、それにしたって残り半分の嬉しそうな笑顔は、私の心臓に無事、致命傷を与えたのだった。
本当にかっこいい…好き、大好き…!!