第3部 杜王町 その後の物語
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あの後下着を着替えて露伴と波瑠乃の元へ行くと、露伴にじと、とした目で見られた。その目は「やったな」と言われているようで居心地が悪い。
「はぁ…今日は何を食べる?今から作るのは面倒だろう。何か頼もうぜ。波瑠乃、何食いたい?」
「うーん、鶏肉じゃなければ、なんでも。」
露伴と波瑠乃が仲良く出前のチラシを眺めているのを、一歩離れたところから眺める。なんだかこの2人、兄弟のようでとてもかわいらしくないか?
あーでもないこーでもないと話しているのを聞いていたら、どうやら2人の意見はお寿司に決まったらしく、意見を求められたのでOKを出した。何でもない日にお寿司なんて贅沢だが、たまにならいいだろう。
「露伴…あの…。」
お寿司も食べ終わって、波瑠乃がお風呂にも入り部屋に戻ったタイミングで、私は彼を呼び止めた。呼び止めたというか、彼はいつも仕事がなければ食後しばらくはここにいるのだが。緊張して、かなり小さい声で彼を呼んだので、露伴は何事かと私を見た。
「なんだ?言っとくが、僕はもう怒ってないぞ。というより、そもそも怒ってはいないが。」
露伴は、自分が怒っているから私が話しかけ辛そうにしていると思ったらしい。その気遣いに気がついて、胸の辺りがむずむずした。
「あぁ、うん。えっと、お酒、飲む?」
「は…?…じゃあ、飲もうかな。」
最近あまり飲ませないようにしていたお酒を私が勧めたので、露伴は私の行動の意図を怪しんでいるようだ。お酒を勧めたのは、ただ、私が飲みたかったからなのだが。冷蔵庫から露伴の分のビールと、自分の分の冷酒を取り出して、露伴の隣の席へとついた。
わざわざ隣に座るので、またしても露伴は私を怪しんでいる。
「あの、手を握ってもいい…?」
「構わんが…おい、本当にどうした。大丈夫か?」
露伴の手をぎゅ、と握ると、温かかった。いや、私の手が、緊張からか冷たくなっていて、突然その手に自身の手を包まれた露伴は「冷たっ!」と驚いて声を上げた。「ご、ごめん…!」と、波紋の呼吸で体温を上げようとゆっくりと深呼吸すると、すぐに手は温まり、緊張も少しだけ和らいだ。
「本当に君、どうしたんだ?さっき、花京院さんと何かあったのか?…花京院さんは?」
露伴は典明の名を連呼して疑問を並べた。典明には、露伴と話をするからと部屋に戻ってもらっている。それだけ説明すると「ふーん…そうか。」と訝しげではあったが一応納得し、ビールを喉に流した。
「それで、話って?」
少しの沈黙のあと、彼はビールの缶をコン、とテーブルに置いて続きを促した。露伴は結構せっかちだ。ダラダラと話すのは得策ではないだろう。私も自分の分のお酒をぐい、と勢いよく一口飲み込んで、とうとう口を開いた。
「露伴。私、今まであなたに甘えてたよね。露伴は、否定するんだろうけど…。まず、それを謝りたくて。」
露伴は、何も答えず、ただじっと、私の声に耳を傾けている。握った手からも、反応はない。
「露伴が、色々我慢してくれてるの分かってるのに、その、露伴の優しさに漬け込んで…今まで、露伴の意志を無視してて、ごめんなさい。」
「おい待て…。まさか、別れ話じゃあないだろうな…?」
やっと露伴が発した声が僅かに震えている気がして彼を見ると、僅かに悲しみの色が伺えて、慌てて否定をした。
「ち、違うの!え、えっと…私は、露伴との関係は終わらせたくないと思ってる。…だから、安心して…?」
私の話し方が良くなかった。だけど、こんな話、した事なんてない。しどろもどろになりながらではあるが安心させようと言葉を紡ぐと、露伴はホッとしたような表情を見せたので胸がきゅ、と締め付けられた。
「そ、それで、ね。私、気づいたの。自分の気持ち…。」
「自分の気持ち…?」
なんの事だと視線で訴える露伴と目が合って、思わず言葉に詰まった。あぁだめだ。また、緊張してきた…!私は一旦落ち着こうと、もう一度お酒をぐい、と煽った。
「私…典明が世界で1番好き…。だけど、露伴…。あなたの事も好き。…好きなの…。」
「ブッ!ッ…はぁ!?」
私がお酒を煽ったタイミングでビールを飲もうとしていた露伴は、口元にあったビールを勢いよく噴き出した。テーブルにあった布巾を露伴へ差し出すが、顔を見れない。
