本編終了後
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▽露伴視点
"承太郎さんの奥さんが杜王町に来ている"
偶然会った康一くんにそう聞いて、純粋に興味が湧いた。あの寡黙で何を考えているか分からない承太郎さんが選んだ女性。逆にいつもそばにいる花京院さんではなく、そんな面白みのなさそうな人を選んだ女性。そんなの気にならないわけがない。
どこかで偶然遭遇できないものかと歩き回ってやっと彼らを見つけたのは海だった。承太郎さんと花京院さんと、見た事のない小柄な女性が一人。長身な二人に挟まれて、子供みたいだ。三人とも、ボトムスの裾を捲り上げ海の中へ足を入れていた。
「奇遇ですね、お二人とも。」
「露伴か…こんなところで何してる。」
「たまには海でスケッチでもと思いまして。」
軽く手を上げて波打ち際で足を止め、承太郎さんと花京院さんに向けて声をかけると、三人の視線が僕へと集まった。
スケッチブックさえあればどこにいてもおかしくない口実になり得る。こんな時のために忘れずに持ってきて良かった。
「そちらの方は…もしかして噂の、承太郎さんの奥様では?」
「噂…?」
二人の間に立つ女性に視線を移すと、承太郎さんは目を細め花京院さんは僕と彼女の間に入って彼女の姿は見えなくなってしまった。どうやら、この二人は彼女を守る番犬らしいな。
「康一くんから聞いたんですよ。仗助の奴に会ったらしいですね。アイツ、色んな人に言い回ってるみたいですよ。」
「仗助くんのお友達?」
仗助の名前に反応して花京院さんの背中から顔を覗かせた彼女は華やかさはないが比較的整った容姿をしており花で例えるなら鈴蘭といったところか。控えめだが確かに美しさを持つ花で、花言葉は「純粋・純潔・謙虚」。花京院さんの腕に控えめに置かれた彼女の手を見て、そう感じた。
「仗助とは友達なんかじゃあない。あんな奴と友達なんて、考えただけで虫唾が走るね。」
「えぇと…ごめんなさい。」
「なまえ。君が謝る事じゃあないよ。彼はちょっと変な…いや、気難しいところがあるんだ。」
フォローしてるつもりか知らんが、今、花京院さんは僕の事を"変な"と言わなかったか?
「僕は漫画家の岸辺露伴。週刊少年ジャンプでピンクダークの少年を描いているんだが、知ってるかな?」
「!…知ってる。さっき承太郎が名前を呼んだ時、もしかしてって思ってたの。私、空条なまえです。よろしくね。」
「なまえ。名乗らなくていい。コイツには関わるな。」
握手のために差し出した手が触れ合うまであと少しというところで、彼女の手は承太郎さんの大きな手に包まれてそのまま離れていってしまった。承太郎さんに花京院さんに、ガードが固すぎる。
「酷いなぁ、承太郎さん。なまえさん、僕は今日、ここにスケッチをしに来たんだ。良かったら、三人の様子を描かせてもらってもいいか?」
「オイ。なまえに話しかけるんじゃあねぇ。近づくな。」
「承太郎。そんな言い方しなくたって…。スケッチするだけなら、別にいいでしょう?露伴くん、よかったら、あのシート使って。」
彼女、なまえさんが指さしたのは砂浜に敷かれた簡易的なシート。どうやらあれが彼女達の拠点らしかった。
「なまえ。露伴に関わるのは本当にやめておいた方がいい。敵ではないが、良い奴でもない。人間性が良くないんだよ。」
「花京院さん、そういうのは僕が聞こえないところで言ってくれないか?」
別に否定はしない…いや、否定できないが。
「ありがたく使わせてもらうよ」と感謝を述べてシートの方へ背を向けて歩き出すと「露伴くん」と彼女に呼び止められ「典くんの絵、あとでくれない?」と訳の分からない事を頼まれた。典くん、って、花京院さんの事だよな?なんで、夫である承太郎さんではなく花京院さんの絵を…?と思い問いただそうと思ったが、彼女のボディーガード二人に鋭い視線を向けられたので「あぁ、分かったよ」と答えるだけに留めておいた。
