第3部 杜王町 その後の物語
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昨日は私と典明のテトリスの死闘の後は緩くゲームを続け、典明が子供達にコツや攻略法を教えているそのさまを、私はただ微笑ましく眺めていただけだった。典明が慕われているのが嬉しくて堪らないのだ。露伴が暇そうにしていたので多少のおしゃべりはしていたが、彼が3本目のお酒を取りに行こうとしたのを全力で止めて、何とか二日酔いは回避できた。の、だが。
「なまえさん…。どうする?」
「うーん……。」
朝起きてポストを見に行こうと玄関へ来たら、玄関のドアの下に封筒が落ちていた。ポストは外にあるというのに、わざわざドアの隙間から差し込まれたそれに僅かに嫌な予感を感じながらも拾って見てみると「なまえちゃんへ」と書かれていて、私に宛てたストーカーからの手紙だと理解して思わず取り落としてしまったのだ。
「露伴、封筒開けてよ…。」
できればあまり触りたくない。露伴は嫌そうに顔を顰めたが、私の顔を見て渋々封筒を持ち上げて中を改めた。後ろからは典明も覗き込んでいて、2人の顔はみるみるうちにドン引きしてます、という顔へと変わっていった。そ、そんなに酷い事が…?
「…読むか?」
「いや、なまえには見てほしくない。」
2人の顔と、典明が額に手を当てた事で怖気付いた私は、フルフル、と静かに首を振った。典明がそう言うのなら、きっと、見ない方がいい。
軽く内容を聞くと、「昨日は君の視界に入れて嬉しかった」だとか「岸辺露伴とは恋人同士なのか」だとか「学校に行かなくて大丈夫か」「僕が勉強教えてあげるよ」などだ。誰が!アンタなんかに!!と思わず吠えそうになった。私が勉強を教えてもらいたいのは典明だけだ!!尤も、勉強を教えてもらう必要性を感じた事など1度もないが。それでも教えてもらうなら典明だと決めている!いや、決まっている!
手紙の内容はそれしか教えてもらえなかったが、私はそれで充分ムカついている。このままだと露伴の家を破壊してしまいそうだ。
「はよーっス…。……どうかしたんスか…?」
仗助と億泰が起きてきて、私達のただならぬ雰囲気を察して心配の声をかけてきた。子供達に心配をかけるわけにはいかないと、ため息をひとつ吐いて「なんでもないよ。おはよう、仗助、億泰。」と笑顔で返した。そろそろ、初流乃も起きてくる。早く、朝食の準備をしなくては。
私が動き出したのをきっかけに、典明と露伴も動き出した。子供達の前ではいつも通り振舞おう、と目で伝えて、私達は一旦、日常へ戻った。起こしに行った初流乃に「…なまえさん、なんか…怒ってますか?」と聞かれたが「怒ってないよ。」と自分に言い聞かせるように笑顔を見せた。全く…大人しくしていればいいものを…!
「ねぇ露伴。ヘブンズ・ドアなんだけどさ。」
露伴と2人、制作部屋で"Tenmei"を描きながら私は口を開いた。ストーカー相手にどうするのが1番いいのか、ずっと考えていたのである。
「典明が入った露伴って、みんなには露伴の姿に見えてるじゃない?ヘブンズ・ドアで露伴に書き込むことで、周りに、典明の姿に見えるようにできないかな?」
「…なるほど。」
いくらストーカーといえど、一般人相手にスタンド能力を行使するのは抵抗がある。これならばスタンド能力を使ってはいるが、奴に使った事にはならないだろう。
「なまえさんじゃないが、花京院さんは最強で最高の男だからな。立ってるだけで敗北感を感じるだろうな。」
「!!そうなの!やっぱ露伴、分かってるぅ!あ。」
やはり露伴は私の次に、典明の良さを分かってくれる。典明の事に関しては、本当に良き理解者だ。嬉しくてほっぺをツンツンすると、指についた絵の具が露伴の顔についてしまったのに気がついた。
「あ。じゃない。今ついただろう。」
ツンツンしていた手を掴まれて指の絵の具を確認し、露伴は軽く眉を顰めた。そしてお返しとばかりに自身の手についた絵の具を私の顔に容赦なくグリグリと押し付けた。
「待っ、私そんなにつけてないって!それにわざとじゃないじゃん!」
「はは。いいじゃないか。君は意外に美人だからな。君自身をキャンバスにして描いても良さそうだ。」
「意外にってなに!美人、でいいじゃん!一言余計!」
お互いの顔に絵の具を塗りあって、もはや"Tenmei"どころではない。作品を汚さないように無意識にお互い絵から離れながらじゃれていたら、ふと、窓の外に例の男の姿を見つけて咄嗟に猫のように飛び上がって、足元に置いてあった筆立てを倒しながら露伴の体に隠れた。ガシャーーン!と大きな音が部屋に響く。咄嗟に露伴に抱きつくように隠れたので、彼の作業着には私の顔についた絵の具がベッタリとついてしまったが、露伴は「急にどうした。」と肩に手を置いて心配してくれたので「そ、外に…。」とだけ伝えた。今、目が合った気がする…。
「…今日もいるのか…。」
露伴がため息を吐いて男の方を睨みつけると、一応去っていく素振りを見せたが…アイツは、きっとまたやってくるだろう。気づいたら近くにいるので心臓に悪い。
「なまえ、どうかした?……どういう状況?」
ドアを開けて部屋に入ってきた典明は、部屋の中の状況と私達の姿を見て首を傾げる。後ろには子供達も連れているようなので体を離すと、顔を覗かせた仗助は「…いい大人が、何してるんスか?」と呆れた顔を見せた。そういえば、私と露伴は顔中絵の具まみれだった。
「えへへ、途中から楽しくなっちゃって…。」
「大きな音がしたから心配だったんだが…これの音だったのか。 なまえは絵の具まみれでもかわいいな。」
典明がハイエロファントの触手で器用に筆立てを直して散らばった筆を拾い集めながら私をヨシヨシとかわいがるように撫で、「直後に君が怖がっているのを感じて、心配だったんだ。」と小声で続けた。わ、私が怖がっているから助けにきたって事…!?お、王子様…!!
