本編終了後
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最悪な夢をみた。ほんの数ヶ月前までは私の日常であったはずなのに、今となってはおぞましい記憶となってしまった、知らない男性との触れ合いや性行為の類い。そんなものが夢に出てきて、背筋がぞわりと粟立つ感覚がして、軽い吐き気すら感じる。本当に、最悪の目覚めだ。それに、今はまだ夜の時間帯のようで、窓から少し見える空は未だ真っ黒だ。
しかし、もう一度眠れる自信がない。高校を卒業したといっても、今は承太郎の家にお世話になっている身。今、再び眠る事ができなければ、確実に明日の朝、寝坊するだろう事は分かりきっている。
「はぁ〜〜…。」
長いため息とともに嫌な記憶を吐き出して、ゆっくりと布団から体を起こした。とりあえず、水でも飲んで一旦リセットしよう。
キシ…キシ…
なるべく足音を立てないようゆっくりと歩を進めて本邸へ上がったのだが、どうしても日本家屋特有の床板の軋む音が微かにだが鳴ってしまう。
ちゃんと眠っている人であれば気にせず寝ていられるぐらいの音だろうが、眠りの浅い人ならば気になるんじゃないかと心配になった。尤も、ホリィさんや承太郎の部屋はここよりも奥の部屋なのでそこまで気にしなくとも良さそうではあるが。
目的地であった台所で食器棚から静かにコップを取り出し、水を注いでゆっくりと喉に流し込む。朝はまだ冷えるこの季節、蛇口から出てくる水も冷たくて、目論見通り気分が軽くなった。
「なまえ…。」
突然背後から名前を呼ばれ、軽く肩が跳ね、心臓がものすごい速さで脈打ち始めた。ドッドッドッと、血液の流れる音が自分でも分かる程には驚いた。
「…承太郎。」
「…こんな時間に、何してる…。」
夜中という事もあり、承太郎はものすごく眠そうな顔で私を抱きしめた。その珍しい顔を見る限り、数分前まで当たり前に眠っていたのだろう事が分かって少し申し訳なく思った。きっと、私が起こしてしまったのだ。
「起こしちゃってごめんね…。喉が渇いて…。」
「…いや…別に構わねぇ…。…もう少し寝ようぜ。」
「そうだね…おやすみ、…って、承太郎…?」
体を離した承太郎は、今度は私の手を取って歩き始め、分かれ道を過ぎてもその歩みは止まらなかった。
つまるところ、私達は承太郎の部屋に向かっているらしい。えーと、いいのかな?
やがて辿り着いた承太郎の部屋は当たり前だが真っ暗で、少し緊張してしまう。どうしたものかと立ち尽くす私とは裏腹に承太郎は普段通りにさっさと布団に入り「早く来いよ…」と布団を持ち上げるので大人しくそれに従った。
「あったけぇ…。」
「…あったかいね。」
私を腕の中に閉じ込めてぬくぬくと温まっている承太郎は、なんだか子供みたいでかわいい。それに、優しいけれど力強い腕に私も安心した。
「なんかあったか。」
疑問文のようで確信めいた承太郎の声に顔を上に向けるといつもよりもいくらか柔らかい彼の瞳と目が合った。近くで見ると、意外にも睫毛が多く長さもある事に気がついた。
「ちょっと、夢見が悪くて目が覚めちゃって…。」
「…そうか。」
ヨシヨシと頭と背中を撫でる手つきや彼の優しさに、ちょっとだけ涙が出そうになった。本当に、承太郎は優しい。
「…私、もう承太郎以外の男の人にはもう触れられないかも。…なんか、気持ち悪い。」
「…それでいいじゃあねぇか。」
「…ふふ、そうだね。あ、花京院くんは大丈夫かもしれない。」
「花京院にも触れられなくていい。」
それまでウトウトしていた承太郎だったが、花京院くんの名前を出した途端体を起こした。それにセリフも被せ気味で。あからさまにヤキモチを妬く承太郎を目の当たりにして、なんだか嬉しくなった。
「ふふふ、…別の意味で触れられないから、安心して。」
「…その"別の意味"が厄介なんだが。」
「じゃあ…私、絶対に花京院くんの方には行かないから安心して、って言った方がいい?」
「絶対、だな?約束を破ったら、首輪でも着けて監禁してやるか。」
「別にいいけど…承太郎は優しいから、可哀想になって外しちゃいそう。…花京院くんはそういう恋愛してても似合いそうだけど。」
「テメー…また花京院の話か。」
「あはは、絵になるなぁって事。わっ、待って、痛い…!」
「笑ってんじゃあねぇぜ。」
承太郎もすっかり目が覚めてしまったようで、体を起こして私の頬に噛み付いたり伸びてきた髭を当ててきたりでちょっとだけ痛い。だけどなんだか楽しそうで、強く止めるのは憚られた。
こうなってしまってはもう、すぐには眠れないだろう。
「承太郎、筋肉がたくさんあるから温かいね…むしろ暑いくらい。」
「オイ、あまりくっつくんじゃあねぇ。襲っちまうぜ。」
「…最初にくっついてきたのは承太郎じゃない。」
むしろそのつもりで連れてきたのかと思っていたのだが、恥ずかしいのでそれは言わないでおこう。
「さっきのは…眠かったんだ。仕方ねぇだろ。」
「へー、承太郎は眠い時甘えてくるんだ。」
「テメー…!」
がぶ、という効果音がつきそうなくらい大きな口で肩を噛みつかれるが、情事の際にしているそれとは違ってじゃれ合うもので、むしろいつもよりも痛い。
「痛いっ、承太郎、痛いってば!」
「ふっ…あんまり騒ぐと、お袋も起きちまうぜ?」
「っ!」
慌てて手で口を抑えた私を見た承太郎はニヤ、と悪い笑顔を浮かべて、再びがぶがぶと肩に噛みついてきた。手で押しても叩いても彼に敵うはずもなく、このまま食べられるのだと背筋が冷えた。
「…なまえ、悪ィ。そんなつもりなかったんだが、勃った。」
「っ、…知らないよ!自分で何とかして!」
「つれねぇ事言うなよ。」
「だって承太郎、1回出しただけじゃ終わらないんだもん。」
「まぁそうだな。1回で終われる自信はねぇ。」
「自信満々に言わないでよ…!もう、寝るよ!」
プイ、と承太郎に背中を向けると背中にくっついてきて、温かさに包まれた。腰に当たっているモノは考えないようにして目を閉じてその温かさに身を委ねていたらなんだか承太郎に守られているみたいで安心してきた。
「…おやすみ、承太郎…。」
また明日。
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