1年目
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
睡眠障害や悪阻に苦しみながらも、なんとか頑張って生きていた。もちろんお腹の子も、私とは関係なく順調に育っている。
いま無事に検診を終えて帰るところたが、エコー写真で見た我が子はもう既に人の形をしていて、なんだか感動してしまった。承太郎に見せても「どこがどこだか分かんねぇ…」と言うのでつまらなかったが、典明はちゃんと分かってくれて「かわいいな…」と言ってくれたので喜びを共有できて嬉しかった。
「!動いた!承太郎!動いたよ!」
お腹の中で何やら動いたと、咄嗟に承太郎の手を取ってお腹に当てたのだがすぐに収まってしまい「分からねぇ…」と承太郎は眉間に皺を寄せてしまった。いつ動くか分からないし、動いたと思ったら止まってしまうし、早く承太郎にも実感させてあげたいのだが。
「…少し、腹が出てきたか?」
「分かる?元々履いてたパンツだと苦しくなってきたから、最近はこの前ジョセフさんに買ってもらったマタニティウェアを着てるの。」
承太郎の言葉通り少しずつ、少しずつではあるがお腹が出てきた。毎日する事がないのでクリームをかなりこまめに塗っているのだが、妊娠線が出ないか少し心配だ。
「…本当に、切っちまっていいんだな?」
「?…あぁ、うん。」
主語のない質問で、最初何が言いたいのかと思ったが、承太郎が言いたいのは"本当に髪の毛を切ってしまっていいのか?"という事だろう。
今日のこの後の予定は美容院だ。肩甲骨の辺りまで伸びた髪を今まで維持してきていたが、なんとなく、切ってしまいたくなった。1度そう思うと早く切りたいと思うもので、思い立った時に切ろうとしたのだが典明が切ってほしくなさそうだったのでずっと話し合いをしていたのだ。それが先日やっと終わり"君は何でも似合うだろうから、いいよ"と典明が折れた事で今日切りに行く事に決まったのだった。
「安心して、典明。ショートの私も、私だから。むしろ惚れ直しちゃうかもよ?」
「…そうだね。そう考えるとお得かもしれないな。」
「髪型を変える度に惚れ直してもらえるなら、これから色んな髪型にしようかな。」
それで何度も惚れ直してもらえるなんて、私からしてもお得だ。典明はかっこいいから、私はいつだって惚れ直しているが、私は少し頑張らないと惚れ直してもらえる自信がない。
典明は、今日もかっこいい。
「典明、どう?似合う?」
「〜〜っ!」
切り終わるまで頑なに私を見ようとしなかった典明。バサ、とケープが外されたのを合図にその藤色が私を見、みるみるうちに見開かれ、言葉にならない呻き声と共に大きな手で目を隠してしまった。
「ねぇ、典明…?」
何も言わないので不安になって名前を呼ぶとその手はゆっくりと退けられ「かわいすぎて困る…」と僅かに頬を赤らめて言うので私がノックアウトされるところだった。
「あぁ待ってくれ。切った髪は捨てないでくれ。宝物にしたい。」
「花京院。テメー、正気か?」
「あの髪は僕もこの手で触れたんだ。ねぇなまえ。君なら分かるよね?」
真剣な顔で私を見る典明。その鬼気迫る様子に、私は思わずたじろいだ。典明の言わんとする事は分からないでもない。私も逆の立場だったら、典明の髪の毛が欲しい。だけど、自分の部屋に自分の髪の毛を保管するのはちょっとなぁ…。
「いらねぇ。こっちに構わず、捨ててくれ。」
「承太郎!」
典明の声が周囲の人に聞こえないのをいい事に、承太郎が容赦なく捨ててくれと頼むので典明は怒りや悲しみの表情になり、見ているこちらの心が痛む。
「典明…分かったよ。ひと房だけ持って帰ろう?」
「…なまえ…!」
嬉しそうにしている典明を見て、ホッと胸を撫で下ろした。結局私は、典明には勝てない。典明が悲しむ事だけは、私にはできないのだ。
「ポルナレフに会いたい。」
あの日、空港で別れてから彼とは連絡を取っていない。承太郎は連絡先を知っているようだが、私は彼の優しさに甘えてしまいそうだと判断して連絡先を交換するのはやめておいたのだ。
しかし、ポルナレフに会いたくなってしまった。それも、今すぐに。そう思わせるのは、ポルナレフのお兄ちゃん感のせいだろうか。50日間もの間一緒に過ごしていたので、こんなに長い事顔を見れなくて寂しい。ものすごく。
「承太郎…寂しい…。」
「すぐに連絡する。ついでにお袋にも来られるか聞いてみるぜ。」
「うん…ありがとう、承太郎。」
なんだか、今日は不安定だ。自分でも分かるのだが、制御ができない。典明の手を掴んでみても、一向に良くならない。
「…承太郎、寂しい…怖い…。」
「あぁ…大丈夫だ。花京院も、俺もついてる。ちゃんと守るぜ。」
承太郎に抱きしめてもらっても、漠然とした不安は消える事はない。
「風呂に入って、今日はもう寝な。テメーが寝るまで、隣にいてやるから。」
「うん…ありがとう…。」
いつもは子供扱いされると嫌な気分になるのに、今はそれを気にする余裕はなく、大人しく甘えさせてもらう事にした。さすがに着替えは自分で取りに行ったが。
脱衣所の前で別れる時も承太郎は私が中で倒れるんじゃないかと心配しているのが目に見えて分かり申し訳なく思ったので、シャワーだけで済ませて10分程で出た。
「承太郎、上がったよ。」
着替えてドアを開けるといつの間にかドライヤーを手にしていて無言で抱き上げられたので浮遊感が怖くて服をぎゅ、と掴んでしまった。
「ポルナレフだが、日帰りで良ければ来られるみてーだぜ。」
「本当?断られると思ってたから、嬉しい。」
「アイツも、テメーを心配してたぜ。」
「…そう、だよね…。」
ポルナレフは面倒見がいい。そもそも、いつも無茶をする私達学生組を心配していたのだ。そこから典明がいなくなってしまって、私を心配するのは当然の事だ。もちろん、承太郎の事も。
「短いのもいいな。」
「…短いのもかわいいでしょう?」
「かわいいかどうかは知らねぇ。ただ、髪が乾くのが速ぇなと思ってな。」
「承太郎…君な。なまえのショートカットは誰がどう見てもかわいいだろう。僕は新しい扉を開いたぞ。」
「典明がかわいいって言ってくれればなんでもいいや。典明、ありがとう。好き。」
別に承太郎に分かってもらえなくとも構わない。典明がずっと私だけに言ってくれれば。
「ほら、もう乾いたぜ。とっとと寝な。」
「はぁ〜〜い。」
なんだか本当に眠くなってきた。これならすぐに寝られるだろう。問題は、悪い夢を見ないかどうか。
「おやすみ、なまえ。」
愛する典明がこんなにも優しく微笑んでくれているのだから、悪い夢なんて見ないでほしい。