1年目
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「なまえ…テメー…!」
「…?」
承太郎の怒ったような声が聞こえて目を覚ますととても温かくて、目を開けたら案の定承太郎の怒った顔が見えた。あれ、なんで、承太郎が同じ布団に…?ムクリと起き上がってキョロキョロと辺りを見回すと、私が昨日眠っていたベッドが隣に見えた。私が、承太郎の布団に入ったって事?全然、覚えてない。
「…君、夜中にまた泣いてたんだよ。それで、起きたと思ったら、承太郎の布団に…。」
「…そうなの…?」
どんな夢かは分からないが、いい夢ではなさそうだ。承太郎は典明がなんと言ったか聞くのでそのまま伝えると少しの間額に手を当てて逡巡し、そしてため息をついて「SPW財団に頼んで、カウンセリングを受けさせるか…。」と零した。カウンセリング…今の私に、必要なのだろうか?しかし、悪夢を見たという割にはしっかり眠れたようで、昨日のような倦怠感は消え去っている。承太郎の体温を感じて安心した、という事か。まるで子供のようだ。
「承太郎…体温何度あるの?めちゃめちゃ温かかったんだけど。」
「さぁ…37度くらいか?」
「…私と、変わらないじゃない。」
私は波紋の呼吸を使っているから体温が高いのは分かるが、承太郎は素で37度あるというので驚きだ。典明は、なんとなくだけど体温は低そうだと思ったら「君達…37度は微熱じゃあないか。」と引いていたのであながち間違いではないようだ。
「今日は買い物に行く予定だが…体調はどうだ?」
承太郎の気遣うような言葉に、自分の体調をチェックする。立ちくらみもないし、よく眠れた。身体も問題なく動く。…お腹は空いているが。
「大丈夫そう。ありがと、承太郎。」
「…そうか。」
承太郎が一瞬目を見張ったのが気になったが、この頃素直に感謝を述べていなかった気がする。彼の過保護ぶりにうんざりしていたが、それも彼なりの優しさなのだから、もう少し、感謝してもいいのかもしれない。
「今日は、ジジイも来る。たくさん買ってもらえ。」
「そうなの!?もっと早く言ってよ!」
前言撤回。やっぱり今ぐらいがちょうどいいかも。そんな楽しみな情報は、もっと早く言ってほしかった!
「なまえー!!」
「ジョセフさん!!」
2ヶ月ぶりの再会を、私達は抱き合って喜んだ。たった2ヶ月だが、今はあの時とは状況が違う。私のお腹の中には、典明との子供がいるのだ。
「久しぶりじゃのぉ、なまえ…。花京院も…。」
ヨシヨシと頭を撫でる手つきも、私と典明を見る視線も優しくて、思わず涙が込み上げてくる。私達2人の事情を知る、数少ない人物の1人なのだ。
「ご無沙汰してます。」と綺麗に頭を下げる典明を見てジョセフさんは一瞬、瞳に悲しみの色を見せたが、「花京院、お主意外とやるのォ!まさか曾孫ができるとは!」と言うので2人揃って顔を熱くさせた。「お、大声でそんな事言わないでください!!」と怒ったつもりだったが、赤い顔では意味をなさなかったらしく「スマンスマン!」と軽く流されてしまった。そうだった、ジョセフさんはこういう人だった。
「ジョセフさん!お布団はこれがいい!カーテンはさっきの白いやつにして…あっ、サイドチェストもほしいです!」
承太郎の言葉通りたくさんおねだりして、色々とジョセフさんに買ってもらった。ジョセフさんもあれは?これも必要なんじゃないか?と嬉しそうに言ってくれたので、罪悪感は全く感じなかった。承太郎も便乗して買わせていたので、典明は軽く引いていたが。
なんだかこうやって仲良く楽しく買い物をしていると、エジプトでのあの過酷な旅が嘘だったのではないかと錯覚してくる。もしそうなら、どれだけ幸せだっただろうか、と頭を過ぎったところで、考えるのをやめた。考えたって、虚しくなるだけだ。それに、「…気持ち悪い…。」
「おい、今すぐ車に戻るぞ。」
承太郎の袖を掴んで体調不良を主張すると、彼は私を子供みたいに抱き上げた。いつもの肩に担ぐ格好じゃないあたりお腹を気遣っているのだろうが、普通に恥ずかしい。ジョセフさんが「承太郎…この2ヶ月で変わったのォ…。」と驚いているのを横目に、顔を伏せた。
「おい、まだ動くんじゃあねぇ。」
「もう大丈夫だってば!ジョセフさん!承太郎が過保護すぎる!」
また、承太郎の過保護が発動した。だいたい、気持ち悪いのと胎児への影響は関係ない。承太郎もそういう類の本を読んだり聖子さんに聞いたりしているのを密かに知っている。だというのに、これを過保護と言わずになんと言う。
「承太郎…。心配なのは分かるが、なまえの言う通り、少々過保護すぎるんじゃあないか?」
言い辛そうに口を出すジョセフさんに激しく同意したが、承太郎は鋭い視線をジョセフさんへ返し「過保護で何が悪ィ?」とドスの効いた声を響かせた。
「もし何かあったら、俺は花京院に顔向けできねぇ。それに、腹の中にいるのはただのガキじゃあねぇ。コイツに残った、花京院との唯一の繋がりなんだ。それを守りたいだけだぜ、俺は。」
珍しく饒舌で、ポン、と私の頭に手を置いた承太郎を見ると、目が合ったあとに帽子の鍔を引き下げて彼は俯いてしまった。承太郎が、そんな事を思っていたなんて知らなかった。そんな分かり辛い、承太郎の優しい気持ち。
「承太郎〜!承太郎のそういうとこ好き!典明の方が何百倍も好きだけど!」
「うぐっ…!!」
感極まって承太郎を力いっぱい抱きしめると彼は呻き声をあげ、その後も「うっとおしい…。」とは言うけど振り払いはしなかったので彼の胸に頭をぐりぐりと押し付けた。彼は私にいつも素っ気ないが、たまにこうして優しさを見せるのだ。こういう、かわいい奴だった、承太郎は。
「なまえ、そろそろ離れるんだ。じゃないと、僕が泣く。」
えっ典明が!?それは困る!と急いで体を離して典明を見ると全然泣きそうな顔なんてしていなくて、むしろ嬉しそうに笑顔を浮かべていて、思わず抱きしめたくなった。
「承太郎に、ありがとう、と伝えてくれ。…僕の代わりに、なまえと、子供を守ってくれて、ありがとうと。」
「…うん。承太郎。典明が、私と子供を守ってくれて、ありがとうって。…私も、ありがとう、承太郎。」
典明の代わりに、とは言えなかくて、代わりに私からも感謝の言葉を付け足した。典明は眉を下げているが、その笑顔は変わらず優しい。
「…って事で、あと1時間はここで休んでもらうぜ。」
「待って。それとこれとは別。もう大丈夫だって。」
承太郎はすぐ調子に乗る。ジョセフさんは私達のやり取りを見て「お主ら3人は本当に仲良しじゃのォ。」と笑うので、「学生組はずっと仲良しですよ。」と2人の手を握った。承太郎はもう高校生ではなくなったが、3人でずっと仲良くしていけたなら、これほど嬉しいことはない。できることなら、ずっと3人、仲良くいたい。