彼女の事が気になってこうして探し回り、接触したわけだが…余計に気になる。こうなったら、何がなんでもヘブンズ・ドアーで読んでみたい。まずは最強の二人のボディーガードをどうにかしなくては。と、悪い癖であるのは分かっているのだが、密かに闘志を燃やした。
「典くん、見て。ヤドカリがいる。」
「本当だ。踏んでしまわないように気をつけないとな。」
三人を観察していて思ったのは、やっぱり変、という事だ。なまえさんは少し沖側で何やら探している承太郎さんから離れ、波打ち際で花京院さんと貝殻を拾ったり今みたいにヤドカリを観察したりと、ずっと花京院さんのそばにいる。その距離は友達というには少し近い気もするし、お互いを見る視線が友達同士というにはなんというか…愛おしげであるような気がする。特に、花京院さんの視線が。
「少し暑いな。なまえ、きちんと水分補給しな。それと、ついでにこれ置いてきてくれ。」
承太郎さんの脱いだ上着がなまえさんへと手渡された。これは、こちらへやってくる気配。
「そうだね、一度休憩しようか。ほら、気をつけて。」
差し出された花京院さんの手をおずおずと握って海から上がってくるなまえさんは、どこからどう見ても承太郎さんではなく花京院さんの恋人。一体どういう関係なんだ。
シートへとやってきたなまえさんのために場所を開けた僕に向けられる花京院さんの視線は鋭い。いつも朗らかな表情を浮かべる花京院さんだが、これが裏の顔というやつだろう。いつもの花京院さんよりも好感が持てる。
タオルでなまえさんの足を拭いてあげている姿はさながらおとぎ話に出てくる王子様で、なまえさんは「自分で拭けるよ…」とは言いながらも満更でもなさそうにはにかんでいる。
「なまえさんと花京院さんは、どんな関係なんだ?ただの友達同士には見えないが。」
「ふふ、よく言われる。典くんはね、私のアイドルなの。王子様でもあるかな。」
「なまえ。露伴の質問に真面目に答えなくていいんだよ。」
ふざけた答えかと思ったら、ちゃんと真面目に答えたのか。それにしてはふざけた答えだが。
「アイドルか…なるほどな。」
花京院さんのどこにアイドル要素があるのかは分からないが、まぁ王子様ってのは分かる。それも仮初の姿ではあるが。
「アイドルは遠くから見ているのがいいでしょう?それに、アイドルと恋愛はできないでしょ?」
「そうハッキリ言われると、僕も悲しいんだけど…。…おっと、電話だ。なまえ、それを飲んだら承太郎のとこに戻るんだよ。」
「はぁい。」
携帯電話を持って離れる際にチラリとこちらを見た花京院さんの目力は普段からは考えられないもので、思わず背筋が冷えた。おまけに花京院さんのスタンド、ハイエロファントを置いていくのでヘブンズ・ドアーで彼女の記憶を読む事は叶わなさそうだ。
立ち上がった彼女は「それにね、」と続きを話し出した。
「ここだけの話、典くんと仲良くしてると承太郎がヤキモチ妬いてくれるの。」
「…へぇ、それは、意外だな。」
「ふふ、そうでしょう?二人には、内緒にしてね。」
「なまえ。」
僕と二人になったなまえさんに気づき、承太郎さんが彼女を呼ぶ。あれはヤキモチを妬いている顔なんかじゃあなく、威嚇している顔と言った方が正しい。余程僕の事を信用していないらしいな。
「ほら、早く行けよ。僕が睨まれるんだからな。」
「うん。ねぇ、先に帰ったりしないでね。あとで典くんの絵、見せてね。」
「はいはい、分かったよ。」
なんとなく、三人の関係が見えてきた。なまえさんの愛し方は、少しばかり特殊だったみたいだし、それに巻き込まれている花京院さんが少し気の毒だと思った。別に、ヘブンズ・ドアーで彼女を覗く必要もなさそうだ。しばらくは、こうして自分の目で観察してみよう。