第3部 杜王町 その後の物語
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「はぁ〜〜…。やっぱり典明はずっとかっこいいな…。」
ストーカーを無事撃退したあとしばらくして、典明は元の17歳の姿に戻ってしまった。私が暴走するからだと言っていたが、典明の姿の方がよっぽど刺激的で暴力的なかっこよさだと思うのだが。
「ねぇ露伴ー、典明ー。段階的に今の年齢にしていくのはどう?いきなりあのお色気には、私、耐えられないんだけど。」
頭では分かっていても、気持ちが着いていかないのだ。この典明が歳を取れば大人の色気が出てきて魅力が増すのは至極当然の事である。
「分かった。そうしよう。」
「全く、面倒な事をするな。」
典明と露伴の反応は正反対で、典明は優しく笑顔を浮かべているし露伴はテーブルに頬杖をついて言葉通り面倒くさそうだ。
「いやだって…!逆にもはや典明のせいでしょ。」
「君は、いつも僕を褒めすぎだ。まるで自分がものすごい色男にでもなった気になるだろう。」
「何を言ってるんだ?花京院さん、まさかまだ自覚がないのか?花京院さんはとても顔が良い。ふざけるなよ。」
私は開いた口が塞がらなかった。典明は、私が今までどんなに典明の容姿が優れているか、10年もの間言い続けてきたというのに、未だにそれを認めていないのだ。「それは君が、僕の事が好きだからそう見えるだけだ。」と言うが、それだけじゃないのだ。どうしたら、分かって貰えるだろうか。私はともかく露伴ですら呆れてしまっている始末なのだ。
「…典明の思う、イケメンって、誰なの?」
「そうだな…。波瑠乃とか、承太郎とか?」
「……。」
もう言葉も出なくて、口を閉じた。露伴も同様に黙るので「え?2人とも、整ってるだろう?」と典明は訝しげに口にするが、そういう事じゃない。どうしてその並びに、自分が入らないのか不思議でならない。
「典親も、今はかわいいけどかっこよくなるだろうな。」
トドメの一言に、ついに私と露伴は頭を抱えてため息を吐いた。自身に瓜二つな典親をそこに並べるのに、なぜ頑なに自分を除外するんだ…。
「まさか君も、自分の美貌に気づいてないんじゃあないだろうな?」と露伴が疑いの目で見てくるので「私は大丈夫。本当の本当に、世界一かわいい。」と返したら「それはそれで腹が立つな。」と眉間に皺を寄せて理不尽な事を言われた。なんだこの男。
典明は、自分自身の顔が嫌いというわけではないと思うのだが、なぜなのか、自分への評価が低すぎる。承太郎や波瑠乃をイケメンだと言う辺り、彼の美の基準は私とそんなに変わらないと思うのだが…。
「典明。典明は誰が見ても、世界一かっこいいよ。私も世界一かわいいし、私達、世界一の2人だね。」
「…君は世界一かわいいけど…。僕は、世界一ではないんじゃ「うるさい!世界一かっこいいの!」
抱きしめて優しく言い聞かせているのに未だ否定しようとする典明の言葉を遮り大声を出すと典明は体をビクつかせて動きを止めた。まさか強い口調で言われると思っていなかったのか、目を見開いて私を見下ろしているので頬を両手で包んで再度「私の典明は、世界一かっこいいの。分かった?」と言うと、ふ、と笑ってキスしてきたので本当に分かってないのかもしれない。というより、分かろうとしていない。なんだか腹が立ってきた。
「もう!キスで誤魔化さないでよ!」
「はは、かわいいな、なまえ。」
「なまえさん…もう諦めろ。君の前では花京院さんもバカになるみたいだ…。」
"も"ってなに?とは思ったが、私は典明の前だといつも「かっこいい」や「好き」しか言えなくなるので私の事を言っているのだと分かった。それは分かったが、露伴にバカと言われるのはなんだか腹が立つ!
