第3部 杜王町 その後の物語
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「ねぇ、なんて書いてるの?」
初流乃を学校へと送り出してから、朝玄関で拾った手紙を3人で睨みつけた。昨日のものよりも厚みがあるそれに、嫌な予感しかしない。
「うっ…これは…。」
手紙を開けた露伴がテーブルにバサ、と広げたのは、10枚ほどの写真で全てに私が写っている。所謂盗撮写真だ。
「こ、これ…!」
数ある写真の中で1枚、見過ごせない写真が目に付いた。初流乃を学校まで迎えに行った時の、かつて着ていた制服姿の写真である。なるほど、それで私の事を女子高生だと思っているわけだ。しかし、残念ながら私はもう26歳のいい大人。この姿を見られた上に写真にまで撮られているのは見過ごせない。最低最悪である。
「昨日はカフェ・ドゥ・マゴで何を食べたの?」「岸辺露伴と抱き合ってたけどやっぱり付き合ってるの?」「あんな奴より、僕の方が優しいよ」と書かれているらしい手紙を、思わず破り捨ててしまいそうになって必死に思いとどまった。これは、証拠品なのだ。解決するまでは昨日のも一緒に、取っておかなければならない。解決したら、綺麗さっぱり燃やしてしまおう。
「で、今日突撃するのか?どうせ外にいるだろう。」
「…そうだね…行こう。」
長引かせると調子に乗って何をしでかすか分からない。それに、こんなものは早く終わらせたい。私は今、初流乃も入れた4人で過ごす時間が大事なのだ。そこに不安要素があるなら、早く解決させるのがいい。
「露伴、すぐに着替えて。典明が1番かっこよく見える服に。」
そうと決まれば行動あるのみ。露伴の持っている服で典明に似合う服を選んで、27歳の姿にして、準備を整えた。
バン!
玄関のドアを勢いよく開けると、ガン!と壁にぶつかる音がしたのでもしかしたら壊してしまったかもしれない。だけどもし壊れたとしても仗助にあとで直してもらえば問題ないだろう。
あの男は…とキョロキョロ辺りを見回すと、向かいの歩道から顔を覗かせる男と目が合った。目が合った事で逃げようとする男をハイエロファントの触手が捕まえて、捕まった男は何が起こってるのか分からないという風に混乱している。
「なまえ、大丈夫か?僕から離れるんじゃあないぞ。」
これから奴と対峙すると思うと気が乗らないが、典明が私を気遣い、繋がれた手をぎゅ、と握って顔を覗き込んでくるので顔に熱が集まった。こんな時にまで困る。
「はぁ…典明、こんな時にかっこよさ出さないでよ…。かっこいい…好き…。」
「僕も君の事、大好きだよ。」
「あぁっ!!」
典明が私の頬にちゅ、とキスしたと同時に、男が声を上げる。そちらを見ると男が絶望の表情を浮かべているのが見えた。
「初めまして。なんで私が出てきたか、分かる?」
本来の目的を忘れてしまわない内にと、私から話を始める。私の問いかけに対して、男はフルフルと首を横に振った。
「あなた、私の事ストーキングしてるでしょ。迷惑なの。やめてくれる?」
「え、そそんな…ストーキングなんて…。」
奴の答えに、思わず頭を抱えた。ストーカーはストーキングしている自覚がないと聞いた事があるが、まさか本当だったとは…。
「私、10年一緒にいる恋人がいるの。魂で繋がってるのよ。」
「10年…?魂…?」
男の反応を見て、そういえばこの男は、私を女子高生だと勘違いしているのだと思い出してポケットからSPW財団の社員証を取り出した。
「勘違いしているようだけど、私、女子高生じゃあないわよ。正真正銘26歳だし、10年前に婚約してるし、なんならかわいい息子もいるの。」
「に、26歳!?息子…!!?」
特別に息子の写真も見せてあげる、と典親の写真も見せてやると途端に男は震えだし、私の隣に立つ典明を見た。写真に写る子供と瓜二つの典明の姿に、もはや言葉も出なくなったようだ。
