1年目
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プルルルル──
朝10時過ぎ。起きてゆっくり朝食を食べ、まったりとした時間を過ごしている中、私の携帯電話が着信を告げる。ディスプレイを見ると登録されていない番号からだったが、日本から掛けているらしい事は分かった。一体誰だろうと思いつつ「はい、みょうじですが…」と出てみると、なんと電話の向こうからは「花京院です」と言う女性の声が。典明の、お母さんからであった。
「あ…!」
なんと答えたらいいのか分からず、口篭る。電話の内容はきっと、アメリカに来る前にお願いした件についてだろう。心の準備をしてからもう半年も経とうとしていて、忘れかけていたあの時の決意を改めて思い出した。
(…しっかり、しなきゃ…!)
「久しぶりね、なまえちゃん。連絡が遅くなって、ごめんなさいね。」
「い、いえ、全然…!お願いがお願いでしたし、仕方のない事です…!それに私、いつまででも待てます…!」
「…ふふ、産まれるまでに決めなきゃならないのに?」
「あ…。えぇと、それは言葉の綾で…。」
笑い方が、典明とそっくりだ。顔は見えないが目尻を細めて微笑んでいるのが、目に浮かぶ。
「…体は、大丈夫かしら?悪阻とか…。」
「あぁ…まぁ、気持ち悪かったり眠かったりはほぼ毎日…。でも体だけは頑丈なので、順調です。…って、お医者さんが。」
「そう…、良かったわ…。」
「はい…。」
静かに、会話が途切れる。たった数秒の間が緊張感を醸し出し、無意識に背筋が伸びる。
「その…お腹の子の、苗字の事だけど…。」
来た。約半年前にお願いした、『お腹の子に花京院の苗字を下さい』というお願いへの返答だ。急に口の中がカラカラに乾いてきて、ゴクリと喉を鳴らす。
「まず確認させて欲しいのだけど…なまえちゃんは、それでいいの?」
「…え?」
「…こんな事を言いたくはないけど…もう、典明は亡くなっているのよ?なまえちゃんはまだ10代で、これから先にも素敵な人に出会うかもしれないでしょう?典明の事は忘れてくれだなんて言わないし、思い続けてくれるのは嬉しいけれど…、私達は貴方に、幸せになって欲しいのよ。」
「………お気遣い、ありがとうございます。」
あぁ、優しいなぁ。きっと典明のご両親は、私の未来の事も案じてくれているに違いない。さすがは典明のご両親だ。この2人が育てた典明が、こんなに素敵な人なのも頷ける。
「私は、大丈夫です。典明を思い続けます。きっと忘れようとする方が、苦しいだろうから…。それに、忘れられないですよ。あんなに素敵な人…。」
そもそも、典明以上に素敵な人なんてこの世にいない。いるはずがない。そう確信して言えるほど、典明は私にとって、世界で一番素敵な男性なのだ。
「…なまえちゃんがそこまで言うのなら…。ぜひ、産まれてくる子に花京院の姓をつけてあげて。」
「!……あ…、ありがとう、ございます…!!」
嬉しくて胸がいっぱいになって息苦しくて、言葉が続かない。隣に視線を向けると典明がいて、私と同じように口をキュッと引き結んで眉間に皺を寄せて涙を堪えていた。
「こちらこそありがとう、なまえちゃん。」
「そんな…、ありがとうだなんて…!…わた、私の方が、典明にいつも支えてもらって…!!」
「いいえ。…典明は亡くなってしまったけど、確かに典明という私達の子が生きていた証明してくれるのが、いま、貴方のお腹にいる子なの。」
「っ…!!」
そんな…そんなの、絶対に愛しくて、絶対に守ってあげなければならないじゃないか…!!
堪えていた涙はもう、ボロボロと瞳から零れ落ちてくる。
「…典明の、お母さん…!典明を産んでくれて、素敵な人に育ててくれて、ありがとうございますっ…!私も、この子を典明のように、素敵な人に育てます…!」
「なまえ…、どうした、大丈夫か…!?」
私の話し声を聞きつけてやってきた承太郎は、ボロボロと涙を零している私と典明を見てギョッと目を見開き背中を摩ってくれた。私は…、こんなにも愛されているのだと改めて実感した。まだ通話中だというのに涙は止まりそうになくて、承太郎に「典明のっ…、お母さん…」とだけ伝えて携帯電話を預けた。
「…なまえの、兄で…花京院の友人で…、」としどろもどろになりながらも典明のお母さんと会話をする承太郎の様子を見るのは初めてだ。だけどそんなのを気にしている余裕はなくて、隣で同じように涙を流す典明の手をぎゅっと握った。
典明、ありがとう。私、頑張るね。と、改めて心の中で誓った。
「随分とヒデー顔だな。」
涙が落ち着いた頃には電話は切られていて、典明のお母さんに申し訳なく思った。もう一度きちんと感謝を伝えたかったのに、それが叶わなかったからだ。
「元気な赤ん坊を産んでくれって、言ってたぜ。」
「うん…。典明のお母さん…好き…。お父さんも。…承太郎も、ありがとう…。」
「ン…。」
承太郎にくっついて素直に感謝を述べると、珍しく優しい手つきで抱きしめて頭も背中も撫でてくれて少し落ち着いた。深呼吸すると承太郎の匂いがして安心したが、これが典明の匂いだったらどれだけ幸せだっただろうと思わず典明と比べてしまったのを申し訳なく思った。
「なまえ…ありがとう…。僕も今ものすごく、君を抱きしめたいよ…。」
「…うん。私も…。」
たくさん泣いたからか、少しお腹が張っている気がする。元気な子を産んでと言われたばかりだし、大事を取って少し休もうと「承太郎…横になりたい…」と申し出ると「大丈夫か?医者を呼ぶか?」と瞬時に過保護モードに入るので雰囲気が台無しだ。承太郎も典明のお母さんと会話をして、より過保護になったのかもしれない。