「花京院さん、分からないところがあるので教えてください。」
波瑠乃が学校から帰ってくるなりそう言って典明を連れて行ってしまったので、私は露伴と"Tenmei"の仕上げにきた。もうほぼ完成しているその絵を見ていると、杜王町にやってきてからの事を思い出す。ここに来て、露伴と出会えたのは良い出会いだった。…出会い方は最悪ではあったが。
「今までで1番良い"Tenmei"なんじゃないか?」
大きなキャンバスから距離をとって眺めていた露伴が、不意に口を開く。私は今まで10年の間、典明の姿を絵に残してきた。作品として世に出したのは50近くあるが、アメリカにある家や空条邸に行けば、もっともっとたくさんある。色を乗せていない物も含めたら、200枚くらいは描いただろうか。
「…私も、この"Tenmei"が1番よく描けた気がする。」
その中でも特によく描けていると、自分でも思う。この町に来てから、私の中で何かが変わったのだろうと思う。それは典明も同じで、彼の覚悟や思いが、私の描いた"Tenmei"に顕れているのだ。気がついたらポロ、と涙が零れて、それから目頭が熱くなっているのに気がついた。露伴はぎょっとして「お、おい。大丈夫か?」と涙を拭くものを探しているが、その間にもポロポロと涙がどんどん溢れてくる。
「ご、ごめん…。典明と出会ってから、今までの事、思い出して…。」
グス、と鼻を鳴らしてから、露伴の見つけてきたティッシュで鼻をかんだ。こうして泣いていては、きっと典明にも伝わって、私に何かあったと心配してしまうだろう。
「露伴…。ごめん、慰めて…。」
1度、心を落ち着かせてほしい、と控えめに手を取ると「謝らなくていい。」とだけ言って黙って抱きしめてくれたので、私も彼の背に腕を回した。あぁ、また露伴の優しさに、甘えてしまっている。頭ではそう思うのに、離れられない。離れたくない。
「典明ね、出会った時からかっこよかったの。ほぼ一目惚れなの、私。最初から、ずっと私に優しくしてくれて、馬鹿力なのに、ずっと女の子扱いしてくれて、嬉しくて…。」
喋れば喋るほど、過去の記憶がどんどん思い出されて涙の量が増えていく。決して悲しいわけではないのだが、お寺に行った時の涙とも、また違う涙なのだ。どうして涙が出ているのか、自分でも分からない。どうしたら止まるのか、分からない。
「…花京院さんは、いつもかわいい君が、たまに誰よりもかっこよくなるんだと言っていた。男前な一面があると。花京院さんは君のそんなところを尊敬しているし、たまらなく好きなんだと言ってたぞ。」
「っ…、典明が…そんな事を?」
過去に、典明が告白をしてくれた時、同じような事を言っていたのを思い出した。私を尊敬していると。今の私は、10年前の私と比べて尊敬できるところなんかないように思える。身体は何倍も強くなったが、メンタルはこの10年の間にだいぶ弱くなってしまったと、自負している。
「なまえ、どうしたんだ?ほら、僕の目を見て。」
「!っ、典明…!!」
今の今まで露伴だったはずの体は、声が聞こえたと同時に典明の姿に変わっていた。波瑠乃は今、1人で宿題をしているのだと言った典明は、私の頬を両手で包んで「泣かないで、なまえ。」と優しい声をかける。至近距離で見る彼の瞳は、あの頃のように宝石みたいにキラキラしている。
「典明…私、出会った頃から今まで、ずっと好き。典明の宝石みたいな瞳も、優しい声も、笑う時に漏れる吐息も、全部好き。好き…、大好き。愛してる。」
今、やっと分かった。この涙は、典明への想いが溢れてしまったから出ているのだと。今まで無意識に溜め込んでいた彼への愛がストッパーを壊して、溢れ出てしまったのだ。
「うん、ありがとう。伝わってるよ。」
ポタ、と典明の目からも涙が零れて、私の頬に落ちた。典明を、泣かせたくないのに。でも、典明の泣き顔はものすごく綺麗だ。
好き。本当に、ずっと好き。大好き。
「僕も、君の事、ずっと好きだよ。愛してる、なまえ。」
ポタ、ポタ、と落ちてくる涙を止めたくて、少し背伸びして睫毛にキスをすると、彼はそれを大人しく受け入れた。そしてお返しとばかりに典明も体を屈めて私の瞼にキスを落とすので抵抗せずに受け入れた。もう、今のキスで涙はほとんど止まったようだ。
「どうしよう、典明…。涙は止まったけど、今、ものすごくシたい…。」
「!」
何を、とはお互い言わなかった。
ただ、涙は止まったが私の中には、まだ行き場のない彼への愛が溢れてきているのだ。既にくっついている体を、スリ、とさらに密着させると、彼の体はピク、と僅かに反応して、直後、典明が押し出された。つまり、露伴の体に戻ってしまった。
「あ…。」
「あ、じゃない!今すぐ離れろ!!」
露伴は顔を真っ赤にさせて私の肩を押すが、私の力の方が強い。
「や、やだ!キスぐらいさせてよ〜!」
「キスなんてしたら、それで終わるわけがないだろう!」
露伴の言葉に、私は口を噤んだ。キスだけで終われる自信がなかったのだ。それに露伴もきっと、我慢している。自惚れでなければ。私も、露伴を見習わなければ。まさか、露伴を見習う日がくるなんて。
ゆっくりと腕の拘束を解くと、露伴はあからさまに距離をとって、私を警戒した。その姿がまるで猫のようで、その露伴の姿をじっと見ていたら私の気持ちも少しずつ落ち着いてきた。
「あの、ごめん、露伴。」
「いい。花京院さん、なまえさんを連れてってくれ。」
未だ顔の赤みが引いていないのに「いい」とは。露伴はとことん私に優しい人で、私はとことん露伴に残酷な人間だ、と、やっぱり今になって後悔した。
「典明。典明と、話したい事があるんだけど。」
私もそろそろ、ちゃんとしなければいけない。
露伴と典明の優しさに、甘えてばかりいてはだめだ。
どうするのがいい選択なのかは分からないが、今、思っている事を、典明に聞いてほしい。そして、一緒に、考えてほしい。この先、どうするのがいいのか。