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「なまえの事、好きなんだけど。付き合ってくれないか?」
あぁ、最悪だ。
花京院先輩の驚いたように見開いた瞳と視線がかち合った。残念な事に、今告白してくれたのは視線が交わっている花京院先輩ではなく、隣のクラスの男子生徒だ。まさか、こんなところを花京院先輩に見られるなんて、思ってもみなかった。
「えーと、ごめん。私、好きな人がいるの。」
「そうか…。それって、毎日昼休みにどこか行ってるのと関係ある?いつもどこで食べてんの?」
「んー。ごめん、関係あるから言えない。内緒。迷惑かけたくないし。」
「そう…。はぁ〜…。本当、好きな人って、誰なワケ?答えてくれないんだろうけど。」
さっきまでそこにいた人だよ、と視線をさ迷わせるも、既に花京院先輩の姿は見えなかった。知り合いの告白現場に居合わせたら気まずいだろうし、私としても立ち去ってくれて助かった。
「うん、内緒。」
「それ…相手に配慮して言ってんだもんな。そういうとこが好きなんだよな〜。」
「そうなんだ、ありがとう。」
「なぁ、可能性はまだある?」
「……どうかな…。ゼロじゃないんだろうけど…今までこんなに人を好きって思った事がないから、今はゼロって答えたいな。」
「うわ、キッツ…。フラれた事だし、もう行くわ。なまえ、頑張れよ。」
「うん、ありがと〜。」
相手が誰とは言ってないが、バレやしないだろうか。私、顔に出そうだし。というか。
「花京院先輩に見られたの、嫌だなぁ…。」
どうしてよりによって花京院先輩に見られるのだろうか。1番見られたくない人に。
「みょうじさん。」
「わぁ!!…花京院先輩!いたんですか!」
物陰から姿を現した花京院先輩。とっくにいなくなっていたと思っていたのに、まさか隠れていたなんて…!なんだか気まずそうな顔をしているが、私も気まずい!
「動いたら彼に見つかると思ってね。せっかく勇気を出して告白したのに、邪魔されたらたまったもんじゃあないだろう。」
「それは、そうですね。」
それならば、私が去るまで待っていれば良かったのに。いや、こうして姿を現したという事は、私に何か言いたい事があるのかもしれない。
「…君…いや、……昼休みに、屋上で話そう。」
「え…あ、はい。またあとで。」
少し身構えていたので、肩透かしを食らった気分だ。しかし、これではこの気まずい空気のまま分かれ、気まずい空気で会わなくちゃいけない。私は別に先輩と会えるのならなんだっていいが、あまりにも花京院先輩が気まずそうにしているのでこちらまで緊張してしまうのだ。
なんとも微妙な気持ちで午前の授業をやり過ごし、とうとう昼休み。私は落ち着いているが、花京院先輩はどうだろうか。
「…来たね。行こうか。」
友人に呼び止められて少し教室を出るのが遅れてしまったため、先輩の方が先に着いて私を待ってくれていたらしい。先輩が私を待っていてくれた事が嬉しいが、その先輩はなんだか浮かない顔である。
「君さ…僕のどこがいいんだ?」
「えっ。」
屋上に出ていつもの場所に座ったところで、神妙な面持ちで口を開いた先輩が話し出したのはそれだった。
「一目惚れだと言っていたから、最初は顔だったんだろう?それもよく理解できないが…僕が聞きたいのは、今の話だ。いくら見た目が好きだからといって、君は全て受け入れるのか?」
「…確かに先輩のお顔は好きです。先輩の笑顔を見ると幸せな気持ちになりますし。その上で、私は花京院先輩の中身も好きだなって思ってるんです。」
「中身って…。僕は君に優しく接したりしないだろう。そんな、普段猫を被ってる男のどこがいいんだ。」
「私は、こっちの花京院先輩の方が好きですけど…。」
「…君、男を見る目がないんじゃあないか?」
なんて事を言うのだ!花京院先輩は!先輩こそ、見る目がない!
