1年目
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「…承太郎?どうしたの?授業は?」
保健室の先生に「放課後迎えにきてほしい」と承太郎への伝言を頼んだのだが、先生が出ていってから数分後に突然勢いよく引き戸が開けられ、直後にベッド横のカーテンも勢いよく引かれたのでとても驚いた。こんな事するのは承太郎しかいないと思ったら案の定承太郎だったのでため息が出そうになったが、逆に承太郎以外だったら困るのでその点は安心した。
「授業どころじゃあねぇ。帰るぜ。」
「え。いいよ、早退なんて。あと1時間でしょ。」
急を要する事態ではないのでそう言ったのだが、承太郎に鋭い視線を向けられたので口を閉じて、大人しく従う事にした。こうなった承太郎は、絶対に意見を曲げないのだ。
「えぇと、それはどうかと思う…。」
靴を履こうとベッドから足を降ろしたら承太郎はこちらに背中を向けてしゃがみこんで、視線で「乗れ」と伝えてきた。嫌だ。こんなの、学校中に注目されてしまうではないか。もしかしたら、承太郎と恋仲なのではと噂されるのも嫌だ。助けを求めて典明を見ると「?早く乗りなよ。」とそんな事意に返さないような反応をされたので、思わずため息を漏らして、仕方なく承太郎の背に身を任せた。
私の荷物は既に承太郎が回収しているようだ。彼が立ち上がると視線が急に高くなって、典明が私を見上げているのを見下ろした。承太郎の目線から見る典明は、なんだかいつもよりかわいく見えて新鮮だ。
「君に見下ろされるのは、ちょっと悔しいけど新鮮で、悪くないな。」
と笑った典明がかわいいのも、私を見上げているせいだろうか?
やっぱり、学校中に注目された。そればかりか、街中でもかなり注目を集めた。承太郎は普段歩いているだけで注目されるのだ。それが美少女をおぶって歩いているなんて、みんな気になって仕方がないだろう。恥ずかしい。
「なまえちゃん!どうしたの?」
空条家の門を潜ると、庭でイギーと遊んでいたらしい聖子さんが血相を変えて駆け寄って来てくれた。あぁ、心配かけて申し訳ない。
「具合が悪いってんで、早退してきた。布団の用意を頼む。」
承太郎の指示を聞いて、聖子さんはすぐさま家の中へと戻っていった。おんぶされたまま玄関で靴を脱がされて、そのまま自分の部屋まで連れてってもらって、敷いてもらった布団へと降ろされた。ものすごい好待遇である。私は、王族かなにかかと内心少し笑ってしまった。
「私、パパに頼んでお医者さん呼んでもらうわ。」
「あぁ、それがいい。」
「え、待って。アメリカ、今夜中だよ!?」
日本とアメリカの時差は14時間。日本は今、昼の2時だから、アメリカは夜中の0時頃なのではないか?それに、ジョセフさんに医者を頼むとなると100%SPW財団を動かすだろう。たかが私の体調不良にSPW財団を動かすなんて気が引ける!
