1年目
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ホル・ホースを伴い承太郎の家にやってきて数分。奴は案の定「え?一緒に住んでんの?やっぱり…。」と変に勘ぐってくるので「承太郎は私の兄だけど。やっぱりって何?」と圧をかけて黙らせた。本当、ホル・ホースというやつは、余計な一言が多い。大方、DIOをここまで恐れている理由も、口を滑らせてDIOを怒らせたからだろうと予想がつく。頭がいいフリをしているが、実は頭が悪い奴だ。
「で、テメーは花京院が見えるんだな?」
「あぁ、なんか問題でもあるか?」
別に特段問題はない。が、他の人達にも見えるという事が分かったのだ。未だ見ぬスタンド使い達にも見える可能性があるという事を示唆しており、その点は少しばかり問題ではあるかもしれない。
「…僕の声は、聞こえないだろうな?」
典明がそう呟いてみせるとホル・ホースは、口元の動きを見て「今なにか言ったか?」と首を傾げているのでやはり声までは聞こえていないようではある。
「ホル・ホース。他のスタンド使いを一人連れてきてはくれねーか?もちろん、俺達に害のない奴だ。」
「えぇ…?私、もう会いたくないんだけど…。」
承太郎の提案の意図は少なからず分かるが、嫌なものは嫌だ。しかし、私がいなければ典明も同席できないので、これは承太郎の中での決定事項なのだろう。
「断るっつーなら、テメーを今からSPW財団に引き渡すぜ。」
「ハァ…分かったよ!ったく、声なんてかけるんじゃなかったぜ…。」
本当に、ぜひともそうしてほしかった。しかし、大丈夫だろうか?ふざけた奴だが元は敵。このまま一旦帰していいのかと聞くと電話で誰かを呼び出してもらうらしく、「あぁ、その間はここに泊まってもらうぜ。」と言うので目眩がした。
「みょうじさん。お久しぶりです。」
「!中野さん…!」
私と承太郎の住む部屋へとやってきたのは、典明が入院中お世話になったSPW財団員である中野さんだった。承太郎が呼んだらしいが、ホル・ホースの滞在中に監視をしてもらうために呼んだらしく、お互い久しぶりの再会を喜んだ。中野さんとは言うが、彼はアメリカ人であり日本人の奥様と結婚した際に婿養子になったらしく、屈強な体つきに似合わない気がしないでもない。
「オイオイ、この部屋を使えってのか?どう見てもオメーの部屋じゃあねぇか。」
「なによ、かわいいでしょう?貸してやるって言ってるんだから、有難く使ってよね。」
本当はものすごく嫌だが。近頃は1人では眠れなくて、私の部屋にあったベッドは承太郎の部屋へと移動しそこで眠っている。つまり、私に宛てがわれかわいく作ったこの部屋は、今は空き部屋と化しているのだ。悲しい。そしてベッドは承太郎の部屋に移動してしまってここにないので床に布団を敷いてもらうしかないが、別に客人という訳でもないので構わないだろう。
「これは絶対に触らないで。勝手に触ったら両腕をへし折るからね。」
「オメーが言うと、冗談に聞こえねぇぜ…。」
ホル・ホースは私の言葉を聞いてやれやれとジェスチャーをしているが、冗談で言っているわけではないのだが?
「コイツは本気で言ってるぜ。気をつけな。」
承太郎のその言葉で、ホル・ホースはやっと冗談ではないと理解し「分かったよ!」と了承の意を示した。
布で隠されたあれは、私が少しずつ描いている典明の絵だ。出かける気分になれない時や描きたい気分の時に描いており、1ヶ月のうちに3枚描き終えた。何枚か描き溜めたら世に出してみようと思っていて、拘って描いた物のためとても大事に扱っているのだ。
「ねぇ承太郎。中野さんとお話してきていい?」
「あぁ、構わねぇぜ。」
許可を得て中野さんをリビングへ案内し、戸棚にあったお茶を煎れ中野さんへ出したが、緑茶で良かっただろうか?少し心配だったが問題なく飲めているのを確認でき、安心して自分の分のホットミルクに口をつけた。
「みょうじさん。…花京院さんの事はとても残念でしたが…、ご懐妊、おめでとうございます。どうしても、これだけは言いたかった…!」
「中野さん…、ありがとうございます。」
中野さんが言葉を選びながら視線を伏せて祝福の言葉をくれるので、少しだけ胸が痛みながらも、私も感謝の言葉を返した。
「…私、典明が死んじゃった事もまだ心のどこかでは受け入れられてなくて…。そんななので、エコー写真を見ても、まだ私のお腹に赤ちゃんがいるのも信じられないんです。…見る度に、驚かされてます…。」
これは本音だった。私が典明の死をきちんと受け入れられていないのは、誰がなんと言おうと、紛れもない事実だ。もうそれは、受け入れるしかない。
そして最近は、飲んでいる薬の影響かボーッとしてしまう時間が増えている気がしている。自分の事なのに頭にモヤがかかっているかのように見通しが悪く、考えが纏まらずに消えていくことも増えた。日本にいた時は希望があるように思えていたのだが、こちらに来てからは不安しか感じられなくなっている気がする。
「大丈夫です。こういうのは、時間が解決してくれます。焦るのは良くない。時間の流れに身を任せて、全てを受け入れれば、心は楽になるはずです。思い出したくない事は、無理に思い出さない。幸せだった時の事だけを思い出すんです。」
「幸せだった時…。私、典明との幸せな思い出、たくさんあります!聞いてくれますか?」
もちろんです、と微笑む中野さんはとても優しい表情を浮かべている。話している内容も相まって、まるでカウンセリングの先生のようだ。
「なまえ。僕にもたくさんあるんだ。聞いてほしい。」
「典明!」
ス、と隣に姿を現した典明も、優しい瞳で私を見下ろしている。その姿は中野さんには見えていないようだが、典明がいる事を伝えると私の時と同じく祝福の言葉を述べてくれて、喜んでくれた。やっぱり、中野さんはとてもいい人だ。