1年目
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「なまえ。」
典明でも承太郎でもない声に名前を呼ばれて、意識が浮上する。目を開けているはずなのに薄暗くて、なんとなく埃っぽい部屋。眠っていたベッドから体を起こすと、布団に触れた感触がザラついていて鳥肌が立つ。いや、鳥肌が立ったのは、布団のせいじゃない。蝋燭に薄らと照らされたこの部屋は、見覚えがある。あの、DIOの夢に出てきた部屋だ。なぜ…、なぜまたDIOの夢なんか…!!
「なまえ。…久しぶりだな。」
先ほどと同じ声で私を呼ぶ、この声は、聞き覚えがある。もう二度と顔を見ることもないと思っていた、DIOの声じゃないか…!
「やめて。もう出てこないで。…あなたは、もう死んでるのよ…!」
死んでもなお、関わってこないで。私の、私達の中では、もう終わった事なのだから。私達は先に、進もうとしているのだから。
「そうだな…。だが、これはなまえ、お前の夢だ。俺が見せているのでもないし、以前のように夢が繋がっているわけでもない。これは、お前の記憶が見せている夢なのだ。」
その言葉を聞いて、眠る前に少しだけ、やつの事を考えた事を思い出し、後悔した。やはりDIOの事になると、ろくな事にならない。
「もうあなたには会いたくないの…。顔も見たくないし、声も聞きたくない…。」
埃だらけのベッドの上で膝を抱えて目を閉じて、早く目覚めろ、目覚めろ、と懇願する。典明…典明の顔が見たい…!
「ずいぶんと、弱くなったものだな、なまえよ。」
「うるさい!!」
そんなの、私が一番よく分かっている。私は、もうあの頃のようには強くない。典明が好きだと言ってくれた、あの頃の強い私はいないのだ。典明の死という恐怖から逃れられず、私はずっと、あの日から動けないでいるのだ。
「典明を返してよ…、私が好きだった、典明の体を…返してよ…ッ!!」
返せないというのなら、もう私の前に現れないでくれ。お願いだから。あんたなんて嫌いだ。大嫌いだ。二度と現れないでくれ。
「なまえ。」
突然腕を掴まれる感触がして、振りほどこうともがいたがその手は外れることはない。鳥肌が立つ。
「やッ…、触らないで!!」
「なまえ!!」「オイ!」
DIOの声じゃない声に名前を呼ばれ、ハッと意識が覚醒する。今のは、典明の声だ。私はまた眠っている間にベッドを抜け出してきたようで、典明と、なぜかホル・ホースと廊下に立っていた。
「…あ……、じょう、たろう…を、」
腕を掴まれている感覚がして見てみるとホル・ホースに掴まれていて、あれはDIOではなくホル・ホースに掴まれたのだと理解した。今の状況を理解すると足の力が抜けて、そのままゆっくり、床に座り込んだ。ホル・ホースが転ばないようにと介助してくれて、正直助かった。彼の介助がなければ、きっと勢いよく床に倒れていただろう。
「なまえ!」
「承太郎…!私、また夢を…。」
「あぁ、一人にして悪かった。」
血相を変えて駆け寄ってくる承太郎を見て少しだけ冷静になったが、彼の腕に伸ばした自身の手は震えていて、全然冷静なんかじゃなかった。
「典明……承太郎…。」
「うん。…僕はここにいるよ、なまえ。」
優しく抱き上げてくれた承太郎の肩越しに典明を見ると、眉を下げてはいるが笑顔を浮かべていて、その笑顔を見られただけで、今度こそ少しだけ、安心した。
「オイ…みょうじなまえは、ずっとそうなのかィ?」
「…そうだ。ここひと月はずっとだな。中野さん、あとは頼んだぜ。」
中野さんやホル・ホースには今の酷い顔は見られたくなくて、承太郎の肩に顔を埋めて、手を振って別れた。中野さんはまだしも、ホル・ホースにも心配かけるなんて、なんて情けない。なんて弱いんだ、私は。
「私…ッ、もう強くない。…典明が好きだって言ってくれた、強くてかっこいい私じゃなくなっちゃった…!」
「なまえ。花京院は、強かろうが弱かろうが関係なく、テメーの事しか見てねぇぜ。」
「違う…典明じゃなくて、私が嫌なの。典明が私を好いてくれているのは嬉しいけど、今の私を好きになってもらったって、意味ない…!典明が好きだっていう私が、こんな弱い奴なんて…私は嫌だ!」
「なまえ…。」
濡らしたタオルで足を拭いてもらいながら、私の気持ちを曝け出した。この2人には、分かってもらいたい。私の、典明への向き合い方を。
「私は…、胸を張って、典明にこんなに愛されてるんです、って言いたい…。前みたいに、自分で、誇れる私でいたい…。なのに…どうして…。」
「なまえ…、君は、やっぱりすごいな…。」
布団の上でメソメソする私に、典明は優しく声をかけ、私を肯定してくれている。チラリと典明を見ると優しい瞳で私を見て、瞳がキラキラ光っていて綺麗だ。
「なまえ。思い通りにいかなくて、悲しかったり悔しかったり、色々な思いがあるんだと思う。そんな泣いている君に、こんな事言うのはどうかと思ったんだが…。なまえ。僕は嬉しい。君がそこまで考えてくれて、その上で僕が好きだと、僕がいいと言ってくれて…。」
「おい…花京院まで泣くな…。」
承太郎の言葉通り典明の目からは、綺麗な涙が流れている。あまりに綺麗で見とれてしまいそうだ。
「なまえ…僕は…僕の方こそ、君が言うような、誇れるような男じゃあないんだよ…。僕は今、君と、僕と君の子供を、自分の手で守れなくて…とても、後悔しているんだ…。」
「ッ…、典明…。」
責任感が強くて優しい典明が、後悔をしていないわけがない。しかし、後悔すると分かっていて典明は命を懸け、私達はDIOに勝利した。私だって、後悔すると分かっていた。だけど…あの時典明が命を賭してくれなければ、全員殺されて、結局典明は、もっと後悔することになっていたはずだ。
「DIOが…!DIOだけが、死ねばよかったのに…ッ…!!」
こんな事は言いたくなかったが、つい口をついて出てしまった。私の中の、醜い感情が。
「…大丈夫だ。なまえ、花京院も。少し落ち着け。」
静かに涙を流し続ける典明と、わんわん泣く私を、承太郎にはどのように見えているだろうか。私を優しく抱きしめて背中を摩る承太郎は、お兄ちゃんというよりまるでお父さんのようだ。「手、握ってやんな。」と典明の手を握らせて、3人でひと塊になって、気がついたら気を失ったように眠っていたようで。まるで子供に戻ってしまったかのようだと思った。