「ふ…、大丈夫そうで安心した。」
至近距離で微笑む典明の笑顔はとても綺麗で、心臓のドキドキがうるさい。
「…花京院さん…王子様…。」
「露伴までアホになったか?」
隣で私と典明を見ていた露伴はあまりの彼の王子様っぷりに典明から目が離せなくなったようで億泰にアホ、と言われている。億泰にアホと言われるなんてよっぽどだが、今の「露伴まで」とはどういう意味だろうか?まさか私の事ではないだろうな?
「なまえも露伴も、顔を洗っておいで。お昼、食べに行くんだろう?」
典明のその一声で、私達は各々動き出した。お昼を食べて3時のおやつを食べたら、このお泊まり会は終わりになる。あの男の事は、それからだ。
今日の昼食は初流乃がまたサラダが食べたいと言うのでカフェ・ドゥ・マゴにやってきた。初流乃が希望を口にするのは珍しいので、できることなら全て叶えてあげたくなってしまう。
「なまえさんもどうぞ。」と取り分けてくれるさまは大人顔負け、というか、露伴よりかは大人に見える。思わず露伴を見ると「なんだよ、その顔は。」と睨まれたので「別に。初流乃はいい子だなぁって思って。」と嫌味にも聞こえる返答を返した。
「いつもテラス席だったから分からなかったけど、結構広いんですね。」
それに雰囲気もいい、と店内を見回す初流乃につられて、私も店内を見回した。外だとあの男に見られているのではないかと気になってしまうので中で食事する事にしたのだ。さりげなく、あの男が店内にいないか確認したが姿はなく、ホッとひと息ついた。
何事もなく食事を済ませて帰宅する途中、典明がハイエロファントの触手を先に伸ばして家の周りを確認した後に家へと入った。きちんと施錠はしていたが、念には念をだ。
「ねぇ、みんなに確認してほしいんだけど。」
帰宅後、子供達を集めて例の実験をしようと全員を集めて説明をし、いざ典明が露伴の中へ入ると、嬉しい事に露伴ではなく典明の姿が見えるとの事なので彼の手を取って喜んだ。「これで、僕も花京院さんに触れられますね。」と初流乃も顔を綻ばせて喜んでいる。上手くいって嬉しい。
「ねぇ露伴。ちなみに、なんだけど。典明を27歳の姿にできたりするかな…?」
と典明越しに露伴に語りかけると典明が出てきて、露伴は「どうだろうな…やってみよう。」とすぐさま典明の腕に書き込んだ。ドキドキと緊張しながらゆっくりと典明を見上げると「どうかな?」と同じく緊張した様子の典明と目が合って、私はあまりの衝撃にいつかのように大きな音を立てて、後ろに倒れた。
「お、おい、なまえちゃん…大丈夫かよ?」
ゴン!と頭が床に打ち付けられた音に、いつかと同じように億泰が心配してくれるが、露伴は呆れたような顔で見下ろして「どうせあまりのかっこよさに腰でも抜かしたんだろう。」と冷たく言い放つ。間違ってはいないが、そんな顔で言わなくてもよくないか?にしたって!
27歳の典明は、もともとの優しい表情に加えて大人な余裕が見え隠れして、大人な雰囲気、というより…隠しきれない色気が漏れ出てしまっている。
「無理…かっこよすぎて直視できない…!も、戻して…!」
ただそこにいるだけなのに彼の色気に充てられて心臓の鼓動が速まり、顔が熱くなってくるのが分かる。心臓がもたないので目を隠してそう露伴にお願いしたのだが典明は「ふふ、嫌だ。戻さないでくれ。もう少し、このままなまえを見ていたい。」と、私の傍らにしゃがんで顔を覗き込んでくるのでゴロゴロと床を転がった。
初流乃が「なまえさん、床、汚いですよ。」と教えてくれるが、そんな事を気にする余裕はない。もともとタイプの顔なのに、色気が増してドキドキが収まる気配がないどころか笑顔で見つめられては、鼓動は速まっていく一方なのだ。
「仗助…億泰…助けて…。」
「…花京院さん…これじゃあなまえさんが使い物にならねェんで、戻ってもらえます?」
おい待てよ、使い物にならないって言い方は如何なものかと思うのだが?
「…そうだな。少しずつ慣らして行くことにするよ。」
露伴、頼む、とヘブンズ・ドアで元の17歳の姿に戻った典明。彼は以前、一緒に歳をとりたかったと言っていたので、もしかしたら27歳の姿でいられるのなら、そのまま過ごしたいのかもしれない。そう思うと少し申し訳ない気持ちになったが、大人な典明は魅力が増していて、とてもじゃないがすぐには慣れそうにない。ここは彼の「少しずつ慣らす」という言葉に甘えさせてもらう事にしよう。