藤色のあったかもしれない話
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「アブドゥルさん。今日はジョセフさんのお部屋に行かれますか?」
今日は久しぶりのホテル宿泊。
いつもは花京院くんと同室になる(というか当たり前に同室にされる)のだが、今日は承太郎が花京院くんと話したい事があるという事でアブドゥルさんと同室になった。ポルナレフと同室になるかと思われたが、花京院くんが「ポルナレフはダメだ」と言うのでこの形になった。なぜ私ではなく花京院くんがダメだと言うのか、よく分からないが。
「そうだな。私になにか、用でもあったか?」
早速どこかへ行こうとしていたアブドゥルさんだったが、私の声に反応してくれ足を止めた。
「せっかくアブドゥルさんと同室なので、占ってほしいなぁと思って。」
「あぁ、そういう事か。構わんぞ。」
「やった!あぁでも、夕食後でもいいですか?このあと、花京院くんと約束があって…。」
「ふっ…私の占いは必要ないみたいだが。分かった、ではまたあとでな。」
「はい、楽しみにしてます!」
前々から占ってほしいと思っていたのだ。所謂、相性占いというもの。私と、花京院くんの。
中々アブドゥルさんとホテルが同室になる事もなく、かといって同室を申し出る勇気もないしみんなの前でお願いする勇気もなかった。本人の目の前で相性を占ってくれなんて言えないし、主にポルナレフやジョセフさん辺りがからかってきそうだし。
コンコン
「なまえさん、いるかい?」
「!花京院くん!」
「今ちょうど、外にジェラートの移動販売が来たみたいなんだ。食べるだろう?」
「本当?食べたい!花京院くんも食べるよね?」
いつもいつも、花京院くんは私が好きそうな食べ物のお店を見つけてはこうして一緒に行ってくれる。承太郎なんかは見つけたとしても"勝手に食えば?"という態度なので、花京院くんの気遣いは純粋に嬉しい。
本当に花京院くんは完璧な男性で、私の王子様すぎる。こんな人と付き合えたら、幸せだろうな…絶対に。
「では、よろしくお願いします。アブドゥルさん。」
夕食後、シャワーも済ませてあとは寝るだけという状態で、テーブルを挟んだ向こう側に座るアブドゥルさんに頭を下げる。
アブドゥルさんと同室になったのは初めてなので知らなかったが、あの髪型を解くと実はこんなに長かったのかと、内心少し、いや結構驚いている。
「ではなまえ。君は何を占いたい?」
「えーと、ある人との…相性占いを。」
「フッ…、ウム。では…。」
ケースに入れられたタロットカードをテーブルに置き、慣れた手つきで混ぜられるのを静かに眺める。なんだか、これからマジックでも始まりそうなほど滑らかな手つきでかっこいい。
「ここから、相手の事を思い浮かべながら、直感で1枚選んでくれ。」
再び束に戻され、扇状に広げられたカードを見つめてしばし悩む。花京院くん…花京院くん…と頭の中で唱えながら引いた1枚のカードをテーブルへ置くと、今さら少し緊張してきた。もう、引いてしまったのだ。
ペラ、と静かに裏返されたカードに書かれていたのは"The Hierophant"の文字。絵だけではよく分からなかったが、多分ハイエロファントと書かれている。
「ほぅ…これは…いいカードを引いたな、なまえ。」
「本当ですか?あの、どんな事が分かるんですか?」
「法皇の正位置はいい意味で捉えられる事が多い。まずは相手の気持ちだが、君を大切にしたいと思っているようだな。それに、君も相手を大切に思っている。」
「!それは…とっても嬉しいですね…。大切、かぁ…。」
思わず緩む頬を両手で包む。緩みきってしまった顔をアブドゥルさんに見られて少し恥ずかしい。
「ただし、向こうはかなり保守的なようだから、君からアプローチを仕掛ける必要があるが…焦ると失敗するのでゆっくり時間をかけるといいだろう。」
「はい!分かりました!」
「ははっ。そして、相性だが…お互い尊敬の心を忘れずにいれば上手くいくと出ている。君達は問題なさそうだな。」
「…アブドゥルさん。それ、特定の誰かの事を言ってませんか?」
「そうだな、失敬失敬!」
豪快に笑うアブドゥルさんはなんだか楽しそうだ。いや、嬉しそう、かもしれない。なんだか応援されているようで、少しばかりこそばゆい。
