本編終了後
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お休みを取ったはずの承太郎が仗助くん達に呼ばれて席を外してから約数十分。
典くんと二人でカフェで食事をして待っていたのだが、その典くんも急ぎの電話に出て席を外して5分程経ったが、まだ帰ってくる気配はない。
食事も食べ終えてしまったのだが「ここから絶対に動かないように」という典くんからの言いつけを守るべく食後のティータイムを楽しんでいたところ、テーブルの上にドサ、と鞄を置かれ、自然と視線はその鞄を置いた人物へと移っていく。
「!露伴くん。」
「やぁ。今1人か?ご一緒しても?」
承太郎と典くんが警戒している人物である岸辺露伴が笑顔を浮かべ片手を上げていた。彼も承太郎と典くんと同じくスタンド能力を持っていて、その能力の詳細も聞いたが、漫画家 岸辺露伴にピッタリだと思った。
しかし、2人が警戒している意味はよく分からない。
昨日出会ったばかりだが特に何もされなかったし、何より典くんの絵を描いてくれて、私にとても優しくしてくれているのだ。
「露伴くんはこれからご飯?私はね、典くんと一緒だったんだけど仕事の電話が入ったみたいで…。ご飯はさっき食べ終わったところなの。」
「へぇ…よく君を1人置いていったな。」
「がんばって説得したんだよ?渋々席を外したけど、"絶対にここを動くな"って言われちゃった。」
「はは、その時の様子が想像つくな。」
「承太郎も仗助くん達に呼ばれて行っちゃって、今1人なの。だから露伴くんが来てくれて嬉しい。」
正直、食事が終わったにも関わらず1人でカフェにいるのは居心地が悪かった。お茶を飲み終えたらどうしようかと思っていたので、露伴くんがこうして同席してくれて嬉しい。それに、彼とは色々と話してみたかった。
「露伴くんのスタンド能力、教えてもらったよ。やっぱり、漫画を描くためにも使ったりするの?」
興味本位で聞いたこの質問に、彼は僅かにだが、私から目を逸らした。典くんから聞いた話だと、人の記憶を奪っていた事もあるみたいなのできっとバツが悪いのだろう。
「ふふ、安心して。別に軽蔑もしないし怒りもしないよ。単純にファンとして気になっただけ。」
笑顔を見せてお茶を一口流し込むと、露伴くんはその様子を見て「君…少し変わってるな」と一言。褒め言葉として受け取っておこう。
「私や大事な人に危害を加えるのでなければ、あとはどうでもいいの。私、スタンド使いじゃないし、そういうのは承太郎や典くんの仕事だから。」
「なるほど。割り切ってるという事か。」
「というより、一般人の私とスタンド使いの承太郎がたまたま夫婦になったってだけだから。私がスタンド関連の事に口出しする権利はないでしょう?」
露伴くんの能力は、少し気になるけどね、と付け足して、運ばれてきた食後のデザートのケーキを口に含んだ。生クリームが重くなくて、とても美味しい。
「僕のスタンド能力、ヘブンズ・ドアは、人の生まれた時から今までの記憶を読む事ができる能力だ。リアリティのある漫画を書くために、使わない手はないだろう。」
「ふふ、やっぱり!私のイメージする露伴くんなら、見てると思った。」
彼の描くピンクダークの少年は、デビュー当時からずっと読んでいる。彼の漫画はリアリティがあり、それが好きなのだ。きっと描いている作者は日々リアリティを求めているのだろうと思っていたのだが、その予想はどうやら当たっていたらしい。
「へぇ…。君、本当に僕の漫画のファンなんだな。とても嬉しいよ。」
「うん。実際こうしてピンクダークの少年を描いている人に会えて、私も嬉しい。漫画だけじゃなく、露伴くんのファンになっちゃった。」
こうやって話すのも楽しいし。露伴くんも楽しそうに見えるが、本当のところはどうだろうか。
「ねぇ…。」
露伴くんの注文した軽食とコーヒーの給仕が終わった頃、彼の耳元に口を寄せ、小声で彼を呼ぶと一瞬驚いたように肩を跳ねさせたが、私は気にせず言葉を続けた。
「露伴くん、私の記憶を読みたいと思ってるでしょう?」
ガタッ─
今度こそ本当に驚いたように椅子を揺らし、彼は私から距離を取った。その顔は"なぜバレたのか"と思っているようだった。
「分かるよ。…私ね、家庭環境があまり良くなかったの。中学高校の時に色々あって、そのおかげで、人が私に何かをして欲しいっていうか、求めてる顔っていうの?が分かるのよ。露伴くん、そういう顔してた。」
「……気になる言い方をするな…。…そうだ。正直に言うと、君の記憶を読みたいと思っている。昨日だって、承太郎さんと花京院さんの目を盗んで読めないものかと隙を狙っていたんだ。」
