1年目
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ、待って、承太郎。はぐれちゃうから!」
空港に到着すると、承太郎は私の荷物を全て持ってどんどん歩いて行ってしまうので、慌てて彼の腕を掴んで静止させた。自分で「走るんじゃあねぇ」と言っていたくせに、走らせるなんてとんでもない男だ。「悪い。」と一言謝罪をしたあとは歩を緩めてくれたがやっぱり1人で歩いて行こうとするので掴んだ腕はそのままにして彼について行った。
「ねぇ君、日本人?かわいいね。いくつ?」
外でSPW財団の車を待つ間に、現地の人に声をかけられる。英語は多少分からなくはないが、本場の英語となると少し難しい。「間に合ってます。」と答えたのだが伝わらなかったのか、なおも相手は喋り続けるので、めんどくさくなってそばにいた承太郎の腕に自分の腕を絡めたら承太郎が眉間に皺を寄せ私を見、私の視線の先を見てため息を吐いた。
「テメーは、目を離すとすぐこれだ。」
「は?私のせいじゃないじゃん!」
私はただ、立ってただけだ。いちいち癇に障る言い方をするんだから!
承太郎が一言二言相手に告げると、手を振って去っていった。何を言ったか知らないが、私も話せるようになりたい。この1年で、がんばればできるだろうか。
「そのまま、俺から離れるんじゃあねぇ。放っとくといなくなっちまいそうで何も手につかねぇ。」
「…はぁ…。そのセリフは、典明に言われたかった…。」
「はは。なまえ、僕から離れないで。君がいなくなるんじゃないか心配で、何も手につかないよ。」
「〜〜っ!それ!それ〜〜!!」
やっぱり典明が言うと全然違う!言い方と、笑顔が最高に良い!キャーキャーと典明相手に騒いでいたら「やかましい!!」と承太郎にデコピンされたが、今、スタープラチナが出ていなかったか?典明は驚いた顔でおでこを抑える私を見て、そしてムッとした顔で承太郎を見て抗議しているが、彼は気づかないフリをして視線を逸らしている。
承太郎のデコピンには確かに腹が立ったが、典明が私のために怒ってくれている上に、怒っている顔がかわいいので承太郎への怒りなんて吹き飛んだ。
「部屋はここを使え。必要なものがあったらすぐに言え。俺が買ってくる。それから飯は作らなくていい。俺が買ってくるから心配するな。昼は、ここにデリバリーのチラシを置いておくからそれで何とかしろ。」
「……ねぇ、承太郎は、私を監禁でもするつもり?」
アパートに着くなり私を座らせ、部屋中のエアコンのスイッチをつけて回り話し出した承太郎の言葉は、頭が痛くなる事ばかりだった。過保護にもほどがある。本当に言葉通り、監禁のようではないか。
「確かに今は、英語を話せないから心配なのは分かるけどさぁ。」
「いや、ダメだ。アメリカの治安を舐めるなよ。1人で出るな。どうしても出たいってんなら、SPW財団に連絡して財団員と一緒にだ。分かったな。」
承太郎が私の肩を掴んで凄むので、あまりの迫力に「はい」と言わざるを得なかった。だって、スタープラチナも出てた…。アメリカって、そんなに怖いとこ…?
「ねぇ承太郎…明日は、外に出られる…?」
言ってから、本当に監禁されているようだと思った。もしくは、囚人にでもなった気分である。そもそも承太郎がアメリカの大学へ行くのに着いてきたので、承太郎は色々と予定があるだろう。あんまりわがままは言えないなと思って控えめに尋ねたのだが、明日は外出できるらしいのでホッとした。そもそも、今日は布団がないので荷物を置いてホテルに行き、明日買いに行くのだと。最初に言ってほしいものだが。
「なんで承太郎と同じ部屋なの…?」
エジプトに行くんじゃないんだから、ひとり部屋がよかった。これでは、典明と愛を囁きあえないではないか。
「テメーが倒れたらどうする。それに、アメリカの治安を舐めるなと言ったはずだが?」
「……。」
ダメだ。承太郎はきっと、私が何を言おうと折れる気はない。それも、今に限った事ではないはずだ。恐らくこれは、お腹の子が無事に産まれるまで続くだろう。考えるだけで頭が痛い。
「お風呂入る…。」
「おい花京院。風呂に入ってる間に何かあったらすぐに知らせろ。分かったな?」
はいはい。過保護過保護。もう承太郎の過保護ぶりにはうんざりだ、と思ったら典明は神妙な面持ちで承太郎に頷いていたので、典明も大概かもしれない。
「眠いなら寝ろ。時差があるんだ。体感ではもう夜中だが…まだ夕方のようだな。」
承太郎の声に、落ちかけていた意識が浮上する。時差…舐めていた。完全に時差を舐めていた。対応できると思っていたそれは、想像よりもキツいものだった。シャワーを浴びた後に、ベッドに寄りかかってテレビを見ていたはずだが、いつの間にか横になっていたらしい。上に掛けられた布団は、承太郎の布団だろうか。ありがたくその布団に包まれて目を閉じると「おい。」と咎められた。「無理…寝てもいいって言ったじゃない…。もう動けない…。」と漏らすと勢いよく布団を剥ぎ取られた。酷い奴だ。
「典明〜。承太郎が酷い事する〜。」
「…おい、なんだその顔は。おい、花京院。」
承太郎のセリフを聞いて、典明が一体どんな顔をしているのか気になって目を開けると、初めて見るような冷たい目で承太郎を見ていた。そんな顔も綺麗だが、綺麗な分怖さがある。
「典明…かっこいい…。…好き…。」
「ふ…、僕も好きだよ。」
「ふふふ…。」
あぁ、本当にかっこいい。本当に好き。このまま、この気持ちのまま、眠ってしまいたい…。典明の愛おしそうな笑顔を瞼に焼き付けて、そのまま目を閉じた。
「はぁー…。やれやれだぜ…。」
バサ、という音の直後に浮遊感を感じて少し怖かったが、すぐにまた降ろされて、布団に包まれた。
「おやすみ、なまえ。」
典明のその声を聞いて、私の意識は簡単に途切れた。