「いいから、テメーは着替えて寝てな。そこから動くんじゃあねぇぜ。」
聖子さんはもうジョセフさんに電話をかけているみたいだし、承太郎はそれだけ言って部屋を出ていってしまった。ただ、立ちくらみがしただけ、なのに…。なんだか、どんどん大事になっていっている気がして、頭を抱えた。
「アギ。」
カリカリと襖を引っ掻く音がしたので開けてやると、イギーが当たり前のように部屋へと入ってきたので抱き上げて脚を確認すると、ちゃんと綺麗に拭かれているみたいだった。聖子さんに拭いてもらったのだろうか?しかし、今までお風呂以外では中に入ってくる事などなかったはずだが、どうして急に…。
「イギ…。」
「…もしかして、イギーも心配してくれてるの?」
布団の手前でお座りしてこちらをじっと見つめるイギー。まるで早く寝ろ、と言っているかのようだ。試しにそれに従ってみたら掛け布団を引っ張ってかけてくれようとしたので、思わず典明と顔を見合わせた。
「君…いつの間に、そんなに仲良くなってたんだい…?」
その言葉には、私は上手く答えられなかった。だって、触れさせてもらえるのだって稀だ。さっきだって、抱き上げた時に嫌そうな顔をしていたのに。
掛け布団をかけて横になったのを確認したイギーは満足そうな顔をしたあと、そのまま布団に乗ってきて、私のお腹辺りで丸くなって、そこで落ち着いた。しばらくはここから、動く気はなさそうだ。
「ありがとね、イギー。」
感謝の言葉とともに頭を撫でると大人しく受け入れたが、すぐに顔を逸らされたのでそれ以上はやめておいた。きっとしつこく構っていると、噛みつかれるだろう。
「おいなまえ。寝てるか?」
襖の外側から聞こえてきた承太郎の声に、私は目を開けた。どうやらいつの間にか、本当に眠っていたらしい。寝惚けたまま辺りを見回すと優しい笑顔を浮かべる典明と目が合ったし、イギーもまだ布団の上で眠っているようだったので、そんなに時間は経っていないだろう。
「んー…承太郎…?」
未だ眠さの残る頭を動かしてなんとか返事を返すと、ス、と襖が開かれて承太郎が姿を現して、布団の上のイギーの姿に顔を顰めた。承太郎はまだ、イギーが苦手らしい。イギーもイギーで、部屋に入ってきた人の気配に顔を上げて警戒し、承太郎を睨みつけている。
「SPW財団が来たぜ。」
「えっもう?」
アメリカから、一体どうやって…と考えていたら、どうやら日本支部の方から来てくれたらしく、そこでSPW財団の日本支部がある事を初めて知った。いや、そりゃそうか。聖子さんの時もすぐに駆けつけてきていたのだった、と今さら気がついた。
何やら思いつく限りの機材という機材を持ってきてくれたらしいので、部屋着のまま玄関へ赴くと、医師達が数名集まっていてやっぱり申し訳ない気持ちになった。もしかして、本当になにか病気なのかと疑ってしまうレベルだ。
「急を要するという事でしたので、診察は車内でも構いませんか?」
「あぁ、はい…。歩けるので、行きます。」
聖子さんも承太郎も心配の面持ちで、玄関で見送ってくれた。本当に、私でも気づかない重大な病じゃないといいんだけど…。
「これは、もしかして…!」
財団員さんの一言で色々な機材を取っかえ引っ変えして、最終的にはモニターに何かが映し出された。私のお腹に何かを押し当てているので、お腹の中の様子、なのだろうか。胃カメラを入れなくてもお腹の中って見えるんだな、と感心していると横にいる典明が「やっぱり…なまえ…。」と不安そうな声を漏らした。彼を見ると眉が下がってしまっていて、なにかお腹の中で起こっているのではないかと、私も急激に不安になった。
「みょうじさん。後日、再検査です。…先に申し上げておきますが、…もしかしたら、妊娠、しているかもしれません。」
「…えっ!!?」
妊娠、とは。まさかの言葉に頭が真っ白になる。だって、典明とそういう事は確かにした。だけどたった2回。たった2回だ。それで妊娠する事も、あるのかもしれないが、一応、避妊だってしてくれていたのだ、彼は。
「まだ決定ではありませんので、その辺はご承知おきください。…ご家族の方々には、話されますか?」
「…え、と…。お、お願いしても、いいですか…?」
回らない頭では、ちゃんと話せる自信が全くない。
呆然とした状態で車から降りると、家の中から承太郎が出てきて「おい…大丈夫か…?」と気遣ってくれたので思わず彼の手を握った。この時初めて気づいたのだが、もう片方の手はしっかりと典明の手を握っていて、彼を見ると眉間に皺を寄せながらも申し訳なさそうな笑顔を浮かべた。典明のその笑顔は、どういう感情の笑顔だろうか?と考えたが、なんだか怖くて、聞くことができなかった。