第1部 M県S市杜王町
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「承太郎ッ…!」
ホテルに戻ると、少し前に帰ってきたのだろう承太郎が上着をハンガーにかけているところだったが、勢いそのままに承太郎に抱きついた。
承太郎にぶつかる直前に、イギーは床へとジャンプしていたようで巻き込まずに済んだ。
「なまえ…?どうした。何があった。」
私の様子を見て何かあったと察したらしい承太郎は、私の肩を掴み椅子へと促した。が、今は承太郎と離れなくない。
「仗助、くんが…似てて…!ッ典明に…。」
それだけで理解した承太郎は「落ち着け」と優しい声で言って再び私に椅子に座るよう促した。
ゆっくり体を離すと、自分の足が震えている事に気がついた。手も、震えている。
椅子に座ると承太郎にミネラルウォーターを渡され、ゆっくり飲み込むとすぐそばに典明の姿がある事にも気づいた。
「典明…ごめん……。」
思わずそう、口から出た。…ごめん、不安になって。…ごめん、別の人に、貴方の姿を重ねて。…ごめん、心配かけて。…ごめん、助けられなくて。その全ての意味を含んだ謝罪の言葉が、つい口をついて出てしまった。
彼は私の謝罪の言葉に、悲しそうな、申し訳ないような表情を浮かべて俯いている。……ごめん、そんな顔、させて…。
「なまえ。花京院は、謝罪なんて必要としてねぇぜ。…それにだ、仗助は花京院に、似ていない。それはなまえ。お前が1番よく分かっているはずだ。……どうだ、似ているか?仗助と、花京院は。」
承太郎は私の頬を掴み、じっと私の目を見てそう問うた。仗助くんと、典明は……。
私は左手を上げて薬指にある指輪を見つめた。典明の瞳と同じ色の石。見ていると、まるで典明に見つめられているような、そんな気がする色。
チラ、と典明を見ると、眉は少し下がっているが微笑んでいる。私が両手を典明に伸ばすと彼も手を差し出し、2人の間で繋がれた。典明は優しい顔で、私の前に膝をついた。
「…典明と仗助くんは、全然、似てない。……似てないよ…。」
言葉を紡いでいると、これまで出ていなかった涙が、一気に溢れ出る。拭おうかとも思ったが、今は典明と繋いだ手を、離したくない。繋がった両手から、典明からの優しさと、愛を感じるから。
「典明…典明……。好き…大好き……愛してるよ、典明…。」
私の愛はきちんと伝わっているか不安で、思いつく限りの愛の言葉を紡いだ。彼の顔は相変わらず綺麗で、そして幸せそうな表情を浮かべていたので、私は安心して、また涙の量を増やした。
ポン、と頭に承太郎の手が乗せられたのが分かったが、私の目は、典明からは離れない。離したくない。
スルスルとハイエロファントの触手が体を登ってきて、そばにあったティッシュで優しく涙を拭ってくれた。その私に触れたハイエロファントの触手からも彼の愛が伝わってきて、胸が温かくなった。もう、落ち着いた。もう、大丈夫。
「ありがとう、典明。承太郎も。ハイエロファントも。イギーも。」
今まで気づかなかったが、イギーもいつの間にか私の足元に寄り添ってくれていたようだ。
イギーを抱き上げ、典明、承太郎、ハイエロファントも、全員まとめて抱きしめた。
「本当にありがとう。みんな大好きだよ。」
「ワフ」
返事をくれたのはイギーだけだったが、みんな優しそうな瞳をしていて安心した。
みんながいてくれてよかった。また、ポルナレフにも会いたいな、とぼんやり思った。あの旅は楽しくて、幸せだった。私の、大切な思い出。忘れたくない、大事な記憶。大好きな仲間達との、大事な記憶だ。
「仗助くん!昨日振りだね!ご一緒してもいい?」
承太郎とジョセフさんとカフェで食事しようとカフェ・ドゥ・マゴにやってくると、いつもの3人組と出くわした。いつ見ても一緒にいるなと思ったが、私達もいつも3人一緒にいたな、と過去を思い出した。
「なまえさん!昨日は大丈夫でしたか?どうぞ、座ってくださいッス!」
ハキハキと喋る仗助くんに、少し笑ってしまった。なんだ、本当に典明とは、全然似てない。
そばにあったテーブルを寄せ私達も席へ着き、各々注文を済ませた。
「岸辺露伴だけど、1ヶ月入院だって。」
と念の為伝えると3人は「へー」と興味がない様子だ。私だって、興味がない。
「てか承太郎さん!なまえさんが78キロのフランス人抱いて走ったってホントなんスか?」
仗助くんが楽しそうに承太郎に聞く。みんな興味津々といった顔だ。
「ん?…あぁ、事実だな。だがその前に、空から降ってきた俺を、身一つで受け止めていた。」
「空から、承太郎さんが!?え、承太郎さん当時体重って…。」
「95キロだ。それで確か、左足の骨が折れたんだったか。」
「左足だけ!?」
「いや…その前に、肋骨を数本折っていたはずだな。」
「その前に!!??」
「それも1週間程で完治していた。」
「骨折を1週間で!!!??」
「……。」
今日の承太郎はよく喋る。私が喋るより前に、テンポよく会話をしている。仗助くんと話すのが楽しいのだろう。珍しい承太郎の姿が見れて、なんだか嬉しくなった。話を聞いている仗助くん達も、とても楽しそうだ。
「なまえさん、最強スね…。」
仗助くんの声に視線をそちらに向けると、みんなが私を見ているのに気がついた。え、これみんなに引かれてない?大丈夫?