「この人が、私の婚約者。顔は100人中100人が好印象と答えるかっこよさと綺麗さをしているのは見て分かると思うけど、笑うとめちゃめちゃかわいいの。その上ご覧の通り無駄のないいい体してるでしょ?この胸筋が最高でね。そして見た目だけと思いきや性格もいいの。誰にでも分け隔てなく優しいし、意志も強くて、内面もかっこいい。あと髪の毛も体もいい匂いするし。私の事世界一愛してて世界一大事にしてくれて、もう最高の男なの。好き。大好き。ラブ。」
「なまえ…。さすがに褒めすぎじゃあないか?…あと、胸に手を置くのはやめてくれないか。」
私が話している途中からだんだん顔を赤らめて居心地悪そうにしているのは気づいていたが、どうしても最後まで言い切りたかったのと彼の照れている顔を見ていたかったので止められなかった。胸筋の話をした辺りから自然に彼の胸に触れたつもりだったが、今ので手を掴まれて離されてしまった。チェ。
「こんな…こんな完璧な人間が、この世にいるわけ…。」
いよいよ絶望しているようなのでハイエロファントが触手を外すと、奴は地面に手をついて四つん這いになり分かりやすく絶望している。
「!露伴は…!岸辺露伴はなんなんだ!どうして露伴の家に住んでるんだ!」
もう終わりかと思っていたので、突然顔を上げて大声で話す男に思わず体が跳ねた。急に大声を出すなんて、予測ができない奴だな。
「私の大事な人よ。彼にとってもね。」
「露伴は、良い友人なんだ。」
「そう。だからね、」
ドォン!と男の目の前の地面に拳をひとつ叩き込む。暴力を振るうつもりはない。ただの牽制だ。
「露伴や、一緒に住んでる子に、ちょっかいかけるのはやめてよね。もしなんかしたら、地獄の果てまで追いかけて、お前の〇〇〇潰すからな。」
「こら!そんな事言わない!」
男は怯えたようにコクコクと頷いたので、これくらいでいいかと立ち上がり、最後に「言っとくけど、私より彼の方が強いし怒ると怖いからね。」と捨て台詞を吐いて、ようやくその場をあとにした。これで、一件落着か。家に入って、安堵のため息を漏らす。先程大きな音を立てたドアノブは、建付けは悪くなったが一応閉まるようだ。
「君、怒ると口が悪いよね。」
「うん、そうかも。でも典明、それでも私の事嫌いにならないよね?」
「はは。うん、ならないな。」
さすがは典明。もう好き。大好き。世界一好き。
だがそれにしても、だ。
「典明……その服似合ってる!!あと27歳の典明、やっぱりかっこいい!!好き!!ねぇ、体触ってもいい?いいよね?」
先程まで我慢していた典明への愛が爆発している。27歳の典明はやっぱりかっこいいオブかっこいい。コートから覗く露伴のピタッとしたインナーが、彼の体のラインを綺麗に魅せてくれて、彼の返答を待てずにペタペタと手が勝手に動いてしまう。
「なまえ…!まだ朝なのに、積極的すぎないか…?」
「だって典明がかっこよすぎる!はぁ…露伴のインナーがこんなところで役に立つなんて…!露伴ありがとう…!」
ぎゅ、と彼の胸に飛び込んで、今度は彼の背筋に手を這わせて堪能すると、急に触れていたものの質量が減ったのが分かった。顔を上げると露伴が赤い顔で私を見下ろしていて、どうやら典明が体から出たらしいと悟った。
「君、僕の体だって忘れてないか?」
「…忘れてないけど、我慢できなかった…。典明の大人の色気に、逆らえなかった…。」
ついでとばかりに露伴の筋肉も堪能していたら「いい加減離れろ!」と無理やりひっぺがされた。隣に立つ典明は呆れたようにため息をついている。
「君、どんどん変態になってないか?」
と典明は失礼な事を口にするが、私は典明と付き合い始めてから何一つ変わってはいない。元々典明の肉体が好きだった。それに、私と露伴のキスで興奮すると言っていた典明には言われたくないのだが、とは、なんとなく言えなかった。