1年目
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なまえちゃん…。いらっしゃい。」
「お邪魔します…!」
私は1人、花京院邸へとやってきた。承太郎も一緒に来ようとしていたが、彼がいると話がややこしくなりそうだったので聖子さんと2人で訪問した。電話をかけた時に、私の訪問を喜んでくれていたようだったので楽しみにしていたのだが、いざ今日になってみるとものすごく緊張してきてしまって、危うく具合が悪くなりそうだ。
「今日は、大事なお話がありまして…。」
お線香を上げて通されたリビングに腰掛け紅茶を一口飲んでから、聖子さんが早速口を開いた。
突然の訪問に、スーツ姿の聖子さん。典明のご両親も何かを察して、佇まいをなおしてこちらを向き直った。
「私、こちらのみょうじなまえちゃんの、母親代わりの者です。」と自己紹介する聖子さんに「お母さんです。血は繋がっていませんが。」と言葉を付け足した。典明のご両親は理解できてはいないような顔をしているが、「実の両親と弟は…半年前に、亡くなったんです。」と言うと驚きつつも「そう…大変だったわね…。」と気遣わしげな言葉をかけてくれた。言葉にしてみると、DIOの身勝手のせいでこんなにもたくさんの人が死んでいるのだと改めて気付かされて、思わず拳に力が籠った。
「それで、花京院くんとなまえちゃんの事なんですが。実は……つい先日、なまえちゃんが妊娠している事が分かりました。」
「!!」
衝撃の一言に、ご両親は言葉を失って腰を浮かせた。無理もない。17歳の、真面目で気遣いのできる我が子が、転校したその日のうちに姿を消したと思ったら、1ヶ月半後に遺体となって帰ってきて、さらに1ヶ月後に子供ができてましたなんて、突拍子もなさすぎる。
「あの、誤解しないでください。典明くん、きちんと避妊してくれていました。その、お互い初めてだったので、ちゃんとできてなかったかもしれませんが…。」
彼のご両親にこんな話をするのはいたたまれなかったが、ちゃんと言わないでいるのはもっと嫌だった。私の事なんて、今はどう思われてもいい。けど典明の事だけは、失望しないであげてほしい。
「それに、まだ付き合い始めて間もないのに、私が、お願い、して…。」
話していたらあの時の記憶が蘇って、勝手に涙が出てきた。泣きたくなんて、ないのに。今だけは。だってこのタイミングの涙なんて、ずるいじゃないか。
「本当に、典明との子供、なんですね…。」
典明のお父さんがそう一言零した。疑っているわけではなく、確認しているような言い方だ。本当に、信じられないのだろう。
「SPW財団の方で、DNA検査もできるみたいです。念のため検査はするつもりでいるので、ご協力頂いて…結果が出ましたらお送りします。」
「はい…。分かりました…。…それで、私達は、何をしたら良いでしょうか…?」
お母さんは無理やり頭を働かせて、私達にそう尋ねる。あまり混乱させても申し訳ないので、今日は妊娠の報告だけでお暇しようと思っていたのだが…話しても、良いだろうか?
「あの、勝手なお願いで恐縮なんですが…。子供が産まれたら…この子に、花京院の姓を、頂けませんか?」
「!それ、は…。」
私は、どうしても欲しい。この数日考えて、やっぱり欲しいと思った。この子は、私が産む。だけど、典明は。この子との繋がりは。死んでしまった今、直接的な繋がりが証明できないじゃないか。
「お返事は、今でなくても構いません。いいお返事が頂けるのなら、待ってます。…ずっと、待ってます…。」
その言葉を最後に、ついに誰も一言も喋らなくなった。
しばらく時計の秒針の音だけが聞こえていたが、私は冷めてしまった紅茶を全て飲み干し、立ち上がった。このままここにいたって、ご両親は話がし辛いだろうと思ったのだ。
「今日は、お暇します。突然すみませんでした。私、もうすぐアメリカに留学する予定なので、なにかありましたらこちらの電話番号に電話下さい。何時でも構いませんので。」
事前に準備しておいたメモを渡して、ついに花京院邸をあとにした。ご両親は最後まで申し訳なさそうに頭を下げていて、こちらの方が申し訳ない気持ちになってしまった。
「なまえ。」
「えっ、承太郎!?」
ついてこないでと置いてきた承太郎が、花京院邸の門のそばに佇んでいて驚いた。どれだけ過保護なんだ、この男は。もしかして私に焼いた世話って、こういう事を言っているのではないだろうか?だとしたら余計なお世話である。
「泣いたみてぇだが…大丈夫だったか?」
そう言って私の瞼を撫でる手つきは優しいが、ときめかないのは一体なぜだろうか。これが典明相手だったなら、今、顔を真っ赤にして彼の胸に顔を埋めていただろうに。
「承太郎、よっぽどなまえちゃんが心配だったのね。」
聖子さんの言葉に顔を顰める承太郎を見てため息が出る。過保護すぎてうんざりしてしまうが、これは承太郎なりの、不器用な気遣いなのだ。そんなの、邪険にできないじゃないか。
「ありがとね、承太郎。」
承太郎を好きにならなくて良かった、と思った。好きになったのが典明じゃなくて承太郎だったなら、とてもめんどくさかっただろう。いや、もしも承太郎の事が好きだったとして、あとから典明が現れたら、アッサリ乗り換えていたかもしれないな…と誰にも言えない事を考えながら典明を見ると不思議そうな顔で首を傾げていてかわいすぎた。やっぱり、私の恋人が最高すぎる。
「なんか疲れちゃったな。承太郎、家までおんぶして。」
「あぁ、いいぜ。」
冗談で言ったのに、すぐさま私の前にしゃがみこむ承太郎にめちゃめちゃ謝った。これでは、彼を揶揄うに揶揄えないではないか!本当に、めんどくさい!