「待ってくれ。どうしてそうなるんだ。僕は、君からの見返りはいらないと言ったはずだぞ。」
布巾を手に取ってテーブルを拭きながら、露伴は頭を抱えている。チラ、と露伴を見ると、表情は見えないが眉間に皺が寄っているのが分かった。
「ごめん。…迷惑だった…?」
「!迷惑…?…迷惑、なわけ…ないだろう…!!」
怒ったような口調で言う露伴は、私と目が合うと視線を逸らした。怒っている訳ではなく、混乱、しているのだと思う。
「ごめん…私、露伴にも典明にも、罪悪感みたいなの感じてて。…私が…楽になりたくて言っただけ、だったね…。」
現状に不満がないという彼からしたら、いらない感情、情報だったのかもしれない。なんだか、全然上手くいかないな…と思わず頭を抱えた。
「本当…なんて事、言うんだ…君は…。」
露伴もとうとう、深いため息をついて頭を抱えだした。そして、「いつからだ。」と私に問うてきた。いつから、露伴の事を好きになったのかと。
「…分からない…けど、気がついたのは、露伴と初めてキスした時…。」
「…あぁ…あの時か…。そう、だよな…。」
露伴は、それきり黙ってしまった。なんだか居心地が悪くてお酒を何度も口にしていたら「さすがに飲みすぎじゃないか?」と心配をされた。確かに、頭の中がぐるぐると回っていて若干重くなっている。悪い酔い方をしているみたいだ。
「ろはん…。私、ほんとうに…露伴のこと、すきだよ…。」
「!おい…やっぱり…酔ってるじゃあないか。」
「ちがう…。いまは、酔ってるけど…、好きなのはほんと。」
本当なのだ。頭はぐるぐるしているが、思考はまだ働いている。この気持ちは本当なのだと、彼に伝わってほしい。そう思ったら、お酒の力も相まって、ポロポロと涙が出てきた。くそ…涙なんて、今は出てほしくないのに。
「おい…泣くなよ…。」
「ちが、泣いてない!…泣きたく、ないのにぃ〜。」
泣いてない、は、さすがに無理がある。頭を伏せて露伴から顔が見えないようにしたが、彼は「いや、泣いてるじゃないか…。」と、そっと背中に手を置いた感覚がした。
「露伴は、私に優しすぎるよ…。典明と私を見てたら、分かるでしょ。…わたし、やさしい人が好きなの…。」
「なんだ、優しかったら、誰でもいいのか。」
「そういうわけじゃ、ないけど…。露伴といると、たのしいし…尊敬できるところも、あるし…。露伴のおかげで、成長、できたところもあるし…。」
口から出た言葉に、自分でも納得した。露伴は、ただ優しいだけではないと。私は彼を、尊敬していたのだ。それは、この共に過ごした数ヶ月間で彼が私達に示した態度だったり、覚悟だったり。今思えば…と思い返してみると、どんどんと思い浮かんでくる。なんだ。私、結構露伴の事好きじゃん。
「典明はね、わたしの中の一番が、自分だったら、相手が、露伴なら…いいって言ってた…。わたしが幸せならって…。自分は……10年も前に、死んでるから、って……ッ!」
「ッ!それ、は…。」
改めて口にすると、体の内側がジクジクと痛んだ。別に忘れていた訳ではない。忘れられるわけがない。典明は、10年前のあの時、私の目の前で、死んだのだ。彼の命の灯火が消えていく様を、忘れる事なんてできない。
「わたしは…ほんとうは、典明に、生きてほしかった……。ちゃんと、守りたかった…ッ!わたしなら…わたししか、守れなかったのに…!」
ずっと、後悔していた。あの時、DIOの能力の正体が分からなかったとはいえ、もっとちゃんと考えて、動けたのではないかと。私の行動次第で、典明が今も生きていた可能性があったのではないかと。こんな話、典明にもした事がない。この話をしたら、きっと彼を悲しませて、困らせてしまうと分かっているからだ。
「…それでも、ちゃんと今、前を向いて生きている君は、偉いな。…なるほど。これが、君の強さか。」
「わたし、強くなんかない…。典明がいなかったら、わたし…ここにいなかった…!」
露伴は、前に私の記憶を読んでいるので知っているはずだ。私は、彼の死後から杜王町にやってくるまでの10年もの間、心を病んでいたのだ。その間に、死のうとした事もある。典親もいるのに、なんて最低な人間だと、自分でも思っているし、後悔している。家族を亡くした時もそうだった。私の人生、後悔だらけだ。