藤色のあったかもしれない話
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「逸れちゃった…。きっとみんな、心配してるよね…?」
「主に花京院がな。まさか、オメーがついてくるなんて思わなかったぜ。」
現状を説明しよう。
私は今、承太郎やジョセフさん達と逸れてしまっている。それも、ポルナレフと一緒にだ。
こうなってしまったのは、いつも1人でどこかに行っては怪我をして帰ってくるポルナレフがまたどこかに行こうとしていたので、心配で声をかけたからだった。
一応離れる際に花京院くんに一声かけてから来たので、承太郎辺りは「ポルナレフと一緒なら大丈夫だろ」と言っているのだろうが、花京院くんは「ポルナレフと一緒だから危ないんじゃあないか!」と心配しているに違いない。
「ポルナレフの心配をして花京院くんに心配かけるなんて…。ついてこなきゃ良かった…。」
思わず本音が口をついて出てしまった。
というか、人が多すぎて流されてしまったが、ポルナレフはここから徒歩でみんなのところに戻れるのだろうか?
「来た方向さえ覚えていれば戻れるだろ。」
「…野生児か何かじゃないんだから…。」
なぜこうも自由なのか。
なんにせよ、承太郎達と逸れてしまった今、ポルナレフとも逸れてしまっては元も子もない。私は力は強いが体は大きくはないので、再び人波に流されてしまわないよう、ちゃんとポルナレフの服を掴んでおこう。
「…そうしてると、案外かわいいとこあるんだな。」
「私はいつもかわいいですー。ねぇ、これからどうしよう。」
さっきまでみんながいたはずのところには、もう誰もいない。どこかに移動してしまったのか、もしくは、この辺りは似たような景色が多いので、似たようなところまで私達が流されてしまっていて、あちらは動いていないのかもしれない。
「そうだなぁ。とりあえず、なんか食うか?なまえが好きそうなモン売ってるぜ。」
「そんな事してる場合じゃ……。…美味しそう…。」
この旅の目的はDIOを倒す事。ちゃんと覚悟をしてついてきたつもりではあるが、常に気を張っていると精神も摩耗してしまっていざという時に戦えなくなってしまう。つまり何を言いたいかというと、日本では食べられない美味しい物はこの機会に食べておきたい、という事だ。
「でも私、お財布ホテルに置いてきちゃった。」
「はぁ?」
「だって、今日はこの街に一泊するって言ってたから。食事をするにしてもジョセフさんが払ってくれるし、スられても困るしさぁ。」
「…ったく、仕方ねぇなぁ!」
「えっ、奢ってくれるの?ありがとうポルナレフ!」
ポルナレフに言われてから、何なのかは分からないがアレが食べたくて仕方なくなっていたのだ。
奢ってくれるらしいポルナレフに感謝を述べて手を叩いて喜ぶと、彼は少し目を細めて私の頭をポンポンと一撫でした。今、もしかして子供扱いした?
しかしすぐに「ホレ」と差し出された串に刺さった何かに意識を奪われ、ポルナレフの手ごと掴んでそれにかぶりついた。少々行儀が悪かったかもしれない。間違いなく花京院くんには見られたくない瞬間である。
「美味し〜〜!ねぇ、これ何?花京院くんにも食べさせてあげたい!」
「なんで俺が花京院の分まで買わなきゃなんねェんだよ。つーか、いい加減自分で持て、自分で。」
「だって、花京院くんがこういうのに齧り付いてるとこ見たいじゃん!そりゃ自分で買いたいけど、お財布置いてきちゃったし…1人で取りに戻れないしさぁ。」
「ハァーー…。俺は別に見たくもねぇんだけどな…。」
既に食べ終わった私の串を捨てて、ポルナレフは再度財布を取り出した。ポルナレフがいつも単独行動する事に加えて、普段花京院くんと一緒にいるおかげで絡む事は少なかったのだが、ポルナレフは意外にも私に優しいみたいだ。なんだか、承太郎みたい。
「ホラ、包んで貰ったぜ。これは自分で持てよ。」
「ありがと〜!」
「…いい笑顔だな。そんなに花京院が好きか。」
「!」
空いた手で、さっきのポンポンとは違い、今度はヨシヨシと犬を撫でるみたいに頭を撫でられる。なんだか、かわいがられているみたいだ。
「当たり前の事聞かないでよ。何も言わなくても、分かるでしょう?」
「オメーらは態度に出しすぎなんだよな。アレでまだくっついてねぇんだろ?ほんっと、信じられねぇぜ。」
「私達は私達のペースで進んでるから。口出ししないでよね。」
「…オメーらは本当、揃いも揃ってかわいくねーな。」
