第4部 杜王町を離れるまで 前編
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「へぇ、お節を手作りですか。すごいな。僕は今まで買ったものしか食べた事がない。今後なにかの参考になるかもしれない。僕にもぜひ、手伝わせてください。」
「あら、ありがとう、露伴くん。」
「……。」
近頃、露伴の意外な一面を見る事が多い気がする。初流乃と仲良くしてるのだって意外だったのに、今、聖子さんとも打ち解けている。いつもの彼はどこへやら。天邪鬼な彼はなりを潜めている。
僕もお手伝いします、と初流乃まで手伝いに名乗りを上げたので、私と典明と典親は手持ち無沙汰になった。手伝おうかとも思ったが、キッチンに大人数いても邪魔になるだけだと露伴に追い出されたのだ。彼なりの気遣い、かもしれない。
「お喋りでもして待ってようか。典親のお話聞かせて?」
それならばと私は提案した。普段あまり会えない典親の話が聞きたい。学校の事。友達の事。イギーの事。全部聞きたい。
「そういえば冬休みに入る前に、女の子に告白された。」
「…えっ…?」
告白…とは、好きとかそういう、愛の告白だろうか?典親はまだ小学生だし、まだそういうのは早いんじゃないか?いやでも、最近の子、特に女の子なんて恋やら愛やらに興味を持っていても不思議じゃない。…17歳で典親を産んだ私が言えた事ではないが。
「僕の事が好きだって言ってくれたんだけど…。ねぇ、好きってどんな感じ?人を好きになった時って、どういう風になるの?」
ついに、こういった事に関心を持ち始めたか…。いい事だと思うが、成長したなぁ、と少し寂しくも思う。
しかし…好きがどういうものか、かぁ…。きちんと教えてあげたいのに、適切な言葉が思いつかなくて思わず唸った。
「一言に好きといっても、色々な好きがあるんだ。」
私が唸っているのを横目に、典明が口を開く。こういった事はいつも、典明の頭の回転の速さに全て任せてしまうのがいい。それに私からよりも典明からの言葉の方が、典親には分かりやすいだろう。
「色々な好き?それって、同じ好きって言葉なのに違うものなの?」
「いや、違わないんだけど…そうだな…。僕は、なまえの事が好き。それは知ってるね?」
「!」
サラッと子供の前で当たり前のように私を好きだと言う典明に、思わずニヤけそうな頬を両手で包んで抑えた。もう…典明、好き!「うん。」と典親も当たり前のように答えるので、どんな顔をしていればいいのか分からない。
「ふふ…。それで、同じ好きという言葉でも、僕はなまえに、色々な感情を込めているんだ。例えば、なまえは女の子としてすごくかわいくて、魅力的だから、抱きしめたいしキスがしたいっていう、恋愛的な好きとか。」
「あ…、て、典明…。」
「かと思えばかっこいい一面もあって、尊敬や憧れの好きという気持ちもあるし…。それに、なまえは初めての友達だったから、友達としての好きもあるね。それに、家族としても好きだよ。典親となまえ、2人とも幸せにしてあげたいって思ってる。」
そんな風に思っていたなんて知らなかった。胸の奥の方が痺れるような感覚がする。そしていま典明が話した事は、全部私にも当てはまる事に気がついた。私も、典明と同じ気持ちを抱いている。
「私も、一緒…。」
ポツリと呟くと、典明は私を見てそれはそれは嬉しそうに顔を綻ばせた。あぁ、かわいい。綺麗。かっこいい。好き。大好き。愛してる。
「んー。僕にはまだ難しそう。パパとママを見てたら、いつか分かりそうだけど…。」
「はは。そうだね。僕となまえは、ずっとラブラブだからね。」
テーブルに置いた手を繋いで私の手の甲にキスをする典明はいつになく王子様で、かっこよすぎて顔に熱が集まるのが分かる。
「はぁ…もう無理…典明のかっこよさがキャパオーバー…。」
「ママ、顔真っ赤!」
典親のその指摘に、私はとうとう耐えきれずに顔を覆った。典明の優しく微笑むような声が聞こえたが、今は見られない。顔を上げられない…!
