1年目
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「わーかわいい!」
承太郎のアパートに帰ってから、リビングに座らされて1時間。私にあてがわれた部屋の窓にカーテンが付けられ、ベッドもふかふかの布団が敷かれ、カーペットや家具も完璧な位置に設置された。全て自分で選んだだけあって、とてもかわいい部屋で気分が上がる。
「はは、君によく似合ってる。むしろ、僕はここにいたら不釣り合いじゃあないか?」
「典明はどこにいたってかっこいいし、なんでも似合うよ。」
白とブラウンでナチュラルでシンプルなインテリアなので合う合わないもないだろう。むしろ、背景がシンプルなだけあって典明のかっこよさは際立っているように見える。
「?なんの話しをしとるんじゃ?」
「ジジイ、放っておけ。話が長くなる。」
いた、この部屋が似合わない人。承太郎は驚くほど、白が似合わない。と、今初めて知った。この部屋の中で、承太郎だけが悪目立ちしている。
「承太郎は、似合わないね…。」
「は…?何の話だ。」
「やっぱり典明が1番かっこいいって話。」
結局はそれだ。典明は白だって黒だって、なんでも似合う。ピンクだって似合うだろう。
「…ふ、ふふ…、痛っ!い、いたい…!」
脳内で典明の背景色を色々な色にしてニヤニヤしていたら承太郎に頬を抓られた。手を掴んで典明に助けを求めると、目を見開いたあとに昨日と同じ、怒った顔になった。怒ったところで、承太郎を止める事はできないのだが。
「は、悪いな。よう分からんが腹が立った。」
意地の悪い顔で笑う承太郎は口では悪い、と言いながらも全然離す気はなく、このままだと頬がちぎれそうである。
「じょ〜たろ〜!」
グ…と承太郎の手首を掴む力を強めるとさすがに顔を顰めてパッと手を離したが…私の頬は、腫れてやしないだろうか?
「え〜ん!典明〜!承太郎が酷い事する〜〜!」
「本当に、酷い事をする…。頬が赤くなって…。いや、君はそれでもかわいいな。」
心配してくれていたはずの典明が神妙な面持ちで、それも眉間に皺を寄せて言うので、ジョセフさんは「花京院も、なんというか…2ヶ月前と変わったの…。」と顎に指を添えた。言われてみれば確かに、最近の典明の溺愛ぶりはすごい。私の事をなんでも肯定してくれるし、すぐに私を「かわいい」と言う。悪い気はしないどころか、めちゃめちゃ嬉しいのだが。
夕食を食べたあとジョセフさんは「また来る。」と言って帰宅してしまい、各々自室で過ごしていたが特にする事がないので自然とリビングに集まった。集まりはしたが特にする事はなく、控えめなテレビの音と、スケッチブックに鉛筆が走る音だけがしばらく響いていた。
「…典明、こっち向いて。ん、綺麗。」
典明は本当に最高の被写体で、いくら描いても飽きない。正面はもちろん横顔も後ろ姿も綺麗だし、笑顔はもちろん、真顔でも綺麗な分迫力がある。それに典明は顔だけじゃなく、どこを切り取っても美しく見えるのだ。細い首に、まっすぐな肩、意外と厚みのある胸に、腕の筋肉。なにより、指が細くて綺麗。腰が細くて、お尻も小さいのに、それでいて足の筋肉もちゃんとあり、とんでもなく脚が長い。頭のてっぺんからつま先まで、彼の造形は完璧なのだ。彼は神に愛されているのではないだろうかと思ってしまうほどだ。長い事彼を見ていると、美しさの過剰摂取でため息が出てしまう。今みたいに。
「なまえ、疲れたか?」
私のため息にすぐさま反応した承太郎に、首を振って否定をする。が、疑いの目で見られたので「典明が綺麗すぎてため息が出ただけ。」と言うと眉間に皺を寄せるのでもう一度、今度は深いため息が出るところだった。そっちから聞いといてその反応は腹立つな。
「テメーは、花京院に関しては天才だな。」
「?…そう?」
どういう意味かは全然分からなかったが、典明に関する事なので普通に嬉しいので「ありがと。」と笑顔を見せる。ふ、と笑った承太郎の顔が意地悪な気がしないでもないが。
「ねぇ承太郎。明日、絵の具とか、キャンバスとか買いに行きたいんだけど何か予定ある?」
「…あるにはあるが、いい。それは明後日にしよう。」
「え、大事な予定だったらいいよ?」
何でもかんでも私の要望を受け入れられると、私も逆に頼みづらくなるのだが。しかし、典明相手だといつも気持ちよくお願いできてしまうのが不思議だ。今の承太郎と同じように、むしろそれ以上に、私の要望を何でもかんでも叶えてくれるのに。
「大事な用事や面倒な事は、全部SPW財団がやってくれるだろう。明日の予定は、別にいつでもいい。」
「あ、そっか。じゃあ、明日はお買い物ね。」
「ジジイも来るみてぇだからな。遠慮しねぇで買ってもらえ。」
承太郎は本当に遠慮がない。私も私で、別に遠慮はしないのだが、こういう時典明ならば、遠慮するだろうな、と思う。現に今彼は「君達…人のお金を使うのに抵抗はないのか…?」と呆れたような顔をしている。承太郎に聞くと「ねぇな。」と返ってきて、私からの答えも「ない。」だ。承太郎は知らないが、私は人からの好意は受け入れる事にしている。上手い断り方が分からない、というのもあるが。
「9時か…。やる事がねぇなら寝ろ。夜更かしはよくねぇぜ。」
「いや、典明を描いてるじゃない。というか、夜更かしって…9時だよ?」
承太郎は私を子供だと思ってるのだろうか?一度決めた事は変えない彼は、私の手からスケッチブックと鉛筆を奪って片付けてしまい、またしても子供のように抱き上げるのでやっぱり子供扱いされているようで不満だ。ものすごく不満。承太郎のファン達は、これを見て羨ましがるのだろうか?到底、理解できない。
「ちゃんと寝ろよ。おやすみ。」
私を布団に包んで満足した承太郎は、電気を消して部屋を出ていった。
「なまえ、子供みたいでかわいい。」
闇に包まれて表情は見えないが、きっと楽しそうに笑っているのだろう。その笑顔が想像できる。
「典明は、子供っぽい私の方が好き?」
「はは、僕は、どんな君も全部好きだよ。」
きゅん
優しい声で紡がれる甘いセリフに、頭がふわふわして蕩けてしまいそうだ。今どんな顔でそんなセリフを言っているのかを想像したらあんまりにもかっこよくて余計に脳が溶けそうだ。このままでは典明中毒になってしまう。
「典明。おやすみ。…典明の声を聞いてたら、なんだか眠くなってきたかも…。」
「うん、おやすみ、なまえ。良い夢を。」
典明の優しい声を聞いて、目を閉じる。今日は、嫌な夢を見なければいいな…、と心の中で願った。