1年目
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「なまえ、花京院。随分楽しそうだな。」
承太郎の声を聞いてハッと気がつく。かなり長い事喋っていた気がして時計を見ると承太郎と別れてから2時間は経っていて、なかなか戻ってこないのを心配してあちらから来たのだと思い当たった。
「ごめんなさい!少し、話しすぎちゃった…。」
「いや、別にいい。そろそろテメーの腹が空く頃だと思ってな。」
その言葉を聞いた途端鳴りだす、私のお腹。確かに、とてもお腹がすいている…承太郎は既に、私の空腹のタイミングを理解したという事だ。
「何か食いてぇものは。」
「うーん…向かいのお店で、何か適当に。」
中野さんやホル・ホースは午後の3時に食事は摂らないだろうと、気を遣って向かいのお店を指定した。すぐ目の前のお店ならば、ホル・ホースが何かしでかしてもすぐに対処できるという考えもあっての事だ。
「じゃあ中野さん、すみませんがよろしくお願いします。」
「はい。お気をつけて。」
既に外に出る準備を終えている承太郎に着いていき、中野さんとホル・ホースを残して家を後にした。飲食店に着くと3時という事もあって店内は空いていて、広めの席に着く事ができてホッとした。
「これとこれとこれをお願いします。残りはまたあとから注文します。」と告げると怪訝な顔をされたが、全て食べるので安心してください、と言うと了承し、裏へと注文が通された。
「ホル・ホース、誰を呼ぶって?」
「あぁ。知らねぇ奴だったぜ。ボインゴとかいう子供らしいんだが、知ってるか?」
子供?承太郎の問いかけに、私は首を振る。姿を現した典明も首を振って知らないと主張している。子供のスタンド使いなんて、会った事がない。会った事があればすぐに思い当たるはずだが…ここにいる誰も知らないとなると、かつての敵、ではないのだろうか?
「2日後にこちらに来るらしい。だいぶ渋っていたようだが、俺が話をしたら2日後に来ると自分から言ってたぜ。」
相手は子供なのに、承太郎は脅したんじゃないだろうな…?と若干の疑念が生まれるが、その人物がやってくるまでホル・ホースと過ごさなくてはならないのかと思うとため息が出る。
食事を終えて帰宅するまでの間に聞いた話によると、ホル・ホースを含める元DIOの部下達は支配者であるDIOが死んだ事で目的を見失い今はただ呆然と、残った者同士寄り添って暮らしているらしい。元々、肉の芽があるにしろないにしろ、洗脳されていた奴らや恐怖心で従っていたような奴らだ。そうなるのも仕方のない事、なのかもしれない。
「可哀想な人達…。」
思わず同情するような言葉が口から漏れ出た。しかし、彼らを見ていると私だって不安になる。私がDIOと出会った時だって恐怖で動けなかったのだ。その後は、怒りの方が勝ったためDIOに反抗的な態度を取り続ける事ができたが、他の人達はそうはいかなかっただろう。そもそも、DIOが私を殺す事はしないだろうと思っていたからできた事なのだ。今、同じような状況に陥ったら、私も屈服してしまっていただろうと思うと、彼らの恐怖心も理解できる。本当に、可哀想な人達だ。
「みょうじなまえ。オメー、どこで寝るんだ?」
「…自室じゃない事は確かね。というか、知ってどうするの?」
先ほど可哀想な奴だと感じたため少し優しくしてやろうかと思ったのだが、ついツンケンした態度で返してしまった。しかし私はこの男の一言余計なところや舐めた態度が嫌いなので、そもそもこの男の事が嫌いなのだと思う。そう考えたら、私が気を遣う義理はないのでこのまま自然な態度で接することにしよう。
「かわいくねー奴だな!雑談ぐれぇしたっていいじゃあねぇか。DIOも花京院も、オメーのどこがいいんだか。」
「なまえはかわいい。僕の女神だ。」
め、女神…!典明はホル・ホースに声が届かない事を分かっていながら、眉間に皺を寄せてそう主張を述べた。
「典明…ありがとう。」
彼の手を掴んで向き直り笑顔を見せると、彼は眉間の皺を消して柔らかい笑顔を返してくれた。眉間に皺を寄せている彼ももちろんかっこよくて好きだが、柔らかく笑う顔が1番好き。彼の瞳が、キラキラと輝く宝石みたいだから。
「はぁ…、典明、かっこいい。好き…。」
「うん。君の顔を見れば分かる。本当に、君はなんて愛おしい存在なんだ…。」
一度目を閉じて開いた典明の藤色の瞳はさらに輝きを増していて、目尻も少し下がっていて、この上なく優しさが滲み出ていて、私の脳は危うく蕩けてしまうところだった。
「へぇ、花京院にはそういう顔もするんだな。」
ホル・ホースの感心したような声を聞いて、典明は咄嗟にサッと自分の手で私の顔を隠して見せた。典明のこういうところも、大事にされている気がして、好き。
「典明は私の全てを好きだと言ってくれてる。DIOは…知らないけど、私の外見にしか興味がなかったんじゃないかと思う。あんな奴の事なんて、知らないけどね!」
そうじゃなければ、私を食糧にするなんて考えないはずだし、典明との交わりがあったと分かったとしても「殺す」なんて言わないはずだ。そう考えて、ふと思い出した。別に思い出したい記憶ではないが、DIOとの記憶だ。
彼は典明を「殺す!」と言ったあと、私にも「お前もだ!」と私を指した。しかし、殺し損ねた私を、奴は殺さなかった。数秒間、私は動けなかったのにも関わらず、トドメを刺さなかった。その後だって満身創痍の私を放っておいて、承太郎しか見ていなかった。彼は私を「殺す」と言っておきながら、本当に殺そうとはしていなかったのではないか。そう思うと、奴は心では、私に何かを求めていたのかもしれない。言葉にはしていなかった、何か。
「なまえ?何か考え込んでいるようだが、どうかしたのか?」
「…うぅん、なんでもない。」
どうしてDIOは私を殺さなかったのかなと思って、とは言えなかった。そんな事を言ったら、典明を悲しませるだけだ。
「もう寝よう、典明。承太郎、中野さん、おやすみなさい。」
部屋の中にいる2人に就寝の挨拶をし、承太郎の部屋へと歩を進めベッドへと横になった。今日は朝から気分が良くて、体調も良かったのに。典明の死の原因である、DIOの、元部下に会うなんて。そんなの、あの時の事を思い出しても仕方がないじゃないか。
今日はまた悪夢を見そうだな…と嫌な予感を抱きながら眠りにつくと、案の定夢を見た。それも、最悪な夢。