相性を占ってもらって、それもいい意味だったので大満足だったのだが、アブドゥルさんは1度纏めたカードをまたシャッフルしてテーブルに広げ始めた。
「…未来も見ておこう。いい意味とは限らないが、対策方法などがあるかもしれない。」
「未来…そんなのも分かるんですね。」
「2、3ヶ月後の近い未来ならな。さぁ、カードを選んでくれ。」
指示通りにカードを選び、テーブルの中央に4枚、その横に6枚のカードを置いた。アブドゥルさんがカードを捲っていくのをドキドキしながら眺めていると「やはり、君達の相性はいいみたいだな」と言ってくれるのでまた頬が緩みそうになった。しかし、3枚目、4枚目、と捲っていくと徐々にアブドゥルさんの表情は曇り始め、とうとう手が止まってしまった。
「…これは、…いや、仕方のない事ではあるが…。」
「アブドゥルさん…?何か、良くない事でも…?」
そんな事ない、と言ってほしくて聞いてみたが、どうやら本当に良くないらしい。一体、どんな風に良くないのかは、分からないが。
「詳しい事は、俺にも分からん。が…このカードの出方を見る限り…恐らく、どちらかが…。」
そこまで聞いて、アブドゥルさんを制止した。それだけで、なんとなく言わんとしている言葉分かったからだ。
「それは…辛いですね…とても……。残す方も、残される方も辛いだろうな…。」
「……そうだな…。」
「でも、私も、花京院くんも、覚悟してついてきたんです。今さら帰れなんて、言わないでくださいね、アブドゥルさん。」
「…しかし…。…俺は、君にも花京院にも、生きていてほしい。生きてさえいれば、幸せになれるのだからな。」
アブドゥルさんの言う事は尤もだ。私と花京院くん、揃って生きて帰る事が叶えば、きっと幸せになれる。例え一緒になれなくとも、だ。
「この旅の終わりに立ち会えなかったら、私、きっと後悔します。花京院くんも同じだと思いますよ。」
「……そうか。そうだな…。」
「承太郎だけには、内緒にしてください。こんな事伝えたら、私と花京院くんを帰そうとするだろうから。学生組の大喧嘩なんて、見たくないでしょう?」
「…承知した。」
事前に知られて良かった。現実になるかは分からないが、覚悟はしておいた方がいい。それに、もしかしたら結末を、変えられるかもしれないし…。いや、淡い期待を持つのも良くない。それならば、後悔がないように生きる方が、ずっといい。
コンコン
「なまえさん、いるかい?」
「花京院くん!」
重苦しい空気を吹き飛ばす、花京院くんの訪問を告げる声。思わず反射的に立ち上がると、アブドゥルさんに笑われてしまった。
「こんな時にタイミング良く現れるなんて、花京院は本当になまえの王子様だな。」
「!…そうですね。…だけどそれ、花京院くんの前では言わないでくださいね。」
私が花京院くんを王子様だと思っているのは確かだが、それを周りの人達に言いふらしているのを知られるのはさすがに恥ずかしい。
小声で念を押すように頼んだのだが、分かっているのかいないのか、大声で笑いだしドアを開けるので花京院くんが戸惑っていた。
「なんだか、楽しそうですね。アブドゥルさん。」
「あぁ、お前達がかわいくてな。」
「もう!そんな事より花京院くん、まだ制服なの?」
「あぁ、さっきまで承太郎と話してたんだけど、ものすごく君に会いたくなってね。」
「えっ。」
ドキ、と心臓が音を立てる。花京院くんはドキドキするような事をサラッと言ってのけるから、本当に心臓に悪い。
「ハッハッハ!花京院、承太郎との話は終わったんだろう?私は承太郎の部屋で寝るから、花京院がこちらを使うといい。」
「「えっ?」」
今度は花京院くんも揃って驚きの声を上げた。アブドゥルさん、なんだか楽しくなってきちゃってるじゃん…!こちらの声は聞こえないとでもいうようにさっさと荷物を纏め、アブドゥルさんは本当に部屋を出ていってしまった。
ドアが閉まるのを見送って、2人で顔を見合わせて、どちらともなく笑いだした。
「ふふ、アブドゥルさんと、何の話をしてたんだい?」
「内緒。花京院くんは?承太郎と何を話してたの?」
「じゃあ、僕も内緒。」
幸せだなぁ、と思う。過酷な旅のこの束の間の幸せな時間が何よりも尊くて、一瞬一瞬を大事に過ごしたいな、と、何度目かも分からないがこの時確かに思った。
花京院くんと過ごせる今を、大事にしたいと。