口ではそう言いながらも、頭を撫でる手は止まらない。これはもしかして、子供扱いというよりも…。
「ポルナレフ。私の事、妹さんと重ねてない?」
「!……あぁ…、そうかもな…。」
やっぱりそうだ。無意識に動いていた自分の手を驚いたように見つめる瞳は、過去を思い出しているかのような色をしている。
「かわいくない」と言いながらもかわいがるような動作をするなんて、家族に対する接し方だ。
「残念だけど、私には承太郎がいるから。承太郎も弟にしたいって言うなら受け入れるけど。」
「…あんな弟は絶対に嫌だな。マジでかわいくねぇじゃねぇか。」
承太郎が弟になる想像をしたポルナレフは、眉間に皺を寄せこれでもかというほど顔を歪ませている。めちゃくちゃ嫌そう。
「あっはは!分かる。その点、花京院くんはとてもかわいげがありますが如何です?」
「あぁ、花京院な。そう言われてみりゃあなまえの次にかわいいかもな。」
「花京院くんのかわいさをポルナレフが分かってくれるなんて!」
花京院くんは良くも悪くもポルナレフ相手に遠慮がないところがあるが、そこがかわいいと思っている。ポルナレフならばそこがかわいいと思えるのではないかと思っているのではないかと考えていたのだが、どうやらビンゴだったらしい。
「ポルナレフと話してる花京院くんは少し子供っぽくなって、そこがかわいいなって思ってるの。」
「へーへー。合間合間に惚気んなよ。」
「だって、私もたまには誰かに聞いてほし、…っわぁ!」
突然、お腹の辺りに擽ったい感触がして見てみると、緑色の紐状のものが目に入った。花京院くんの、ハイエロファントの触手だ。
「どうやら王子様が見つけてくれたみたいだぜ?」
ポルナレフの声に、彼の視線の先を辿ると1人で探し回っていたのか、花京院くんの姿しか見えなかった。
振り向いて名前を呼ぶと「なまえさん!」と向こうも名前を呼んで、やっとの事で数分ぶりの再会を果たした。
「ハァ…見つかって良かった…。怪我はしていないかい?承太郎は心配するなって言っていたんだが、ポルナレフと一緒だろう?むしろ君が面倒な事に巻き込まれるんじゃあないかと、気が気じゃなかったよ。」
息を整えながら私の安否を確認する花京院くんから紡がれた言葉は私が予想していた通りで、やっぱり承太郎達はポルナレフを信じて花京院くんが1人で探してくれたようだった。
「怪我はしてないよ。ありがとう、花京院くん。花京院くんが探しに来てくれて、見つけてくれて、嬉しい。」
「!…君が無事でよかった…。」
ぎゅ、と私の両手を彼の大きな手が包んだところでハイエロファントの触手が消えた。本当に、心配をかけてしまったみたいだ。
「おいおい。こんなところでイチャつくんじゃあねぇ。」
「ポルナレフ。そもそも君がいつもいつも単独行動ばかりしているから、心配したなまえさんが君を追いかけて逸れてしまったんだろう。」
「俺は団体行動が苦手なんだよ。最後にはちゃんと帰ってくるから、心配すんな。」
「帰ってこない心配じゃなくて、毎回怪我をしてくるから心配してるんだけど。」
「……それは、…自分の責任だから、オメーらは気にしなくていい。」
「僕が心配しているなんて、一言も言ってないが?」
「オメー、本当にかわいくねぇな!」
そう言ってポルナレフは、花京院くんの頭を乱暴に撫でつけた。さっき私を撫でた時とは違い乱暴な手つきで、嫌がって腕を払い除けようとする珍しい花京院くんの姿が見られた。花京院くんには申し訳ないが、かわいいところを見られて私は嬉しい。
「あ、そうだ。花京院くんこれ。すごく美味しかったから、花京院くんにも食べて欲しくて。」
「僕に?ありがとう、なまえさん。」
「おいおい。金を出したのは俺だぜ?」
「そうだろうな。朝ホテルを出る時に財布は置いていってもいいんじゃないかと言ったのは僕だ。」
「オメーかよ!」
さっきのポルナレフとの話を思い返して、なんだか本当の兄弟のように見えてきた。ポルナレフは花京院くんをかわいがっているし、花京院くんもなんだかんだポルナレフとの会話を楽しんでいるように見える。本人は、認めないだろうけど。
「そろそろ"お兄ちゃん"のところに戻らないと。」
「お兄ちゃんか…。君にそう呼ばれる承太郎が少し羨ましいな。」
「じゃあ花京院くんがお兄ちゃんになってくれる?あ、でも…」
「いや…」
「「それだとちょっと困る。」かな。」
「「!」」
「…お前ら、ほんと仲良しな。」
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