「あはは!正直で宜しい!」
潔い、と言った方がピッタリだっただろうか。読みたいか読みたくないかだけ答えれば済んだのに、全部言ってしまうなんて。彼のこういうところは、好感が持てる。
「それで…読んでみる?私、露伴くんになら見せてもいいよ。漫画に活かしてくれそうだし、読んだところで引いたり軽蔑したりしなさそうだし。人が普通に生活してたら経験しないような事もしてたし、いいネタになるんじゃないかな?」
「…自分で言うのもなんだが、正気か?」
「ふ…、本当に、それ露伴くんが言うの?」
「だって、昨日会ったばかりだぞ?僕が承太郎さんや花京院さんが言うように最低最悪の奴だとは思わないのか?」
「私、4年も露伴くんの漫画を読んでるんだよ?承太郎や典くんよりも、露伴くんの内面を理解してるつもりだけど。」
彼の漫画を読んでいると色々気付かされたり、考えさせられたり。最初は漫画のファンだったのに、いつしか漫画家 岸辺露伴の思考が気になりだし、ストーリーの中の露伴くんの真の意図を考察したりした。そして実際昨日会って話して、今もこうして会話をして、私の頭の中の岸辺露伴とあまり変わりがない事を確認もした。
彼は、私の不利益になる事はしないはずだと。
(正しくは、私が不利益を被ると承太郎や典くんに伝わり、自分も不利益を被る事になるから、だけど。)
私の返答を聞いた露伴くんはしばし考えたのち、ひとつため息を吐いてアイスティーを一口飲み込んだ。
「ますます君の事が気になってきたよ。」
「そう?ねぇ、私、露伴くんと友達になりたいんだけど、いいかな?」
「…それは、読んでから決めてもいいか?」
答えはもちろん"yes"だ。私の予想では、記憶を読んでも仲良くしてくれる気がしている。
「この事は、私と露伴くん、2人だけの秘密ね。」
「…そうだな。承太郎さんにバレたら、きっと1ヶ月の入院じゃあ済まないぞ。」
お互い誰にも口外しない約束をして、遂に儀式は始まった。儀式といっても私は何もする事はなく、露伴くんの「ヘブンズ・ドア」という呪文を聞いたところで、意識を手放した。
「ん…、あれ…?」
「起きたか。…君、見た目からは想像もつかない人生だったんだな。」
気がついて目を開けた時には、机に頬をつけて突っ伏していた。
どうやら露伴くんはもう私の記憶を読み終わったようで、冷めてしまった食事に意識を移している。
「それで…露伴くんはお友達になってくれるの?」
佇まいを直して再び質問を投げかけると、彼はチラリと視線だけこちらへ向けて「あぁ、構わない」と一言だけ。
やっぱりそれは、私の予想通りの答えだった。
「ありがとう、なまえさん。食事も済んだし、原稿を描かなくちゃならないから、今日はもう帰らせてもらうよ。」
「うん。私こそ、一緒にティータイムを過ごしてくれてありがとう。次のお話も楽しみにしてるね。」
自分の分の伝票を持ってそそくさと去っていく露伴くんは、この後私の記憶を元に漫画を描いてくれるだろうか。
「なまえ!今、露伴と話してなかったか?何もされてないか?」
「典くん。遅かったね。露伴くんは、ティータイムに付き合ってもらっただけだよ。そんなに心配しないで。」
少し息を切らせてやってきた典くんは露伴の小さくなった背中を睨みつけていて、露伴くんは本当に信用がないんだな、と少し笑ってしまった。
「何もないならいいんだが…。なまえ、承太郎の用事も終わったみたいだから、合流しよう。」
「うん。…あ。」
「?どうかしたのか?」
帰り支度をする典くんに倣って席を立ち、自分の鞄に触れた時に違和感に気づいた。が、典くんには何でもないと笑顔を見せた。
典くんがお会計に行っている隙に、鞄の中の違和感に触れ、そっと覗き込む。そこには色紙が1枚入っており、ピンクダークの少年のイラストと"友人であるなまえさんへ"と手書きのメッセージまで書かれていた。
なんとも、粋なことをする人だ。
「さ、行こうか。」
お会計が終わり戻ってきた典くんの声に、鞄を閉じ、差し出された手をじっと見つめる。
「典くん…。典くんと直接触れ合うのはだめだってば。」
「ふ…、自然に差し出したつもりだったんだけどな。騙されないか。」
「…服越しの腕がギリギリです。」
「僕は手でもいいんだけどなぁ。ねぇ、いつになったら僕のものになってくれる?」
「…っ!典くん!!」
いつにも増して押しが強い典くんは、やはり露伴くんの事を疑っているのだろうか。だけど、2人だけの秘密なのだから言うわけにはいかない。私と友達の、大事な約束なのだから。