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イラッ
朝は通勤ラッシュで混み合うと思って時間をズラしてまできたのに、杜王駅へ向かうバスは9時を過ぎても混みあっておりバス停に並ぶ長蛇の列を見てため息が漏れた。S市の方で何かイベントがある日だと知って、途端に頭痛もしてきた。
事前に、調べておくんだった…。
駅前に買い物に行くだけのつもりだったが、車を出せば良かったと後悔した。しかし、バス停から家までは15分ほどかかるし、そこからまた車で行くのも面倒くさい。別の日にリスケという手もあったが、通勤用のバッグの金具が壊れてしまったためすぐにでも鞄を買い換えたい。
つまりは、今来たこのバスで行きだけ我慢するのが現状、1番マシな選択という事だ。
と、思って乗り込んだのだが…予想通り車内は満員で、バスが動き出すと周囲の人と体がぶつかり合う程の密度であった。
乗り込んでしまったが最後、終点の杜王駅まではとてもじゃないが降りられそうもない。
(……、っ!)
手摺りを掴み心を無にして耐えていると、後ろから太腿を撫でられる感触を感じて背筋がゾワゾワとした。
(痴漢…!?)
最初は気のせいだと思った。しかしその手はこちらが身動きを取れない事をいい事に、明らかに故意に手を当てている。
(ただでさえイラついてるのに…!!)
私が漫画やアニメのキャラだったなら、間違いなく今、黒いオーラが出ているだろう。あまりにムカつきすぎて思わずスタンドを出しそうになったが、人でぎゅうぎゅうの車内で二次被害が出かねないため抑えているのもイラつきを増長させる要因になっている。
「みょうじ。」
ポン、と肩に手を置かれ名前を呼ばれたのと同時に、太腿を撫でていた手の感触が突然消え去った。
少し上の方から聞こえた声に首だけ動かして後ろを見ると、特徴的な白いコートが視界の端に映った。
「え、承太郎さん…?」
なぜ、こんなところに。
普段車で移動している承太郎さんが、こんな超満員のバスに乗っているなんて意外でしかない。
ずっと背中を向けているわけにもいかず、少し身を捩って顔が見える角度へ体の向きを変えた。
「たまにはいいかと思って乗ったんだが、徐々に人が増えてきてな。」
なるほど、私よりも先に乗っていたらしい。徐々に人が増えて戸惑う承太郎さんを想像したら、少しだけかわいく思えて笑ってしまった。
「承太郎さん、今、何かしました?」
「…まぁ、少しな。」
私の言う"何か"とは、"スタープラチナで何か"したかどうかだ。やっぱり、時を止めて何かしらはしてくれたらしい。
「殺気が出ていた。」
「え…私が、ですか?」
さっきのイライラした黒いオーラが、いわゆる殺気だったのだろうか。そんなところを承太郎さんに見られて、恥ずかしいったらない。
「それで、テメーはアイツをどうしたい?」
「アイツ…?あぁ…。」
少し離れたところでキョロキョロと辺りを見回す不審な男。さっき私に触れてきたのは、きっとアイツなのだろう。
「正直いって、めちゃめちゃ殺意は湧いてますけど…。一般人なので、仕方ないですが生かしておいてあげましょう。」
「……意外と、物騒な事を言うんだな。」
「そうですか?」
「あぁ。その割にはモラルがある。」
「モラルがなかったら、きっと出会った時に承太郎さんにオラオラされてますね。」
こんなに喋ってくれる承太郎さんは初めて見た。そして話してみたら意外と、面白い人であった。
「モラルといえば…。アイツ、生かしておくのはいいですけど、露伴先生のとこに連れていきたいです。」
「露伴?」
「野放しにしておくと被害者が増える一方なので、二度とこんな事をしないように書き込んでもらうんです。」
「…なるほど。それはいい案だ。」
「なので承太郎さん。露伴先生は私が呼び出すので、あの男を捕まえとくの、手伝ってくれませんか?」
「あぁ、分かった。」
良かった。これでこの町から1人、犯罪者がいなくなる。前から思っていたがやっぱり、承太郎さんは頼りになる。結婚するなら承太郎さんみたいに強くて頼りになって、話していて楽しくなるような人がいいなぁ、と邪な考え事をしていたらカーブで足元が不安定になり、人が密集して足を咄嗟に動かす事ができずに慣性に従い承太郎さんの鍛えられた胸に飛び込んだ。
「大丈夫か?」
「は、はい。すみません…。」
うわーーーめっちゃいい匂いしたーーー。
それにめっちゃいい身体ーーー。
なんて、変態じみた事を思った。
これでは、あの痴漢と同じではないか。
いや、私のは事故なので違うのだが。
「君さぁ、僕をいきなり呼び出すなんていい度胸だよな。」
バスを降りてから承太郎さんが例の男を捕まえて、私が露伴先生を呼び出すとちょうど近くにいたらしく文句を言いながらもすぐに来てくれた。
相変わらず態度はものすごく大きいが、いきなり呼び出したのは本当なので笑顔で受け答えをした。
「まぁまぁ。杜王町から犯罪者が1人いなくなるんだからいいじゃないですか。」
「というか君、承太郎さんとバスに乗って出掛けるなんて、2人はそういう仲だったのか?」
「いや、ちが「あぁ、そうだぜ。」
「えぇっ!?」
承太郎さん、冗談とか言うんだ…!
さっきからいい意味で、私の中の承太郎さんのイメージを壊していく承太郎さんが気になり始めていた。
正直、露伴先生がヘブンズドアで痴漢男に書き込みをした時点で、痴漢に関してはもうどうでもいい。
「承太郎さん。この後は忙しいですか?」
「いや…。今日はこの周辺の調査をするだけだ。」
「!じゃあ、その調査お手伝いするので、私の買い物に少し付き合ってくれませんか?」
「いいのか?俺は構わんが。」
「やったー!痴漢は露伴先生が更生させてくれたので、もう大丈夫ですね!行きましょう!」
「おい。君…感謝の一言くらいないのか?」
「ありがと!露伴先生!じゃあね!」
最悪な日になるかと思われた今日は、こうして見ればいい日だったかもしれない。
今までただ頼れる大人の人だと思っていた承太郎さんの知らなかった側面を知る事ができたし、流れでデート(だと思っているのは私だけだが)までできるなんて!
むしろ逆に、痴漢男に感謝したいまである。
私にとって今日は、最高な日になった!