「先輩。男はね、優しいだけじゃダメなんですよ。王子様モードの花京院先輩も素敵ですけど、素の花京院先輩の方が、話してて楽しいし、居心地がいいです。」
「楽しいだって?僕は自分の事をよく分かってる。僕はどう考えても面白味のない人間だ。僕みたいなつまらない男に時間を割いてないで、君を好きだという男のところに行った方がいいんじゃあないか?」
「!!」
花京院先輩がつい勢いで言ってしまったのだろうとは分かっている。だって、私の顔を見て、しまった、と口元を抑えている。分かっている。分かっているのに、涙が1粒、ポロ、と零れたのを理解するとどんどん涙が流れてきて止まらなくなってしまった。
「先輩…、ごめん、なさ…っ。」
「どうして君が謝るんだ。この場合、謝るのは僕の方だろう。すまない。」
嫌だ。謝らないでほしい。だって、きっと先輩は悪くない。いつもの先輩との会話なら、涙なんて出なかったはずなのに。
「先輩…、私がこうして、纏わりついてるの、ご迷惑ですか…?」
「違う…。僕も、君と話していると楽しいんだ。迷惑とかじゃあない。」
「じゃあ、いいじゃないですか。今が良いのなら、遠ざけようとしないでください。卒業までの、約束ですよね?」
先輩は私の言葉を噛み砕くように俯き「そうだな…」と小さく漏らした。納得してもらえたのなら、とりあえずは一安心だと胸を撫で下ろすと、自然と涙は止まった。また、先輩のハンカチを借りてしまった。
「先輩。このハンカチ、」
「ダメだ。洗って返せ。」
「…ふふ、残念。」
いつもの調子に戻って良かった。先輩は多少無理をしているのかもしれないが。今はまだ、このままの関係でいられれば幸せだ。
「えっ、花京院先輩?」
あれから数日後。昼休みに屋上でお喋りをするのは変わらず続いている。屋上でしか会えない花京院先輩。の、はずなのだが。
朝、母にお使いを頼まれたのでいつもとは違う道を通って帰宅していたら、花京院先輩の姿を見つけた。そこは花京院先輩のイメージとは違う場所で、ただでさえ目立つ見目をしている先輩はものすごく目立っている。
「先輩、ゲームセンターなんて行くんですね。」
「みょうじさん。どうしてこんなところに…?」
見たところ友人と来たという感じではなさそうだったので、店内をキョロキョロしながら中に足を踏み入れた。ゲームセンターは不良の溜まり場というイメージがあったが、どうやらそんな事もないらしい。
「私はお使いの帰りなんです。花京院先輩は、ゲームが好きなんですか?」
「あぁ、まぁね。」
「そうなんですね!あの、邪魔はしないので、見ててもいいですか?」
「いいよ。あぁ、そこにいると邪魔になるから、隣においで。」
「!は、はい。」
お母さん、お使いを頼んでくれてありがとう…!そのおかげで今、娘は幸せです!
横長の椅子の隣に腰掛けると、先輩からはハンカチと同じいい匂いが香ってきて頬が緩んだ。先輩、いい匂いすぎる。それに、こうしていると花京院先輩の綺麗な長い指がよく見える。つまり、幸せ。
「先輩…めちゃめちゃ上手ですね。」
ゲームの事はよく分からないけど、すごい事をしているのだけは分かる。私には到底できそうもない事を。
「そう?このゲームは家庭用ゲーム機でやったんだけど、実機でもやってみたくなってね。やっぱり少し難しいな。」
「とか言って、先輩1位取ってますけど…。」
「そうみたいだね。」
1位を取ってもそんなに喜んでいる様子はなく、恐らく1位を取るためにやっているのではなく純粋にゲームを楽しむためにゲームをしているのだと分かった。
「ゲームしてる先輩、楽しそうですね。かわいい。」
「君、いま僕にかわいいって言ったのか?」
「…ふふ、言ってません。好きって言いました。」
「……。」
先輩は、かわいいと言われるのが嫌みたいだ。もう、それすらもかわいい。拗ねた顔も、かわいい。好き。