1年目
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「なまえ。問題はなかったか?」
「承太郎!見て、赤ちゃん、体ができてきてるの!」
SPW財団から鬱病の診断を受けてから、1ヶ月が経った。今日は検診のためSPW財団までやってきて、先ほどそれも終了した。気分がいい日、体調がいい日はこうして承太郎と共に外に出るようにしているので、検診にもこちらから出向いたのだ。
「…体…?全然分からねぇ…。」
「本気?これが腕で、この辺りがお腹だよ。」
もらったエコー写真を指さして承太郎に教えても、彼はじっと見つめた後諦めたように視線を外し首を傾げるので思わず典明を見ると眉を下げてはいるが微笑みを浮かべていた。
「ねぇ、典明は分かるよね?」
「もちろん。早く、顔が見たいな。」
私の隣に立ち写真を覗き込む典明に、胸が音を立てるのが分かった。彼が産まれるのを心待ちにしているのが分かったからだ。私と、典明の子供が産まれることを。
「…承太郎、お腹空いちゃった…。なにか食べて帰りたい。」
「またか。検診前にも食ったのにな…。何が食いてぇ?」
「うーん…。パスタ、かな。」
波紋の呼吸の修行を始めてから治まっていたはずの食欲が、最近になって復活してきていた。それも修行前よりもパワーアップしていて、かなりの額の食費がかかっているはずだ。承太郎はジョセフさんのお金だからと好き勝手食べさせてくれるが、なんだか申し訳ない。
「なまえが飯を食ってる時のテメーらは、幸せそうだな。」
6皿目を完食して7皿目に入った辺りで、不意に承太郎がそう零すので2人揃って目を見合せて、彼を見た。そんなの、今さらではないだろうか?
「典明が私の食事してるところを見て幸せそうな顔をするのって、旅をしていた時からだよ?」
「…そうか。知らなかったぜ。」
気まずそうに視線を下げる承太郎を見て、あぁ、承太郎は本当に私に興味がないんだな、と思った。心配や気遣いは呆れるほどするが、それ以外には別に興味がないのだろうなと思う。なんだか寂しい気もするが、私も承太郎に対してそうだったのでまぁいいかとすぐに興味を失った。
「なまえは食事の時、その小さい口を大きく開けているのに綺麗に食べるのが不思議だなと思ってたんだ。君が食べ終わった皿は綺麗で気持ちがいい。もぐもぐしている時は、リスやハムスターみたいでかわいいしな。」
「そう?意識した事はないけど、綺麗に食べられてるならよかった。」
食事シーンを自分で見る事はそうそうないから、典明に食べ方が綺麗だと言われて少し安心した。食事の最低限のマナーとして、一緒に食事している人を不快にはさせたくないなと常日頃思っているからだ。
「私は典明の大きいお口好きだよ。典明だって、大きい口を開けて食べるのに品があって、不思議。」
典明が前にパンか何かを食べている時に一口が大きくて驚いた事があるのだが、僅かに片頬を膨らませて咀嚼しているのがかわいくて仕方なかったのを覚えている。
「確かに、テメーらと飯を食って気になった試しはねぇな。育ちがいいんだろうな。」
「1番育ちがいい坊ちゃんがなんか言ってる…。」
「っはは!」
典明が楽しそうに笑い声をあげた事で、私は食事を再開した。たまにではあるが食べられない時もあるので、食べられる時に食べたいものを食べなければと、最近は意識して食事を摂るようにしている。太りにくい、いや、太らずに筋肉になる体質で本当に良かった。
「あれ?お前ら…空条承太郎とみょうじなまえじゃあねぇか?」
日本から離れたアメリカの地で名前を呼ばれるとは思わず反応が遅れたが、確かに私達を呼ぶ声に振り返ると見覚えのある男の姿が目に飛び込んできた。なぜこんなところに…!向こうも向こうで、なぜこんなところに、と驚いて目を丸くしている。
「確か……、ホル・ホース…!」
承太郎が私の前に出て背中で隠すので、承太郎の背中越しにその名を呼ぶと、彼はどうやら敵意はないらしく、ヘラヘラと笑顔を浮かべている。変なやつ。
「…なんの用?話さないと、あと数秒後には承太郎がスタープラチナでオラオラするんだからね。」
私の言葉を聞いてスタープラチナを出し拳を握るので、ホル・ホースは慌てて手を体の前で振り「用はねぇよ!知り合いに会ったから声をかけただけだ!」と必死に弁明を始めた。知り合い…。意味は合っているが、知り合いと言えるほどの関心や興味はない。よくてただの顔見知りではないだろうか。
「てか、なに?お前ら今そういう関係?花京院が死んじまったのは気の毒だが、慰めてもらってるうちに心変わりでもしたか?」
「はぁ…?承太郎、やっぱりオラオラしていいよ。」
「そうだな。」
やっぱり、このホル・ホースとかいう男、私は大嫌いだ。小心者のくせに相手を煽ったり、そのくせ相手がキレるとすぐに逃げ出したり。承太郎にオラオラされて、本当にいい気味だ。
「私は死ぬまで典明一筋よ。そこのところ、ちゃんと理解してくれなきゃ困る。」
「悪かった!分かった!分かったからもうやめてくれ!!」
血を流しながら懇願するホル・ホースを見て、承太郎はオラオララッシュの手を止めて「やれやれだぜ」とため息を零した。だけどこれで分かった。ホル・ホースは本当に敵意をもって近づいたわけではないという事が。
「それで、アメリカで何してるの?悪さしてるっていうなら、このまま第2ラウンドが始まるけど?」
「し、してねぇよ!旅行してるだけだ!」
旅行…尤もらしい理由だがとても怪しい。第一、なぜ典明が死んだ事を知っているのか。DIOが死んだタイミングとほぼ同じタイミングで死んだのだ。DIOから聞いたのは絶対にありえない。という事は、DIOの部下達と未だに交流があるのではないか?
「貴方、DIOの部下達とまだ交流があるでしょう?そうじゃないとおかしい。」
「…交流はないわけじゃあないが、主人と目的を失ってんだ。俺も含め、そんな大それたことをできる奴らじゃあない。それに、俺はもうDIOに関わるのはごめんだぜ。」
DIOの話をするホル・ホースの目は、なにかに怯えたような色を滲ませている。何があったのか知らないが、DIOについていった結果ろくな目にあわなかったのだろう。そんなの、最初から分かっていた事のはずだが。
「それじゃ、私達帰るから。もう聞きたい事は聞いたし、ついてこないでくれる?」
行こう、と承太郎の腕を取って歩き出すと、承太郎は一度ホル・ホースを睨みつけてから、足を動かして着いてきた。
「なまえ、大丈夫だったかい?」と典明が人形から姿を現して声をかけてくれたのに返事をしようと口を開くと「花京院!!?」と後ろで聞き捨てならない言葉が聞こえてくる。ホル・ホースは、典明の姿が見えているという事だ。
「…前言撤回だ。大人しくついてきてもらおうか。」
承太郎達が典明の姿が見えるのは、一緒に旅をした仲間だからだと今まで思い込んでいた。しかし、それは間違いであったと突きつけられて少しばかりショックである。承太郎はホル・ホースを連れていく気のようで、どこに連れていくのかと聞くと「家に連れていく」と言うので頭が痛くなる。なぜ、嫌いな奴を家に招かねばならないのかと。