「承太郎!もっと私がかわいかった時の話もしてよ!」
そう言って承太郎を見るとしばし考えたのち「…ねえな」と一言。
「そんな訳ない!典明は毎日、私にかわいいかわいいって!」
「そりゃ、花京院だけだ。」
フッ、と承太郎は馬鹿にしたように笑う。その顔が10年前の承太郎を思い出させて、思わず心臓がきゅ、となった。
「あぁ〜あるぞ〜。なまえがかわいかった時。」
今まで黙っていたジョセフさんが声を上げた事で、みんなの視線が、今度はジョセフさんへと集まる。一体なんの話しをしてくれるのか、私もワクワクする。
「飛行機が海に不時着する時も、潜水艇が沈没する時も……花京院の手を取って怖い、怖いと泣いておってのぉ。それを花京院が優しく励まして……懐かしいのぉ〜。」
ジョセフさんの瞳はどこか遠くを眺めている。懐かしい。本当に。
「怖い夢を見たなまえを慰めるのは、いつも花京院か、承太郎じゃったな……。あぁそうじゃ。花京院が、なまえの手の甲にキスをした時、顔を真っ赤にさせとって……あれはかわいかった。」
そういえば、そんな事もあったな…あの時は本当に、私は彼を王子様だと思った。
「こやつら…ところ構わずキスしよるんじゃ。我々も見ないようにするのが大変」
「わーー!なんて事言うんですかジョセフさん!」
しんみりと昔を思い出していたのに、突然なんて事を…!高校生の男の子達に聞かれるのはさすがに恥ずかしい!
「だいたい、みんなが見てない時にしかしてません!」
「見てたぜ。ポルナレフなんか特に。」
「えっ!?」
10年越しの爆弾発言に、私は顔にじわじわと熱が集まるのが分かって、熱くなった頬に手を当てた。
「あー、本当だ…かわいい……。」
億泰くんのその声にさらに恥ずかしくなって顔を隠した。ら、私の手に、典明が触れているような温もりを感じた。
「花京院!」
「え!?花京院さん!?」
やっぱり、典明が人形から出てきている。
今までこの子達に旅の話をした際に名前を出した事はあるが、このおかしな状況の事は言っていない。ましてや、姿を見せたりしていない。
別に隠すつもりはないが、いったい、なぜ急に…?
「典明?」
ペタ、と典明の手を掴み振り返ると、典明と視線が交わる。優しい笑みを浮かべているが…この瞳は、どういう感情だろうか?もう片方の手も繋いでしばし見つめ合うと、やがて、理解した。
「ふふ…。典明、私のかわいい顔、人に見せたくないって。」
そうでしょ?と視線で聞くと、彼は嬉しそうに笑った。
「はえー…愛の力、ってやつか?これが。」
億泰くんが感心したようにそう呟くので「そうだよ」と笑顔で返した。
手を離すと典明は、満足したように人形の中に戻っていった。
「つーか、何その旅のメンバー…イケメンと美女しかいねえのかよ…。」
仗助くんの呟きに、2人も確かに…と納得していた。仗助くんもイケメンだと思うのだが、自覚はないのだろうか?承太郎といい典明といい、イケメンにはイケメンの自覚がないの?なんで?
「少ないけど写真あるよ。見る?」
そう言うと3人とも、見たい!と言ってくれたので3枚の写真を取り出して仗助くんに手渡した。最初は写真立てに飾っていたのだが、最近はスリーブに入れて持ち歩いているのだ。
3人はその写真を見て盛り上がっている。
「ムキムキマッチョがこんなに…!」
「承太郎さん、若い頃こんな感じだったんですね!カッコイイです!」
「なまえさん、髪長かったんだな〜。」
みんな写真を眺めながら、思い思いの感想を述べている。
「ちなみに、78キロのフランス人はコイツだ。」
承太郎はそう言い、ポルナレフを指さした。
「このムキムキの?それをこの、可憐な美少女が?」
「そ、想像がつかないね…。」
3人とも視線を上の方に向けて静かになってしまった。確かに、傍から見てどのような見てくれなのか、私にも気になる。
「でもよぉ、このなまえさん、10年前なのに、なんで制服着てるんだぁ?なんかおかしくねぇかぁ?」
億泰くんの言葉に、みんなはもう一度写真を見る。
「確かに、なまえさんは髪型以外ほとんど今と一緒だね。」
「君たち。なにか勘違いしているようだが、なまえは今、26歳だぞ。」
・・・・
「「「ええええぇぇぇ!!!!??」」」
承太郎の一言で3人はしばし沈黙し、そして驚きに声を揃えた。
「典明の愛の力で老けないの!」とかわいく言ったのだが「波紋の呼吸の力だ」と承太郎に真面目に返された。そんな真面目に答えなくても。
「やっぱなまえさん…最強スわ……。」
改めて仗助くんはそう言って、呆然と私を見つめる。あとの2人はうんうんと激しく頷いていて、私の中の乙女心がなぜか、ちょっとだけ傷ついた。