「ねぇママ。ママは承太郎さんの事好き?」
「えっ、承太郎?」
今までの話と関係があるのかないのか。典親は純粋な瞳でそう聞いてきた。昨日の事もあって少し答えづらい質問だが、答えないわけにはいかないだろう。やや間を置いてから、私は口を開いた。
「承太郎は…、ちょっと喧嘩してたんだけど…。…うん、好きだよ。男性としての魅力はこれっぽっちも感じないけど。」
「喧嘩するのに好きなの?」
「なんだかんだ言って、私からしたら承太郎は家族、だからね。家族って、どんなに酷い事されたり言われたりしても、嫌いになれないの。ほんと、ムカつく事にね…。」
本当にムカつく!目の前に典親がいなければ、テーブルを叩き割っていたかもしれない。いや、それどころか承太郎の部屋を瓦礫の山にしていたかもしれない。
しかし、それでもやはり、私は承太郎の事が好きなのだ。好きで、嫌いになれないからこそ、ムカついている。やっぱり昨日、聖子さんに気を遣わないで殴っておけば良かった。
「そっか。じゃあ、承太郎さんがママの旦那さんになるのは無理なんだね。」
「え…?」
「…典親…?」
突然の典親の言葉に、典明は体を硬くして固まってしまった。それに、ハイエロファントも出ている。典親がどういう意味で口にしたのか分からないが、このままだとエメラルドスプラッシュが出てしまうかもしれない。
「典親、承太郎は無理だよ。ごめん、私が無理。第一、私には典明っていう完璧な夫がいるじゃない。」
「うん。パパはかっこいいし、大好きだよ。だけど、僕は兄弟がほしい。よその子が、兄弟と遊んでいるのが、羨ましいんだ。」
「……。」
寂しそうに言う典親に、私も典明も思わず口を閉じてしまった。なんと、なんと答えたらいいのか、私にも分からない。それは典明も同じようで、典親を見て悲しげに目を細めるので胸が痛んだ。
「典親、僕がお兄ちゃんじゃあ不満ですか?」
「初流乃…!」
なんとも言えない空気に割り込んできたのは、意外にも初流乃だった。明るい声と柔らかい笑顔で、言葉を紡いだ初流乃は、まさしく王子様。典明の姿と重なって見えた。彼は手に持っていたお皿と箸をテーブルに置いて、典親の隣に腰を下ろした。
「初流乃くん…。初流乃くんは、僕のお兄ちゃん?でも、イタリアに行っちゃうんだろう…?」
「…そうですね。でも、なまえさんと承太郎さんだって、日本とアメリカにいるじゃあないか。」
初流乃…。初流乃……!あぁもう、なんて優しい顔で、典親に語りかけるのだ。目の前の2人はもう、完全に兄と弟の姿じゃないか。
「典親。初流乃は…私の子、だと思ってるよ。血は繋がってないし付き合いは短いけど、家族として、私は初流乃の事大好きだもの。」
「僕も、典親と同じくらい、初流乃の事が大事で、大好きだよ。」
「…はは…なんだか照れるな…。」
私と典明の言葉を聞いて、初流乃は僅かに頬を赤くしてはにかむので、愛おしさが胸から溢れ出して、2人纏めて抱きしめた。かわいい…私達の子、めちゃめちゃかわいい…!
「そっか…初流乃くんは僕のお兄ちゃん…。嬉しい…。」
典親も本当に嬉しそうにはにかむので、私はあまりのかわいさで、心臓を抑えてその場に倒れた。今、典明が子供になった時にも感じた、かわいさの暴力を受けた。
「わぁ!なまえさん!大丈夫ですか?」
「ママ、どうしたの?」
「……初流乃が戻ってこないと思ったら…君達、何をしてるんだ?」
露伴の声が聞こえてそちらを見ると、呆れたような顔で私を見下ろしていた。そして「花京院さんまで…。」と言うので典明を見ると、私と同じく胸を抑えて顔を伏せていたので彼も子供達のかわいさに心臓をやられたみたいだ。本当、似たもの同士。