第3部 杜王町 その後の物語
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「あの、典明、…ッ!」
部屋に入るなり、典明に手を取られ壁に縫い付けられて唇を塞がれた。いつもの優しいキスとは違って、懇願しているような、縋るようなキスだ。
「なまえ、僕は、ずっと、君が好きだよ。…君だけ、ずっと。」
典明のその言葉に、さっき止まったはずの涙が流れてくるのが分かった。典明は、きっと分かっている。私が、何の話をしようと思っているのか。私の事なら何でも分かってしまう彼だから、何も驚くような事ではない。
「わ、私、は…。」
「いいんだ。いいんだよ、なまえ。泣かないでくれ。」
典明は、優しい。私には特に、一際優しい。だけど今はその優しが、私の心に罪悪感を植え付けるのだ。私は今、典明にも、露伴にも、同じ罪悪感を抱いている。
「典明、私、典明の事愛してる。世界一、愛してる。それだけは分かってほしい。」
言葉にするとなんて最低な言葉だろうか。でも、それ以外になんと言ったらいいか分からない。
「私、出会った時から死ぬまで、典明の事だけを愛するって思ってた。だけど、だけど…。」
「…なまえ。大丈夫。…露伴の事も好きなんだろう?」
私の震える体を抱きしめて、典明は優しい声色で包んでくれる。なんで、ただかわいいだけの、こんなに酷い女を、典明はずっと好きでいられるのだろうか。すぐに心を病むし、何かあると甘えてきて、自分から見ても面倒臭い女なのに。
「うん…露伴の事、私、好きになってる…どうしよう…。どうしよう…典明。」
典明に聞くなんて、酷い事だって分かっている。それでも、聞かずにはいられないのだ。私はこれから、典明にどういう風に接していけばいい。私達の意志とは関係なく、死ぬまで、死んでも、ずっと一緒にいるであろう彼に。
「君は、変わらなくていい。自分の心に素直に、生きていい。」
「典明…。だって、そんなの…!」
そんなの、私に都合がよすぎるじゃないか。典明の、彼の、幸せは…。
「なまえ。よく聞いてくれ。残酷な事を言うようだが、僕は、10年も前に死んでいるんだ。こうしてそばにいて、抱きしめて、キスして…充分すぎるほどに奇跡的で、幸せな事なんだよ、なまえ。」
「…ッ!…そ、そんなの…、ッ!」
ずるい。なにも言い返せない。だって、こうして触れられるのに。死んでいる。死んでしまっているのだ、典明は。まさかこのような形で、また典明の死と向き合う事になるなんて思ってもいなかった。
「典明、は…。典明は、それでも幸せなの?幸せで、いてくれるの…?」
私は、典明を幸せにしたい。典明以外の男の事が好きだと言った私が言っても説得力がないのは充分承知だが、典明が幸せにならないのならこの気持ちには蓋をする。典明の事を幸せにするためならば、できる。
「ふ…。この前、露伴とのキスを許した時にも言っただろう?僕はもう、覚悟を決めているんだ。本当は君を独り占めしたいけど…露伴なら許そう。君がそうであるように、僕も、君が幸せなら幸せなんだ。」
そう言いながら笑顔を浮かべる典明は、ものすごく綺麗だ。神々しさすら感じる、神秘的な美しさ。私は彼の言葉に涙を流しながら、無意識に、胸を高鳴らせた。
「わた、私っ…2人の事を、好きでもいいの?…それでも、今までみたいに、私を愛してくれるの…?」
「…もちろん。君が幸せなら、なんだって許すよ。この先もずっと。僕の君への愛は、この先ずっと、変わる事はない。」
そう言って彼は私の指に自分の指を絡めて、再び壁に縫い付けて、今度は優しいキスを落とした。触れ合った手から、唇から、彼からの愛が伝わってくる。甘く痺れるようなそれに、思わず、止まりかけていた涙が滲むのが分かる。私も、好き。大好き。愛してる。