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「ッ、テメェ…その顔…!」
「あ…おはよう、承太郎…。えっと、その、…違うの。」
まただ。
コイツはなんだっていつも、ろくでもねぇ奴ばかりと付き合おうとするんだ。
「今度の人はね、私の事、とっても大事にしてくれてるの!」と言っていたのは確か、つい先月の事だったか。それが今になってみればいつもの、お決まりの、明らかな暴力の痕が白いガーゼで隠されている。
「テメーはいつもいつも、懲りねぇ奴だな…。」
「そう、だね…。でも、本当は彼、悪い人じゃなくて…。」
「女子供に暴力を奮う奴は、悪い奴だぜ。その辺の小学生でもそう言うんじゃあねぇか?」
「そっ、……。」
反論ができないところを見ると、心のどこかではおかしいと感じているらしい。それが、せめてもの救いか。
「……やれやれだぜ…。悪い事は言わねぇから、今すぐ別れな。」
「……うん…。」
「ハァ…嘘だな。俺もついて行くぜ。」
「……はい……。」
全く。コイツのこういうところが、見ていて心配になる。
「で、テメーか、こいつを殴ったクソ男は。」
「え……JOJO…?え…?」
こちらの姿を認めた途端に小さくなる男。女に暴力を奮う奴はみんなそうだ。
なまえが何も言わないからと、いい気になりやがって…と、顔を見ただけでムカついてきて、思わず口よりも先に先に手が出た。
「あっ…!あの、承太郎…!」
「先に手を出したのは謝るぜ。殴った事には謝らねぇが。」
「……えぇと、承太郎がごめんね…。」
この期に及んで謝罪の言葉を口にし男にハンカチを差し出すなまえにため息が出る。しかしバシッと音を立ててなまえの手を払い除ける男に、殴って一旦落ち着いた怒りが蘇ってきた。
「テメー…俺の目の前でまた暴力か…。」
「承太郎っ…!さっき殴ったんだから、もういいでしょ?承太郎が本気で殴ったら、骨折しちゃうってば…!」
怯えた表情の男と、俺を止めようと必死ななまえを見下ろし、急激に熱くなった頭が冷えた。これ以上やったって、なんだか無駄な気がする。
「はぁ…女に守られて、情けねぇな。もう二度と、なまえに近寄るんじゃあねぇぜ。もしまた近づいたら、今の倍じゃ済まねぇぜ。」
「ハッ、ハイ…!!」
「…チッ、失せな。」
情けなく足を縺れさせながら去っていく男は、なまえの方に見向きもしなかった。恐らくもう、近付いてくる事はないはずだが…そもそもクソみてぇな男は全員、近付いてこなければいいのだが。
「……ありがと、承太郎……。」
「…テメーは、もっと男を見る目を養うんだな。」
「うん…そうだね…。あ、…例えば、花京院くんはどう?」
「……アイツは良い奴だが、やめとけ。ああいうタイプとテメーが付き合うと、ろくな事にならねぇ。…テメー、学習してねぇな?」
花京院は確かに優しいが、ああいうタイプはなまえみてーな奴と付き合うと面倒な事になる。というのを身をもって経験しているはずなのだが。コイツはどうやら、なにも学んでいないらしい。
「私が悪いのは、分かってるの…。だけど、私ってこういう性格だからさ。…このままの私を好きって言ってくれる人と恋人になれたら、幸せだなぁって、思ってるんだけど……。…私が変わるべきなのかな…?」
「あぁ?おい、なまえ。暴力はな、やった方が100パーセント悪ぃんだぜ。テメーが変わりたくねぇなら、変わる必要はねぇ。ただ、相手の暴力を受け入れるのは違うぜ。テメーは、暴力を受けて嬉しいわけじゃあねぇだろうが。」
「うん…。」
「付き合った奴の暴力は、肯定するな。受け入れるな。それでも暴力をやめねぇ、別れねぇって奴がいるなら、俺が手を貸してやる。せっかくの、幼馴染だからな。」
本当、俺が居なかったらコイツは、一生幸せにはなれねぇんじゃねぇか?と心配になる。このまま大人になったら、稼いだ金をむしり取られるんじゃないだろうかと考え、ゾッとした。
「ねぇ…。もしかして、なんだけど…、承太郎の気持ちは無視した場合の話、なんだけどさ…。」
「俺の気持ち…?一体、何の話だ。」
何かに気が付いたように、独り言のように話し始めるなまえは、もうあの男の事など頭から綺麗さっぱりなくなっているようだ。一体何を言うのかと黙って続きを待つと「私…もしかして承太郎と付き合ったら、めちゃめちゃ幸せじゃない?」と目から鱗が落ちたと言わんばかりの顔で言い放つので思わず眉間に皺が寄った。しかしよくよく考えてみると、別に嫌なわけじゃあねぇ事に気が付いた。その上コイツとの未来を想像して、案外悪くねぇかもしれねぇと思っている自分もいる。
「確かに、俺は絶対に、テメーに暴力は奮わねぇだろうな。…俺は、それでもいいぜ。」
「えっ…!?」
「テメーが幸せになれるんなら、俺はテメーと付き合ってもいいって言ってるんだぜ。」
「え……、えっ、承太郎が…?だって、承太郎はみんなの人気者で…私なんかと…。」
さっきの威勢の良さはどこへやら。またうじうじと下を向き始めたなまえの頬をギュッと片手で挟んで、無理やり視線を合わせた。
「みんな、は今、関係ねぇ。テメーがどうしたいかだ。」
頬を掴まれたまま、なまえは「あ、えぇっと…」やら「うーんと…」やら暫く唸って、やがて
「承太郎さえ良ければ…お願いします…。」
と、小さい声で答えた。
なまえは、俺が相手ならばいくらかは自分の気持ちを言える。きっと今の返事も、俺を気遣って言ったわけじゃあねぇはずだ。
この後、数年経っても俺達の関係は続くのだが、それは特に面白味はないので省く。ただ、この一件以降は怪我をする事もなくなり、笑顔が増えたのは間違いない。
なまえが幸せに暮らせている、という事だけは確かだ。
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